第16話 VSホブゴブリン
上位種であれ、あっという間です。
「ギャゥ!」
「ギャギャァッ!」
「ギャギャァッギャ!」
ゴブリンが次から次へとやって来る。
奇声を上げていて正直鬱陶しい。
しかも連携ができていなくて、もう倒してくださいって言ってるようなものだった。
「もう、何匹来るのよ」
「そうだね。報告と全然違う」
全然報告と違っていた。
確か十~十五匹って話だった。
だけど僕達の前には既に三十近いゴブリンが襲って来ていて、その全てを露払い程度で叩きのめした。
「これで最後よ!」
エメラルは残った一匹を倒した。
やっぱり四尺刀は抜かない。
拳で叩きのめすと、ゴブリンは死んでしまう。
「ギャウギャウギャァァァァァ!」
断末魔のように、ゴブリンは叫んだ。
その声が譫言のようで、僕は嫌な予感がする。
何かゾワッとする感覚が、微かに残った。
「今のって?」
「まさか、まだ仲間呼んだの? はぁ、面倒な事するわね」
ゴブリンはまたしても叫んだ。
多分だけどまた仲間を呼んだんだ。
流石にもう止めて欲しい。僕はそう思うけど、どのみち全部倒さないとダメだ。
「仕方ないよ。それに向こうから来てくれたら楽でしょ?」
「それもそうね。とっとと倒すわよ」
僕もエメラルも別に疲れてはいない。
だけどゴブリンは数が多いから面倒臭い。
頬を掻くと、遠くからドスンドスン! と地面を踏み鳴らす音がした。
「「ん?」」
僕とエメラルは顔を上げた。
ちょっとだけビックリはした。
だけどそれ以上に、予想がズバリと的中したから、冒険者の勘が鋭くなっていることに嬉しくなる。
「今のって、ゴブリンだよね?」
「そうね。けどこの気配……少しだけ、強めね」
「そうだね。ってことは、上位種?」
魔物の中には上位種が存在している。
大抵は通常の魔物が進化した姿。
見た目は大体同じだけど、進化前の魔物よりも強かったりするのが普通だ。
「ゴブリンの上位種、ってことは」
もうここまで来たら想像できる。
ゴブリンが仲間を呼んだんだ。つまり、ゴブリンの上位種が来る。
草木を掻き分け、地面を踏み鳴らし、少しだけ強めの気配を放つと、薮を超えて僕達の前に姿を現わしてくれる。
「ゴブラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
薮の中奈から見えたのは、大きな魔物の影。
僕とエメラルが迎え撃つと、その魔物は堂々としている。
そこまで知能は上がっていないのか、特に作戦もなく、目の前に立つ。
「ホブゴブリン?」
「変ね。ホブゴブリンがいるのに、住処を追われるなんて」
僕もエメラルも慣れ切っていた。
目の前に現れたのは、ゴブリンの上位種の一つ。ホブゴブリンだ。
体色がまず緑色じゃない。少し赤みが掛かっている。
手には棍棒を持っていて、かなり物騒だ。
明らかに普通のゴブリンとは違うんだけど、何よりも大きさに目を奪われる。
「やっぱり大きいね。三メートルくらい?」
「そうね。私たちはチビだから、余計に大きく見えるわ」
確かに僕達は背が低いから、当然見上げるしかない。
そのせいで、本来の大きさとはまた違った迫力になる。
普通の冒険者よりもずっと得体のしれない影の恐怖に怯えると、身が竦んでしまいそうに……はならなかった。
「まあ、関係無いわね」
「そうだね。倒せばいいんだから」
ホブゴブリンなんて、C級が苦戦するような魔物じゃない。
せめてD級が定石で、僕達の相手にはならない。
まぁ、エメラルのランクは知らないんだけど。
「ちなみにエメラルって、何級だっけ?」
「今更訊くの?」
「うん。今更だよ」
絶対に今じゃないタイミングだった。
だけど如何しても気になったから、改めて訊ねておく。
すると面倒そうにしつつも、エメラルは真面目。ちゃんと答えてくれた。
「Bよ。私のランクはB級」
「B級!? エメラルの実力で!?」
僕は声を上げてしまった。
しかしエメラルは唇を尖らせる。
もしかして不満だったのかな? 謝ろうとする僕に、エメラルは違った答えを出す。
「私なんて、所詮B級なのよ。上にはもっと上がいる。だからこんな所で負けてられないわ」
「カッコいい……」
「また茶化さないでくれる? それより行くわよ、オボロ」
冒険者としての格を見せつけられた。
真面目でカッコいい冒険者。まさしくヒーロー。
余計にそんな造形が形になる。
けれどエメラルは反応が違った。別に茶化して無いけど、エメラルの顔が赤い。
ただカッコいいだけなのに、恥ずかしいのかな?
