第1話 生贄にされた少年
初めましての方は初めまして、水定ゆうです。
名前だけでも覚えて貰えたら幸いです。
まだ期間があったので、他コンテストと並行して、ネトコン13に応募してみました。
アルファポリスで投稿していた作品をベースに、加筆修正を加えてカクヨムで連載していた作品です。既に完結済みなので、安心してお読みください。
とりあえず、23日までは1日5話投稿します。
19時台から〜23時台までです。
8月中には投稿は終わりますので、気長にお待ちください。
もしかすると2章を書くかもしれません。
その際はよろしくお願いします。
ぜひ、感想・ブックマーク・★を付けてもらえたら幸いです。お願いします。
月明かりさえない真夜中。
森の中にヒッソリと佇む小さな村がある。
人口は百人にも満たない。完全に孤立し、人里離れた集落で、今夜祭りが開催されていた。
「数年に一度の祭りだ。皆の者、血潮をたぎらせ、存分に腕を振るい、祭りを楽しめ!」
村長らしき老爺が高らかに宣言した。
すると異様な格好をした村の人達が拳を振り上げる。
その手には剣や槍、弓に至るまで、ありとあらゆる武器を構えている。
些か物騒過ぎる祭りに、僕は参加していた。否、参加させられていた。
「ううっ、なんとしてでも生き残らないと」
僕の暮らす村では数年に一度、五歳になった子供が出た時だけ執り行われる特別な祭りがあった。
もちろんこの村だけに伝わる伝統のようなもので、所謂鬼ごっこ。この村では狩りと呼んだ方が正しいかもしれない。
ルールはとっても簡単だ。
まず鬼は武装して、総出で子を追い掛ける。
子は鬼に捕まらないように、朝が来るまで逃げ続ける。
それじゃあ何をしたら鬼は勝ちなのか。
もちろん子を殺すこと。それができれば鬼側の勝ちで、子を殺した人は村で祀り上げられて、この村の中心人物として担ぎ上げられるのだ。
それなら子はどうなるのか。もちろんのこと、護身用の武器なんて無い。
両手を縛られ、朝日が少しでも顔を出すまで息を殺して耐え続ける。
見つかったら最後、狂ったような目をした大人達に取り囲まれて、惨殺される。
見事逃げ切ることができれば、晴れて村の一因になれるそうだけど、ここ数年生き残った子供はいない。何故なら助かっても殺される運命だからだ。
だから僕は絶対に生き残らないといけない。
この村で暮らすためにも、自分を守るためにも、何としても今日を乗り越えないといけない。朝日が昇るまでの辛抱、僕は先に森の中に入ると、狂った村の人達や危険な魔物から息を潜め、身を隠していた。
「はぁはぁはぁはぁ……あと、どれくらいなんだろう」
身動きがロクに捕れない中、僕は汗を流すことさえできない。
息を必死に止めて何とか草木に身を隠す。
見つかったら殺される。僕はこの五年間で散々見て来た。それが当たり前……だとは思いたくない日常を見続けて来た。
それなのに何故かこの村ではそれが当たり前。
僕と同い年くらいだった子達も、それを受け入れていた。
だけど僕は違った。狂いそうになったことは何度もあったけど、普段は冷静に普通でいられた。だからこそ、僕はこの村で疎まれている。
「おい、ガキを見つけ出せ!」
「とっととぶっ殺して俺達の武勇を証明するんだ」
「この村の血が流れていない異端者は始末しろ」
「「「アイアイサー!!!」」」
村の人達が来ちゃった。みんな武装している。目が血走っている。
僕のことを殺そうと必死なんだ。このままじゃマズい。
急いで逃げないとダメだ。そう思い足を踏み出す瞬間、空を真っ赤な火が飛んだ。
ヒューン……ボワッ!
