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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
1ー3:スライムと黒魔導士

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第21話 大量のスライム軍団

集合体恐怖症。

「うわぁ、ここがボサボ草原」

「静かな所でしょ。おまけに……」


 ブワッと風が吹き抜けた。

 エメラルの髪の毛が、ユラリと一気に舞い上がる。

 左手で押さえると、乱れそうになる髪を整えた。


「凄い風でしょ」

「そうだね。もしかして、形が山なりだから?」

「そうね。おかげで涼しい風が年中吹き荒れるの。ううっ、目が痒いわ」


 エメラルは目元を擦った。ドライアイなのかな?

 僕は心配して声を掛ける。戦闘中に目元を擦ってたら命取りだ。


「エメラル、大丈夫?」

「大丈夫よ。それよりオボロ、見えるわよね」

「うん……目を逸らしたいけどね」

「全くね。これ、気持ち悪過ぎない?」


 僕もエメラルもここに来た目的はスライムの大量発生の原因を調査すること。

 つまりは、スライムが大量発生している筈だ。

 だから目を背ける訳にはいかない。僕達は視線を飛ばすまでもなく、眼下に埋もれる数のスライムの群れが居ることを見過ごせなかった。


「一体何匹いるのよ」

「何匹だろう?」

「ザッと見ても千匹以上はいるわよ。こんなの、どうやって倒すの?」

「倒すのが目的じゃないよ。問題は調査でしょ?」


 僕達がここに来た目的は、スライムを討伐することじゃない。

 あくまでも調査依頼で僕達はここに来ている。

 だからスライムは極力無視したいけど……まぁ、できないよね。


「それじゃあ、倒そっか」

「そうね。一つずつ潰すわよ」


 僕は腰のベルトに差していた短剣を手にする。

 赤と青の短い刃が、それぞれ爛々と発光する。

 魔力を込めるとその熱が伝わり、僕はボサボ草原を駆け降りた。


「はっ!」


 赤と青の刃が乱れ咲く。空気を叩くように短剣を振り抜くと、スライムの柔らかい身体に触れた。

 スパッと短剣の刃が通ると、力を入れなくても切り飛ばす。

 スライムの体は生まれ以っての軟質。プルンプルンとしていて、衝撃を吸収してしまう。

 それでも耐久値は非常に弱くて、僕の軽い攻撃でも簡単に討伐できた。


「とりあえず二匹」

「あー、もう、面倒臭いわね!」


 僕が二匹スライムを倒すと、エメラルはボサボ草原の草地を跳ぶ。

 背中に携えた四尺刀をついに抜刀……することは無く、鞘のまま抜いた。

 スライムの群れを前にして、大きく横に薙ぎ払うと、鞘の表面を叩き付けられてスライム達が何匹も宙を舞った。


(はじ)けなさい!」


 エメラルがそう叫ぶと、スライム達の体の中がボコボコと泡を立てる。

 眩い青白い光が発光すると、まるで一本の糸の様に、スライム同士を繋ぎ合わせる。

 そのまま一体何が起こるのか。

 視線を釘付けにされる間もなく、スライム達は弾け飛んだ。


「えっ?」


 言葉を失った。唾を飲んじゃった。

 今のは見応えがありすぎる。まさかエメラル、魔法剣士だったなんて。

 確かに魔法を巧みに操る剣士は要るけれど、こんな派手な戦い方、普通にエンターテインメントとして華があった。


「ふぅ。いい感じね、この調子でドンドン倒すわよ」

「エメラル、今なにしたの?」


 スライムを弾き飛ばしたエメラル。

 その手慣れた動きに見せつけられると、僕はつい訊ねた。


「なにって。私の魔法よ」

「魔法? やっぱり魔法だよね!」


 よかった。変に四尺刀の能力じゃなくて。

 もしも鞘に納めた状態であんな技が使えたら、この間のゴブリン討伐の時に何で使わなかったのかってなる。

 だけどエメラル自身が魔法を使った。それを聞けて安心すると、胸をソッと撫でる。