僕には分からなかったけど、エメラルには随分と響いたらしくて、すぐに話を変えた。
「任せてよ。僕はなにをしたらいい?」
「動きを止めてくれるかしら?」
「動きを止めればいいんだね……それじゃあ、トドメは任せたよ」
パーティー戦において、それぞれの役割は大事だ。
まず僕の役割とエメラルに訊ねると、動きを止める様に指示された。
僕は任されると、頭の中でイメージを形にする。けれどトドメの一撃はエメラルに任せることになるが、余計な心配だったらしい。
無駄口を叩いてしまうも、エメラルは不敵な笑みを浮かべた。
「ったく。任されたわよ!」
僕より三歩遅れてエメラルは走り出す。
地面を蹴り出すと、後ろを追い掛ける音がする。
パンパンと地面を跳ぶと、僕はミスが許されなくなった。
「ミスはしないよ。だって、任されたんだからね!」
だけど僕は自分自身が作り出した不安の影を切り取る。
改めて短剣を握り直すと、ホブゴブリンに攻撃を仕掛けた。
もちろん、ホブゴブリンも手にした棍棒を振り上げた。
「ゴブラァァァァァ!」
倒された仲間のために、仇討ちを試みる。
そんな背景が思い浮かぶけど、僕達にだって負けられない理由がある。
冒険者は生きるか死ぬか。そんなの……面白いじゃんか。
「遅いよ!」
僕は振り上げられた棍棒が、振り下ろされるよりも速く動く。
地面を蹴り上げ高く跳び上がると、短剣を十字に組む。
空気を叩き、刃を形成するようにイメージすると、鋭い赤と青の形無い刃が、ホブゴブリンの棍棒を襲った。バキッ! と鈍い音がどんよりと悲鳴を上げた。
バッキーン!
「ゴブラッ!?」
僕は棍棒をへし折った。
上半分をスライスされ、生ハムの原木みたいになった棍棒が、音を立てて崩れる。
地面に落ちると衝撃でバラバラに崩れ去り、せっかくの武器を、ホブゴブリンは失った。
「よし、後は動きを止めるだけ!」
武器が無くなったら怖い物はない。
僕はホブゴブリンの腕と足を短剣で切り付ける。
スパスパスパスパと気持ちよく切り刻むと、ホブゴブリンの体液(血液)が噴き出た。
「ホブゴブラッ! ギャッァァァァァァァァァァァァァァァ!」
痛みに苦しむホブゴブリン。
瞬く間に腕と脚をボロボロにされ、まともに動けなくなった。
白い牙を剥き出しにし、ただでさえ赤み掛かった体が、余計に赤々となる。
相当なダメージになったみたいで、ホブゴブリンは今にも倒れてしまいそう。
のけ反る体がフラフラし始め、僕は頃合いと見た。
「今だよ、エメラル!」
僕はエメラルに叫んだ。
重力に身を任せて地面に着地すると、背後から蹴り込んだエメラルの姿がある。
「って、私の出番要らないじゃないの!」
エメラルは不満を零しながら、ホブゴブリンの顔に渾身の蹴りを入れた。
靴の裏がホブゴブリンの顔面を捉える。
バキッ! と白い牙を破壊し、体重移動を利用して地面に押し倒すと、そのまま顔面を陥没させた。
「ゴ、ブラッ……」
ホブゴブリンはピクリともしなくなった。
完全に絶命してしまったのか、目を閉じている。
魔物だって生き物だ。顔面が陥没したら、流石に死んじゃう。
自分じゃなくてよかったと思い、身が竦む思いになる。
「無事に倒せたね」
「そうね。多分これで終わりよね?」
「うーん、魔物の気配はしないかな?」
僕達は無事にゴブリンの群れを倒した。
多分ボス格のホブゴブリンも撃破できた。
これで依頼は達成の筈。周囲から、魔物の気配はしなかった。
「そう。それじゃあ安心して帰れるわね」
「その前に、素材を取ろうよ」
「……ゴブリンの素材って、美味しくないのよね」
「確かに。ゴブリンの素材は、あんまり売れないもんね」
ゴブリンの素材は安い。何せ役に立たないから。
それでもせっかく倒したんだ。美味しくなくても、ゴブリンの素材を剥ぎ取る。
単純作業の中、ふと僕はここまでずっとモヤモヤしていたことを、改めて口に出す。
「それにしても、どうしてゴブリン達はここにいたのかな?」
「知らないわよ」
「知らないけどさ……どうする、もう少し調べてみる?」
ここまで来たんだ。もしかすると、ゴブリンの残党が残っているかもしれない。
恨みを買うと厄介だから、できれば全滅させたい。
僕は一応エメラルに提案してみると、もちろん乗ってくれた。
「そうね。ナパナパ森に用はないから、周囲を調べてもよさそうね」
「ありがと。それじゃあ早速行こっか」
「分かってるわよ。にしても、ゴブリン達はどうして……」
「こんな所にいたのかな?」
結局の所、それだけは分からなかった。
だけど僕達は何か手がかりがあるかもしれない。
冒険者として、一応周囲を見回ることにし、もう少しだけ探索を続けた。
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