第2話 初めての王都
ディスカベルとディアレイ。
この世界と家族経営の魔王城の世界は同じ世界ではないです。
実は別の世界だけど、レイヤーとしては平行に存在しています。いつか共演させたいな。
朝から僕の気分は上がり調子だった。
空は青く澄み渡っている。雲一つない快晴。
目を閉じれば活気に溢れた人の声。舗装された道を走る馬車の車輪と蹄の音。
耳を澄まさなくも伝わるのが、僕が新しい街に来たという事実だった。
「ふんふふーん」
ついつい鼻歌を歌ってしまった。
ここまで約一ヶ月。僕は馬車に揺られて来た。
もちろんただ揺られている訳じゃない。ましてや観光でもない。
これも一つの修行であり、かつ、僕の大事な仕事だった。
「いや、オボロ君。今日は随分とご機嫌だねー」
御者台に座り、馬を巧みに操る商人の男性。
僕の依頼人で、護衛対象。そのため、こうして馬車に乗せて貰っている。
そんな男性は僕の上機嫌な態度が気になってか、声を掛けて来た。
「はい。僕、王都に来るのは初めてなんです」
僕は軽快に言葉を返した。
王都に来るのは初めてで、いつか来てみたいと思っていた。
何故ならここは王都。たくさんの人と物が集まり、この国最大の都市だから。
「へぇ、オボロ君は王都に来るの初めてなのかい」
「はい。だからとっても楽しみなんです」
それは誰が如何見たって伝わる。
僕の嬉々とした表情に、作った拳。
明らかに王都に初めて来たワクワクを抑えられない少年そのもの。
歳相応じゃないかもしれないけど、僕にとってはこれが普通だ。
「あはは、それは楽しいよね。知ってる? みんなは王都王都ってこの街を呼ぶけど、ちゃんと名前があるんだよ?」
「はい。ディスカベルですよね!」
「おお、流石はオボロ君だ。それも師匠さん達に教えて貰ったのかな?」
「はい! もう何度も冒険譚を語って貰いました」
男性に話を振られたので、僕はちゃんと答えた。
今僕達が居るのは王都ディスカベル。
分かりやすいようにみんな王都って呼ぶけど、ちゃんと名前が付いている。
しかもディスカベルって名前、もの凄くカッコいい。
この街の名前には一応由来があって、昔師匠達に教えて貰った。
それこそ師匠達が精力的に冒険者活動をしていた頃だから、ディスカベルの名前は何度も出て来ていた。だから覚えなくても自然と頭に入ってしまう。それくらい、ディスカベルって名前は僕の中で印象に濃い。
「あの、ちなみに王都って、栄えているんですよね?」
「もちろんだよ。この国の中心だからね」
「やっぱりそうですよね。ってことは、冒険者も?」
僕は依頼人の男性に私情を訊ねた。
正直僕は冒険者。やっぱり気になるのは冒険者だ。
あっ、もちろん僕は誰か特定の冒険者を知っているとか、憧れにしているとかじゃない。
そんなのは師匠達だけで充分で、単に王都が冒険者活動に適しているか気になっただけだ。
「うーん。僕はそこまで冒険者には明るくないけど、確かに周囲にダンジョンは幾つも点在しているから、栄えているとは思うよ」
「やっぱり……ちなみに、強いですかね?」
「強さは人それぞれだよ。それにオボロ君の方が詳しいんじゃないかな?」
男性は話が本当に上手だった。
商談を自分でこなすのだから当然で、会話の間が絶妙。
確かに言われてみればそうだと思わされると、一本取られてしまった。
「なんとなくですかね?」
「なんとなくか。私もそうだよ。結局人を見る目は自分自身で養うしかないんだ」
「勉強になります」
師匠も同じようなことを言っていた。
自分が強くならないと、経験を積まないと、物事を測ることはできない。
偏った物差しを使えば、最悪自分自身を苦しめることになる。
胸に刻まれている教訓の一つを刺激されると、言葉を失ってしまう。
「おっ、見えて来た……」
「見えて来たって、目的地ですか?」
ようやく僕の護衛依頼も終わる。
ここまで一ヶ月は長かったけど、普通に楽しかった。
相手は王都でも活発に活動をする商人の男性。