「それにしても凄いね。雷属性の魔法?」

「そうよ。結構派手でしょ?」

「うん。ただ爆発したスライムが可哀そうだなって……うん」


 エメラルの魔法属性が雷なのは似合っている。

 何よりも派手でとにかくカッコいい。

 僕は素直に褒めるけど、内側から爆発したスライム目線からしたら、とんでもなく可哀そうだった。


「仕方が無いでしょ。流石にこの数なんだから」

「それはそうだけど……まあそうだね。僕もやろうな」


 辺りにはまだまだスライムの姿があった。

 タダの攻撃だけで全匹倒せるとは思ってない。

 ここは僕も魔法を使うか。そう思ったけど、エメラルは持っていた鞄の中から空瓶を取り出した。


「体液の採取?」

「当り前でしょ。そうじゃないと、わざわざ爆発させた意味ないじゃない」


 空瓶を手にしたエメラルは、スライムの体液を集めた。

 スライムの体液は結構いいお小遣いになる。

 美容にも良いし、色々な薬品の素材にもなるから、かなり重宝した。

 これだけスライムが居れば、純度の高い体液を集めるのも難しくない。

 エメラルはそこまで計算しているなんて、やっぱり冒険者として慣れてる。


「よし。これでいいわね」

「綺麗だね。混ざり気がなくて、かなり品質がよさそうだよ」

「そうね。さぁ、この調子でやるわよ」


それから僕とエメラルは、スライム達を次から次へと薙ぎ払った。

 僕は短剣で切り付け、エメラルは殴ったり蹴ったり、四尺刀の鞘を叩き付けたりすることで、ボサボ草原に大量発生したスライムの群れを倒して回った。


「それっ!」

「はっ!」


 僕は短剣を振り抜き続ける。

 赤と青の線が宙に描かれると、スライム達は散々に飛び散った。


 エメラルも拳を振るい、スライムを蹴飛ばす。

 その度に抑え込み切れない衝撃が掛かり、簡単に弾けた。

 魔法なんて使わなくてもいい。ただ殴る蹴るだけで、スライム達は数を減らした。


「ねぇ、エメラル」

「なによ、オボロ」

「気付いてるとは思うんだけど……うん」


 僕は言葉を詰まらせてしまった。

 ここまでただガムシャラに戦って来た。

 正直疲れてはいないけど、それ以前にこの先の見えないスライムの多さに唖然とした。


「ちょっと、これは……」

「数が多いね」


 ボサボ草原のスライムを舐めていた。

 大量発生とは聞いていたけれど、流石に多過ぎる。

 このペースで潰していても、結局キリがない。


「うわぁ……」

「まだまだたくさんいるわね」


 ボサボ草原は広い。ただ安全なだけで、何もない。

 無駄に広い面積を占めているけれど、建物を建築できる訳でもない。

 それだけ魔力の濃度が濃いから仕方が無いんだけど、僕達は今まさしく、その事実に絶句する。


 遠くまで視線を飛ばしてみると、青い塊が無数に点在している。

 僕もエメラルも、それぞれ百匹ずつは潰して回った。

 大量の体液を集めたから空瓶ももう無い。

 これ以上戦っても、美味しくなかった。


「どうする、エメラル? まだ続ける」

「そうね。続けたいのは山々だけど……」

「このままじゃ、日が暮れちゃうね」


 僕達は王都を出るのが遅かった。

 ここまでのんびり徒歩でやって来た。

 大体一時間近く掛ったけれど、そのせいもあってか、もう夕暮れ時。


 青かった空は空かみかかったオレンジ色になっている。

 このままスライムを狩り続ければ最悪、日が暮れて夜になるのは目に見えていた。

 そこまですると何日も滞在することになるかもしれない。

 僕はまだしも、エメラルの装備的に、日を跨げそうにない。


「帰ろっか」

「そうね。一旦出直ししようかしら」


 僕もエメラルもスライム討伐を一旦止めた。

 これ以上ここに残っていても時間の無駄。

 もっと火力が必要だ。僕達はそう考えると、ひとまず王都に戻った。

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