「うわぁ!?」
目の前の木に火が灯った。
如何やら村の誰かが火の矢を放ったらしい。
確実に僕の逃げ道を封じようとしていて、次から次へと打ち込まれる。
「ううっ、どうしよう。ケホッ、ケホッケホッ! い、息が……」
この森の木々は全体的に毒性が強い。
本で読んだ危険な植物ばかりが生えている。
特に目の前の木は、葉っぱに毒がある。モクモクと煙が上がり、僕は吸い込んでしまう。
体が痺れて動かなくなると、ケホンケホンと咳が出た。
「く、苦しい……」
視界がグワンと歪んだ。クラクラして頭を抱える。
真っ赤に染まる森の中。僕は膝を付いた。
腕が縛られているから動かせない。そのせいもあり、ボロボロの枝に腕を刺された。
パキッ!
枝がへし折れる音。葉っぱが焼ける音。色んな音が混ざった。
僕の息遣いも荒々しくなってしまう。
すると気が付かれてしまい、村の人達がやって来た。
「おい、いたぞ!」
「クソガキがよ。手間かけさせやがって」
「随分頑張って逃げたな。でもどうせ死ぬんだ、大人しく生贄になれよな」
「あはは、やったぜ。久々にガキが殺せる。しかも正当な理由でな!」
村の人達は頭のネジが何本も抜けてイカれている。
おまけに血の気も多くて、普段から冷徹だ。
その目が今だけは殺気に満ち溢れ、嬉々としている。
手にした武器を突き付けると、逃げられない僕を痛めつけようとした。
「なんか言えよ、ガキが」
「……死にたくない」
「「「はぁ?」」」
「……死に、たく、ない!」
僕は足搔いた。足搔こうと必死になった。
視界が歪んで上手く見えない。それでも立ち上がろうとする。
その目から放たれた生のエネルギーは村の人達にとって脅威だったのか、腹を蹴られて吹き飛ばされた。
「ガキが舐めやがって。どうせ今ここで死ぬんだよ」
「そうだ。無駄に足搔いてんじゃねぇ」
「とっととに死ねよ」
「「「そうだ、そうだ、死んじまぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
僕は動けなかった。意識が遠のいていくのが分かった。
もう助からない。ああ、死ぬんだな。「あはは……」と短い人生を噛み締めた。
こんなの子供っぽくない。そんな気もするけれど、子供っぽいも分からない。
僕は暗がりになる世界の中、突き出された剣によって刺殺され……なかった。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
男性達の発狂が響き渡った。
けたたましい轟音が上がると、同時に熱が頬を撫でる。
焼けるような熱風に苛まれると、同時に巨大な爆発が起こったのが、目には見えないが音として伝わった。
「えっ?」
バー――――――――――――――ン!!!
僕の視界が真っ赤に染まった。
巨大な爆発が起こると、僕の体が包まれる。
視界が薄れ、木々が薙ぎ倒され、短い人生の狭い世界は簡単に破壊された。
(ああ、僕、死ぬんだ……あはは)
僕はつい笑ってしまった。もちろん心の中の話だ。
嘲笑うことしかできない自分に嫌気冴え刺さなくなると、体が朽ちていく感覚を確かめようとした。けれどそんな感覚は一切やって来ない。代わりに人が持つ独特な温もりを感じ取った。
「全く、大した子供だ」
「ふふっ。シュナ、そう言ってこの子を助ける様に攻撃したでしょ?」
「やっさしいー。まあ、村を焼き払ったのは私の魔法のおかげだけどねっ」
村で聞いたことのない声が聞こえた。
しかも三人分で、全員女性らしい。
性格は違うみたいだけど、敵意が全く感じられず、むしろ安心する。
「んぅ……ん?」
僕はゆっくり瞼を開けた。視界がまだ歪んでいる。
全然体が動かないけれど、おかしなことがあった。
目の前に女性が三人立っている。しかも歪んだ視界の中でもハッキリと分かる美人さん達だった。
「あっ、気が付いたみたいだよー」
「そうですね。それにしてもボロボロです。随分と苦しめられたようですね」
「大丈夫か? と心配してやればいいのだろうか?」
三者三様の声がした。僕のことを言っているらしい。
何か言わないと殺されるかもしれない。
そう思った僕は、言葉を振り絞った。