色々な商会ともコネがあるみたいで、たくさん勉強になった。
そのおかげか、面白い話も面白く話しも聞けたし、美味しいご飯にも毎日のようにありつけた。至れり尽くせりな護衛期間だったけど、名残惜しいがもう終わりなので、最後の瞬間まで気を抜かないよう(もちろん抜かないけど)切り替えた。
「はい、到着」
「ここですか? って、あれ!?」
馬車が止まった。窓の外には冒険者達の姿が見える。
何やら同じ建物に入って行くので、冒険者達行きつけの酒場なのかと思った。
だけどそれは違っていた。視線を上に上げると、特徴的な看板。
盾に二本の剣が×印を作っている。この形は間違いない。冒険者ギルドのマークだ。
「あの、ここって」
「オボロ君、冒険者ギルドに用があるんだろう? それならここでいいよ、護衛の依頼ありがとうね」
「……いいんですか?」
「もちろんだよ。さっ、依頼書にサインをするね」
やっぱりこの男性は優しかった。
冒険者のことを信用しない人は決して珍しくはない。
けれどこの商人の男性はちゃんと人の目を見ていて、配慮してくれるいい人だ。
丁寧に依頼書にサインを書くと、僕に手渡してくれる。
「はい、依頼書」
「ありがとうございます」
依頼書を受け取った僕は鞄の中に仕舞った。
これで本当に依頼は達成。後は報告をするだけだ。
「また機会があったら、オボロ君に依頼させて貰うよ」
「はい。依頼のご指名待ってます」
「あはは、やっぱりいいね君。本当に面白いよ!」
僕は男性の操る馬車を下りた。
ちょっとした会話だったけど、何だか心が弾んだ。
もし本当に指名依頼をして貰えるのならありがたい。そう思いつつ、男性は馬を駆る。
「じゃあね、オボロ君。暇ならうちの店に立ち寄ってよ」
「あはは、でも移動販売ですよね?」
「それもそうだね。じゃあ、また」
男性はそう言い残すと馬を走らせる。
颯爽と手綱を握り、馬に命じると、男性を信頼しているのか素早く駆け出す。
ここまでの長旅で得た疲労を一切感じさせない動きで往来を行くと、僕は最後まで見送る。
「あの、ありがとうござました!」
僕は声を張り上げた。
頭をキッチリ下げてお辞儀をすると、馬車の御者台から腕が伸びる。
親指を立てて返してくれると、やっぱり優しい人だと人の温かみに触れる。
「やっぱり、当たりの護衛依頼だったよ」
僕は馬車が見えなくなるまでその場を動かなかった。
完全に馬車が消えるまで見送ると、フッと意識を切り替える。
踵を返し、体の軸を使って向きを変えると、目の前の建物に意識を配る。
「おお、ここが王都ディスカベルの冒険者ギルド!」
僕はつい興奮してしまった。
目の前には僕達冒険者にとって、大事な集会所があった。
それこそが冒険者ギルド。冒険者になるための登録も、依頼を受けるのも報告するのも、情報を集めるも、大抵はここ冒険者ギルドで行う。
中でも王都ディスカベルの冒険者ギルドは一際大きく、冒険者の中でもより強者が集まると言われている。かくいう僕もその一人で、ここに来るのをワクワクしていた。
「王都での冒険者活動を円滑に進めるためにも、第一印象が大事。そのためにもまずは……」
僕は腰に付けた鞄をポンと叩いた。
中から紙を二枚取り出す。
そのどちらにもサインor判が押されていた。
「うん。サインもハンコも押してある。大丈夫、僕はちゃんとやり切ったんだ」
ここまでの護衛依頼も、これから行う納品依頼も無事にこなした筈。
もしかしたら至らない個所もあったと思う。
だけど師匠達に教えて貰ったことは、ある程度守った。
百%はできなくても、七十%は上手く行った筈なので、一旦深呼吸をする。
「よし、行こう」
僕は大事な二枚の紙と小さな袋を取り出すと、服の内側に仕舞った。
覚悟を決め、まずは目の前の扉を開く。
ここから僕の新しい冒険者活動が始まる。その興奮を胸の内に燃やすと、強者達の待つ冒険者ギルドの門を開いた。
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