第12話 是非、お願いしたい依頼
オボロ、二日目にして気に入られる。
「まさかあの〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスターに出会えるなんて、光栄だよ」
「な、なに、気持ち悪いんだけど」
僕はつい記憶を辿っていた。
シークランに教えて貰ったことは本当だった。
実際に僕はこの目で〈《眩き宝石》〉のメンバーの一人に出会った。
副ギルドマスターのエメラル。その実力は本物で、間違うことない冒険者だった。
「ごめんなさい。純粋な興味だよ」
「本当に気持ち悪いんだけど……」
エメラルは僕の顔色や言動を訊いて、完全に拒絶反応を示していた。
だけどそう思われても無理はない。
僕もヤバい奴って自覚があったから、頑張って訂正する。
「ごめんなさい。ただ、王都には凄腕の冒険者集団があるって聞いて、目標にしていたんだよ」
「目標?」
「うん。特に僕の友達の受付嬢から聞いた話で、僅か十六歳で王都最強の一角、〈《眩き宝石》〉の副ギルドマスターがいるって話」
僕にとっては、同業の冒険者であり、同い歳ってこともあった。
だから身近な目標。一度会ってみたいし、話してみたい。戦ってもみたい。
そんな風に思っていた相手と、まさかこんなにも早く出会えるなんて、幸運以外の何物もでもない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。それって……」
「エメラルのことだったんだね。さっきブレットを楽々転ばしていたのを見て、確信したよ」
エメラルは何かを察する。いや、エメラル程の実力者が察せられない訳がない。
完全に自分のことを言っていると気が付き、頭から湯気が立ちそうな程、全身が熱くなる。
「いや、あれは、その……いつものことで」
「本当、カッコよかったよ。冒険者の鑑、まさに一般人のヒーローだよね」
「ちょっと、止めてよ。私、そんな想いで人助けしてる訳じゃなくて……」
僕はとにかくエメラルのことを讃えまくった。
間違いなく、エメラルのやっていることは、典型的な冒険者の根っこの部分。
完全に一般人のヒーローで、正真正銘、冒険者の鑑。
一体何を恥ずかしがるのか。エメラルはムキになる。
おまけに顔が真っ赤になると、口元がたどたどしい。
今にも舌を噛んでしまいそうで、エメラルは舌が回らない。
「私はただ、冒険者の前に一人の人間なの。自分が嫌だと思ったことは、真っ向から否定するだけ。それのなにが悪いのよ!」
「メッチャクチャ、カッコいじゃん……」
「はい!」
「「「うんうん」」」
エメラルは人差し指を突き付けた。
冒険者である前に一人の人間。それを忘れないようにするためか、自分が嫌だと思うことは、真っ向から否定する。そんなの、普通の人にはできっこない。
エメラルだからこそ、間違えたくないからこそ、自分を突き通しているんだ。
そんなの聞いたら、僕もネシアも周りの冒険者達も、全員含めて首を縦に振る。
あまりにもカッコいいい。カッコいい以外の何物でもない。
だけどエメラルは本当に恥ずかしいのか、顔が真っ赤だった。
「な、なによ。私の人格否定でもしたいの?」
「そんなことないよ。僕はただカッコいいと思っただけで……」
「はぁ。なんだか興味が薄れたわ」
エメラルは僕に対する興味を失った。
完全にではないかもしれないけど、ほとんど面倒な奴な認識を受けた。
正直、ここまでな顔をされるとは思わなったけど、まぁ仕方が無い。
「ごめんなさい、エメラル。僕も悪気は無くて……」
「それは分かったわ。貴方の人間性もね」
「人間性?」
僕は気を悪くしたと思った。
エメラルに謝ると、別に怒ってはいないらしい。
代わりに僕の人間性が分かったと豪語した。
「そうよ。オボロ、貴方は素直な人間ね。自分の道を探そうと足搔いて、苦しんでる。それでも見えた光を見失わないように、今を生きてるって感じがするわ」
僕はポカンとしてしまった。
とは言え、エメラルには僕がそんな風に見えたらしい。
確かに僕は生きることが辛かった。それでも生きたいと願った。
だから師匠達に出会って、今があって、必死に消えそうな光を追い掛けてるのかもしれない。その性かな、ふと笑ってしまう。
「うわぁ、なんだか当たってる気もする」
「当たってるのよ。ってことで、これくらいでいいかしら? ネシア、悪いけどオボロはうちのギルドには誘えないわ」
「そうですか……エメラルさんとの相性はよさそうに見えたのですが?」
僕は当たってる気がした。だけど全部を肯定するのは恥ずかしいから、一応否定もしておく。
エメラルにはそんな僕の嘘なんて一発で見破られちゃったけど、それはそれで面白い。
そんな感想を言うまでもなく、エメラルはネシアと話していた。何の話かは分からないけど、如何やら僕はフラれてらしい。
「はっ。そんなの分からないでしょ?」
「私も冒険者の方々の相手をするだけの、受付嬢ではありませんよ?」
「それじゃあ私は行くわね。今日は依頼を受ける気分が乗らないわ」
そう言うと、エメラルは受付カウンターを後にする。
未だに床に突っ伏して放置されたブレットの横を通る。
その脚で冒険者ギルドさえ後にしようとするが、エメラルが帰るのを妨げた。
「あ、あの……」
突然ネシアが手を挙げた。
もの凄く小さく、恐縮そうで、エメラルはすぐさま気が付くと声を掛ける。
「どうしたのよ、ネシア?」
「実はですね。エメラルさんにお願いしたい依頼がありまして」
如何やら依頼の受注らしい。
エメラルに引き受けて欲しいとなると、よほど信頼を寄せられているからだ。
やっぱりエメラルは格が違うヒーローだなって、僕は思う中、エメラルはもちろん了承する。
「依頼? 別に構わないわよ」
「よかったです。あの、できればオボロさんも、依頼を引き受けてはいただけませんか?」
「別にいいよ。でも、エメラルと一括りってこと?」
「はい。今回の依頼、少し数が多いので、多くの冒険者の方に手を貸して頂いているんですよ」
エメラルだけかと思ったら、まさかの僕にも依頼を振られた。
如何やら相当大きな事件でもあったみたいで、依頼が立て込んでいるらしい。
たくさんの冒険者にも協力をして貰っている。だからこれだけの人が居るんだ。
「なるほどね。受付嬢の子達が忙しそうなのはそう言う……ふーん」
「あの、お願いできますか?」
ネシアは不安そうだった。
ここまで一悶着は無かったけれど、僕と一括りにまとめられている。
もしかすると気を悪くしたかもしれない。エメラルの機嫌を損ねるのだけは避けたいみたいだ。
「別に構わないわよ。私は大抵の冒険者とは、パーティーを組めるから」
「ありがとうございます。ではオボロさんもいいですね?」
「うん。僕はほとんどソロだったけど、足手纏いにならないように頑張るよ」
エメラルは腰に手を当て、にこやかな笑みを浮かべる。
その様子にネシアは安心と安堵を得たのか、ホッと胸を撫でる。
かくして僕もパーティー戦はほとんど経験がない。ソロだったせいだと痛感する。
とりあえずまだパーティーを組む系とは決まってないから、依頼の内容に耳を傾けることにした。
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