第18話 スライム注意報?
1ー3はスライムの話。
「ん?」
僕は冒険者ギルドにやって来た。
王都に来てからまだ一度もまともにダンジョンには行っていない。
探索の代わりにソロで依頼を受け、時々エメラルと簡易的なパーティーを組み生計を立てている。
そんな中、ふと気になるものを見つけてしまった。
やっぱり王都の冒険者ギルドは面白い。
まさかこんな貼り紙が貼り出されるなんて、正直思いもよらなかった。
「この絵、スライム?」
見つけた紙は、まるでポスターのようだった。
中央には多分だけどギルド職員が手描きで描いたスライムの絵。
端的に表現するなら線が少なくて分かりやすい。おまけに可愛い。
だけど素っ気ない感じにまとまっていて、実際のスライムをかなり誇張していた。もちろん、“可愛い”方向に振っている。
「可愛い。だけど、なんで真ん中に×印が?」
こんなにも可愛いスライムの絵なのに、何故か真ん中には大きな×印が刻まれている。
明らかにスライムに対して敵意を剥き出しにしている。
実際、スライムの体液は服を溶かしたりするから、女性は嫌うんだよね。
「もしかして、討伐依頼? でもなさそうかも」
正直ギルド職員が貼り出したポスターなら、依頼書の可能性が高い。
それこそ、特定の誰かにではなく、一種の注意喚起のようなもの。
何処の冒険者ギルドでも使う手段だけど、今回は後者の意味合いがいつにも増して強かった。
「そうみたいね。これ、注意喚起よ」
「注意喚起? スライムの?」
「そうみたいね。なになに? スライムが近くのダンジョンで大量発生しているみたい」
スライムがダンジョンで大量発生した。
その注意喚起として、貼り紙を貼る。
予想通りで、僕は真顔になる。
「ダンジョンになら、スライムはいるよね? ダンジョンだって、生きているんだから」
「問題はそこじゃないわよ」
「違うの?」
ダンジョンは生き物。僕は師匠達にそう教えられた。
だからこそ、スライムがダンジョン内で大量発生するのも分からなくはない。
恐らくは草原か、はたまた洞窟か。どっちにしても生き物なんだからと折れようとするが、問題はそこじゃないらしい。
「問題なのは、そのダンジョンが草原で、一般道の近くってこと」
「うわぁ、それは大変だね。スライムが道に乗り上げたら、馬車の車輪が取られちゃうよ」
如何やら場所は草原。問題のスライム大量発生地点は、一般道の近くらしい。
荷を運ぶ馬車や竜車も多く利用する道のようで、スライムが乗り上げると大変だ。
車輪が取られて破損する危険があり、商人としても街にとっても痛手だと思う。
「これ、依頼じゃないのが惜しいわね」
「そうだね。やっぱり広範囲だからかな?」
「その可能性はありそうよ」
今回のスライム注意喚起ポスターが、依頼だったら美味しかった。
けれど、流石にそれは無理そう。
何せ、あまりにも広範囲過ぎる。冒険者への労力と見返りを考えれば、冒険者ギルドも依頼として出すのは厳しかったのだろう。王都の冒険者ギルドなのに……
「ケチだね」
「守銭奴なのよ。冒険者が起こした問題を仲裁して補填するのも、ほとんど冒険者ギルドなんだから」
エメラルの言い分は充分理解できる。
冒険者ギルドは何かとお金が掛かる。
簡単にポンポン多額の報酬を出せる程、冒険者ギルドも甘くはない。
それは王都の冒険者ギルドとて、例外じゃなかった。
「それでどうするの?」
「どうするって?」
「この貼り紙見て、スライムを討伐しに行くの? それとも行かないの?」
単純な二者択一の質問をされた。
エメラルは僕を試しているのか、横目で見ている。
何て返すのが正解なんだろう。僕は考えた。
「そうだね」
まず、スライム自体は強くない。体液の溶解効果も、男性ならそこまで気にしない。
だから倒しに行ってもいい。素材も……純度が高ければ売値も上がる。
手軽に倒せるけど、意外にお金になる魔物。僕にとってはそんな認識で、油断はしてはいけないけど、負ける相手じゃない。
だけど注意報がわざわざ出るってことは数がとんでもない筈。
群れを成して一塊にでもなったらそれこと厄介。
上位種のカイザースライムに進化されると、波の冒険者じゃかなり苦戦を強いられる。
だから正直受けたくはない。受けてあげたいけど、依頼でもない。
こんな報酬にも直結はするけど、儲かるか分からない依頼をわざわざ受ける気にもならない。
そんなこんなで、僕の考えは決まった。
「うん、決めた。止めておくよ」
「そう。どうしてよ?」
「美味しくないから。依頼でもないのに、危険を冒す必要もないでしょ?」
「ふーん、まあ賢明な判断ね」
冒険者の性格は主に二種類に分けられる。
一つ目は慎重派。自分の力量を鑑みて行動ができる性格。
基本的に英雄には程遠いが、それでも危険管理は上手い。
二つ目は軽率派。自分の力量を見定めないで突っ走る直情型な性格。
多くの場合で名誉と武勲を得るor痛い目を喰らってそこでお終い。
バカと無謀を履き違えることも多々あるから怖いんだ。
「僕は自分の実力が分かってるからね」
「そう? 私にはそんな風には見えないけど」
「あはは、ありがとう。でも僕、エメラルが思っている以上には強くないよ」
エメラルは僕のことを褒めてくれた。
僕は「ああは」と笑って済ませるが、調子には乗らない。
痛い目を受けるのは、師匠達との修行で充分。思い出すのと同時に、目の前の貼り紙を再度見つめた。
「まあ、行かなくてもいいと思うけどね」
実際、行かないのには他にも理由がある。
スライムは常に中立的な魔物だ。
放置していても、特に危険はない。仮に踏んづけても、感覚器官が鈍いから、そもそも踏まれていることにも気が付かない。
そのせいで、基本的に魔物としての危険度が低い。
最弱の魔物として、名誉ある、箔ある称号を与えられているとはいえ、それも不名誉。
つまり相手をする必要がないから、僕は今回スルーを決めた。
「仕方が無いわね」
そう言うと、エメラルは受付カウンターに向かう。
僕は後姿を見つめると、何をするのか訊ねた。
「どうするの、エメラル?」
「決まってるでしょ? 依頼にできないか訊いてみるのよ」
エメラルは冒険者ギルドと交渉する気だ。
まさかのスライム討伐の依頼を受けるつもりらしい。
「もしかして受ける気?」
「仕方ないでしょ。誰かがやらないと、被害は出るんだもの。そんなことになったら、〈《眩き宝石》〉やお姉ちゃんに面目が立たないでしょ?」
エメラルは真面目だった。自分のためにではなく、常に誰かのために行動する。
冒険者が忘れてはいけない感覚を守っていて、カッコいいと素直に思う。
「はぁ、面倒臭い」
「やっぱり面倒ではあるんだ」
流石に溜息を付いてしまうエメラル。
実際面倒な依頼なのは変わらない。
何がって、その数だ。スライム自体は大したこと無くても、この数は幻滅する。
「待って、僕も行くよ」
僕はエメラルを追い掛けた。流石にカッコよかった。
眩しく映るエメラルの背中を追い掛け、ギルドに入っていないけど隣に立つ。
もしかしなくても、パーティーらしくなって来た? とか、僕は何だか嬉しくなった。
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