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【狂気】生贄にされた少年、最強冒険者パーティーに育てられ、“最狂”のサイコパス冒険者になりました。  作者: 水定ゆう
1ー3:スライムと黒魔導士

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第19話 依頼にできませんか?

無理を押し倒すエメラル。

「気を付けていってらっしゃいませ」


 受付カウンターでは今日も受付嬢が冒険者達の対応に追われていた。

 長蛇ではないが、短い列が続いている。

 そのうちの一つ、丁度ネシアの前が空いた。


「ネシア、ちょっといいかしら?」


 エメラルはネシアに声を掛けた。

 普段からブレットのナンパを見兼ね、仲裁と制裁を加えている。

 お互いの仲もよく、親睦が深まっていた。


「エメラルさん、それにオボロさん。どうかされましたか?」


 他の冒険者達とは明らかに対応が違う。

 少しだけ柔らかく、柔和に感じた。

 きっとエメラルのことを信用している証拠だ。


「あの貼り紙のことなんだけど」

「貼り紙ですか? ああ、最近ボサボ草原でスライムが大量発生しているそうですね。情報が当ギルドまで通達されたので、念のため注意喚起を兼ねた貼り紙を製作し、貼らせていただいているんですよ」

「そうなんだ」


 やっぱりと言うか、丁寧なやり取りで分かりやすい。

 僕は貼り紙の謎が完璧に解き明かされると、エメラルは関係ないのか、ネシアに訊ねた。


「あの貼り紙のことなんだけど、スライム討伐の依頼って出せない?」

「えっ? エメラルさんがですか」

「違うわよ。なに勘違いしてるの?」


 いや、勘違いされてもおかしくない言い方だった。

 多分だけどネシアは、エメラルが依頼を出しに来たのかと勘違いをした。

 だけど今の言い回しだと、普通にそう捉えられる。僕だってそうだよ。

 だから変な勘違いが起きるも、すぐさま訂正し、何故かネシアは安堵する。


「そうですよね。エメラルさんに限って、そんなこと……」

「私が言いたいのは、冒険者ギルド側からスライム討伐の依頼は出せないのかって訊いてるのよ」


 随分と高圧的な言い回しだった。

 けれどこれがエメラルなので、ネシアも真摯に受け止める。

 その上で困った顔をすると、手元に置いてある資料の束を見返す。

 指弾き、超高速で目を泳がせると、顔色が強張った。


「エメラルさん、残念ながら今の所、スライム討伐の依頼はありませんね」

「そうなの。それじゃあ、ギルド側から出せないの?」

「私の一存だけではなんとも……」

「そうよね。やっぱり無理よね」


 資料の束を見ても、スライム討伐の依頼は新規で入ってはいないらしい。

 ならばと、エメラルは無茶なお願いをする。

 それは、冒険者ギルド側が改めて、冒険者相手に直接依頼を出すこと。

 そうすればスライムは討伐され、冒険者は報酬を受け取れる。その橋渡しになって貰おうと促したが、残念なことにそれは叶わない。順当な結果なんだけどね。


「エメラル、無理なら諦めようよ」

「むぅー。でも放置も困るでしょ?」

「それはそうだろうけど、ネシア。流石に無理だよね?」

「そうですね。私は一介の受付嬢ですので」


 ネシアはタダの受付嬢だ。依頼を発注する権限は持っていない。

 寧ろそんなことを勝手にすれば、とんでもないことになる。

 まず間違いなく、僕達は冒険者の資格に大きな傷が付いて、ネシアはクビの危険がある。

 そこまでの危険を負えるほど、スライムの乗った天秤は重くない。


「仕方が無いわね。悪かったわね、時間を取らせて」

「いえ、いい気分転換になりましたので、お気になさらずに」


 ネシアは本当に楽しそうだった。

 ブレットにしつこくナンパされている時とは訳が違う。

 マニュアル通りではあるものの、言葉に抑揚があった。

 ポジティブな方に跳ねていて、気分転換には充分なったらしい。


「残念だったわね。それじゃあ行くわよ」

「そうだね」


 流石に時間をこれ以上取らせるのも悪い。

 僕達は冒険者らしく、目的を終えると退散。

 受付カウンターを後にしようとしたが、そこに影が一つ入る。


「ネシア」

「あっ、ソーハ先輩。どうかされまし……」

「コレ」


 現れたのは蒼白髪の女性。

 全てに飽きてしまったような、冷たい目をしている。

 声もスッとしていて、まるで氷が走ったようなクールな声だ。


 そんな女性も受付嬢の一人なのだろうか?