「誰、お姉さん達?」
僕は素直に訊ねる。
目の前に現れた美し過ぎる女性達。
下手に言葉を間違えたら殺されるから、本当に率直な言葉を発した。
「くっくっくっ。いいねいいね、お姉さん達だってー。君―、ナイスだよー」
「まぁ、美しいお姉さん達なんて」
「そこまでは言っていないだろ」
「うふふ。私は心が読めるのよ? この子が私達のこと、“美しい”って言っていたもの、間違える訳ないわ」
「お前は相変らずで……」
何だか色んな感情が揉み合いになっていた。
だけど三人共良い人みたいで、僕は安心する。
それと同時に、如何して僕が生きているのか気になった。
「あの、どうして僕は……」
「私達が助けたんだ」
「助けた……えっ?」
確かに腕の自由が効いている。
キツく縛られていた縄が解かれていて、僕は挙動不審な態度を取った。
その様子が面白かったのか、女性達の一人、黒髪の女性が笑みを浮かべる。
「よかったね。私達が偶々通りかからなかったら、君死んでたよ?」
「死んで……はっ、僕は殺され……」
「それはないな。後ろを見てみろ」
「う、後ろ? ……えっ」
僕は言葉を失ってしまった。
確かに妙な光が背後から射し込んでいた。
ふと白桃髪の女性に促されて振り返ると、広がる光景に絶句した。
「村が、燃えて……」
「そうだな。お前が暮らして来た村はもう無い。村人も全員殺した、一人残らずな。悪く思うなよ」
僕が五年間暮らし続けて来た村が燃えていた。
おまけに逃げ惑う人達の断末魔が聞こえて来る。
けれど逃げ道なんて何処にもない。森自体が既に火の海と化していて、虚空の果てより悲痛な叫び声だけが耳を劈いた。
「だがお前だけは助けた。何故だと思う?」
「……」
「分からないな。それは」
「待って、シュナ。様子がおかしいわよ?」
白桃髪の女性が説明しようとした。
けれど僕の様子がおかしかったせいか、金髪の女性が止める。
確かに、この瞬間の僕はおかしかった。燃える村を見つめると、不意に口角が上がる。
「あは……」
「笑うしかないか。そうだな、私達はお前の村を滅ぼした。恨んでくれていい」
「えー、でもこの子、殺されかけてたんだよー?」
「そうですね。ですが、感謝されるようなことではなく……」
僕は燃える村を見つめていた。
ただ茫然自失するしかなかった。
メラメラと燃える火に、モクモクと上がる煙。
村人達の絶叫が微かに木霊する中、三人の女性は僕を心配そうに見つめた。
「あははははははははははははははは。あーははははははははははははははは!」
薄気味悪い奇妙な笑いを出してしまった。
沈んでいた空気をぶち壊すように、僕は高笑いを始めた。
自分でも自分じゃないみたいな感覚に陥ると、視界も意識もハッキリしているのに、世界がジットリとした赤に染まる。
「お前、どうしたんだ?」
「まさか、あの村の血が流れてるのー?」
「いえ、そのような気配はせず……えっ?」
「まさか、環境的要因か」
三人の女性は心配する。
困惑した表情を見せ、オドオドし始めた。
もちろん僕には見えていないし、気が付きもしない。完全に蚊帳の外だった。
「あはははは、よく燃える、よく燃えるよ。みんな死ねばいいんだ。あははははははははははははははは! 面白い、面白すぎるよ!」
僕は気色の悪い笑いを浮かべてしまった。燃えていく村を見つめ、心の奥底から笑顔になる。これは本当の僕じゃない。環境的要因により、本来は流れない筈のものが流れていた。
そう、僕はサイコになっていた。自分でも気が付かずに。
「これは、なんとかしてやりたいな」
「そうですね。助けてしまったのは私達です」
「まあ、この子は悪く無いからねー」
そんな姿を心配そうに見つめる女性達を僕はこれから一生忘れることは無い。
女性達が居なかったら、僕は今頃生きていないし、仮に生きていても腐っていた。
何故なら、これが僕と女性達。否、伝説の〈《三英雄》〉との出会いだったから。その出会いのおかげで、今の僕は、憧れの〈《三英雄》〉に追い付くために、必死に生きているのだから。
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