 少なくとも冒険者ギルドの職員ではある。

 手には一枚の紙切れを持っており、ネシアに手渡す。


「じゃ、渡したから」


 そう言うと、受付嬢はとっとと退散。

 すぐさま受付カウンターの奥に消えてしまった。


「今の誰ですか?」

「受付嬢のソーハさんよ。ネシアの先輩で、元冒険者。ランクは知らないけど、かなりの実力者って話しよ」

「ソーハ……」


 確かに今の女性は、とんでもない気配を放っていた。

 殺気を上手く閉じ込めていたけれど、余りある。

 多分、下手に刺激したら命はない。少なくともA級以上は確実だ。


「ソーハ先輩は一体なにを? ええっ!?」

「どうかしたの?」

「はい。実は、例のスライムの大量発生に関して、冒険者ギルド側が調査の依頼を出したいと、今通達が」

「「今!?」」

「はい、今です」


 あまりにもタイミングが絶妙過ぎる気がした。

 しかもそれを持って来たのがタダの受付嬢。

 興味無さそうな素振りを見せた。おまけに元冒険者。裏があるのは確実で、もの凄く臭う。


「なんだかタイミング、見計らい過ぎじゃないですか?」

「そうですね。ですがここには確かに、〔ボサボ草原で大量発生しているスライムの調査〕と記載がされています。それから報酬に関しても、冒険者ギルド側が出すそうです」

「報酬……まあ、妥当だね」


 確かに冒険者ギルドが出す、正規の依頼書だった。

 おまけに報酬の金額も書かれている。

 まあぼちぼち。妥当な金額で、ネシアはエメラルの表情を窺った。


「どうされますか?」

「なによ、それ、こんなのって……」


 エメラルは冷静になって考え込む。

 ネシアに問われたものの、すぐには飲めない。

 それも一理あって僕はエメラルの判断を見守ると、依頼内容を冷静に端的に復唱した。


「なるほどね。調査依頼……」

「どうするの、エメラル?」

「決まってるでしょ、そんなの……」


 エメラルは迷う要素が無かった。

 差し出された依頼書を手に取ると、ネシアに答える。

 堂々と身構え、ニコッと笑みを浮かべる。


「調査依頼、受けるわ」

「エメラルさん……流石は〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスターですね」

「それは違うでしょ」


 エメラルは素早くツッコんだ。

 〈《眩き宝石》〉の凄さを僕はまだよく知らない。

 それでも、副ギルドマスターだからと揶揄されるのは、ちょっと嫌だなと僕でも思う。


「そうですね。流石は私が最も信頼している冒険者さんですね」

「それはそれで恥ずかしいわよ!」


 エメラルは顔を真っ赤にさせた。

 確かに本人を目の前にしてソレを言われたら、心がくすぐったい。

 僕だって赤面するかもしれないと、エメラルの気持ちになった。

 だけど、受付嬢に真摯になって信頼されるのは光栄なことだと僕でも思う。


「それでは気を付けてくださいね、エメラルさん」

「分かってるわよ。私を誰だと思ってるのよ?」

「エメラルさんはエメラルさんですよ」

「ふん、ネシアらしいわね」


 そんな軽口を言い合い乍ら、エメラルは依頼を受理した。

 ネシアに心配されつつも、その顔色は清々しい。

 踵を返し、早速ダンジョンに向かう姿に、僕は動かされる。

 何だか興味が湧いてしまい、ニヤリ笑みを浮かべる。


「待ってよ、エメラル」

「なによ、オボロ」

「僕も付いて行っていい? 報酬はいつもの半分でいいから」


 僕達はパーティーを組む時、必ず均等に山分けする。

 だけど今回はエメラルだけが受けた依頼に僕が付いて行くだけ。

 本当は一リル貰うことさえ悪いと思うけど、僕は四分の一でいいから貰う気でいた。


「オボロ、ちゃっかりしてるのね」

「それが生きていくってことだからね」

「はぁ……まあいいわ。ほら、付いて来るなら急ぐわよ」


 生きていくためにはその場で流されることも大事。

 僕は自分を持つと、決して譲らなかった。

 そんな姿勢にエメラルは呆れると、一緒の冒険をする。


「うん。それじゃあ行こっか」

「なんでオボロが仕切っているのよ」


 軽快なそれでいて「それもそうだね」と言わしめるツッコミを喰らった。

 だけど僕は「あはは」と笑うしかない。

 その脚で向かうのはよく分からないダンジョン。スライムの調査に向かった。

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