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エピソード15:真実の光、偽りの終焉


セントラルシティの空は、鉛色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうだった。


百道葵の心もまた、重い雲に覆われていた。


佐々木美咲に自身の秘密を打ち明けることはできなかったが、その決意は彼女の心を強くした。


しかし、目の前には、これまでで最も巨大な壁が立ちはだかっていた。


 「クロウ、奴らの動きは?」


葵は、地下のセキュリティールームで、複数のモニターを睨んでいた。


モニターには、謎の組織の拠点と推測される場所から、セントラルシティ中心部に向けて移動する、大規模な武装集団の姿が映し出されている。


 「ついに本格的に動き出したようだ。ターゲットはセントラルシティの政府機関が集まる『コア・タワー』。奴らは、街の機能を完全に掌握しようとしている。不味いことに逮捕した能力者達も、解放していってるみたいだ」


クロウの声には、今までになく緊迫感がこもっていた。


 「ゼータ、奴らの能力者は?」


 「複数の能力者が確認できる! 特に注意すべきは、リーダーの『インフィニティ』。彼は、あらゆる能力を一時的に無力化する『能力抑制』の能力を持っている! そして、その隣にいるのは、サイラスとファントム、それから前回のフレアだ! 精鋭部隊を連れてきやがった!」


ゼータの声は、興奮と焦燥が入り混じっていた。


葵の秘密を執拗に追ってきた謎の組織。


その全貌が、ついに明らかになろうとしていた。


彼らは、葵の秘密を盾に、街を支配しようとしているのだ。


 「奴らの狙いは、私ね」


葵は、静かに呟いた。


彼らが葵の秘密を公表すれば、街は混乱に陥る。


その混乱に乗じて、彼らは街を掌握するつもりなのだろう。


そして、彼らが葵に提示した最後の選択肢は、


彼らの手先となるか、全てを失うかだった。


 「私は……行かなきゃ」


葵は、立ち上がった。


彼女の瞳には、迷いがなかった。


 「待て、葵! 奴らは能力者ばかりだ! しかも、能力を抑制する能力者までいる! お前一人では、勝ち目はない!」


クロウが必死に止める。


 「分かってるわ。でも、私がここで引いたら、この街は終わる。そして、私が今まで守ってきた全てが、無意味になる」


葵の脳裏に、瓦礫の下に埋もれた幼い頃の自分の姿が蘇る。


あの時の無力感。


もう二度と、あんな思いはしたくない。


そして、人々の希望であり続けるために、彼女はここにいる。


 「クロウ、ゼータ。最後の戦いよ。私を信じてくれる?」


葵の声は、どこまでも澄み渡っていた。


 「……当たり前だ、葵! 僕とクロウが、全力でお前をサポートする!」


ゼータが叫んだ。


 「お前が信じるなら、俺も信じる。死ぬなよ、アンフェイス」


クロウの声には、覚悟が宿っていた。


セントラルシティの中心部にそびえ立つコア・タワー。


そこは、すでに謎の組織の支配下にあった。


インフィニティ率いる精鋭部隊が、タワーの入り口を固め、内部からは不気味なエネルギー反応が発せられている。


 「よく来たな、アンフェイス」


コア・タワーの最上階から、インフィニティの声が、街中に響き渡った。


彼の声は、まるで街そのものを支配しているかのようだった。


 「貴様には、最後の選択肢を与える。我々の手先となるか、それとも、この街と共に滅びるかだ」


その言葉を聞いた瞬間、葵の脳裏に、美咲の笑顔が、サトウ巡査部長の感謝の言葉が、そして、瓦礫の下で助けを求める人々の声が蘇った。


 「私は……選ばない!」


葵は、コア・タワーの入り口に向かって、一気に駆け出した。


彼女の体は、限界を超えて加速する。


 「愚かな! その体では、私には勝てん!」


インフィニティが指を鳴らすと、タワーの入り口を固めていた能力者たちが、一斉に葵に襲いかかった。


フレアの炎、サイラスの幻覚、そしてファントムの幻影が、葵を包み込む。


 「くっ……!」


葵は、炎を避け、幻覚と幻影を振り払う。


しかし、彼らの連携攻撃は巧妙で、葵は次第に追い詰められていく。


 「クロウ、ゼータ! 援護を!」


 「了解! 葵、フレアの炎は避けろ! ゼータ、幻覚のパターンを解析して、葵にフィードバックしろ!」


クロウが指示を飛ばす。


 「分かったよ! 葵、幻覚のコアは奴の脳波にリンクしてる! その周波数を逆手に取って……!」


ゼータの指示に従い、葵は幻覚のパターンを見抜く。


そして、炎の隙間を縫って、ファントムの幻影に突進し、スタンガンを叩き込んだ。


 「ぐっ!」


ファントムが怯んだ隙に、葵はブーストデバイスを最大限に引き出し、一気にフレアの懐に飛び込む。


 「なにっ!?」


フレアが驚愕する間もなく、葵は彼の足元に小型の爆弾を設置し、その場から飛び退いた。


爆弾が爆発し、フレアは炎に包まれる。


 「くそっ……!」


だが、フレアは能力者だ。


炎を操り、すぐに体勢を立て直す。


その時、サイラスが葵の前に現れた。


彼の能力は、人々の善意を悪用する心理操作。彼は、葵の最も弱い部分を狙ってくる。


 「アンフェイス。貴様は、偽りのヒーローだ。能力を持たぬ者が、なぜこの場に立つ? 貴様は、人々を欺いている!」


サイラスの声が、葵の脳裏に響く。


彼女の心の奥底に潜む罪悪感が、彼女の足を止めようとする。


 「黙れ……!」


葵は、幻覚の「百道葵」たちと、サイラスの言葉を振り払おうとする。


 「能力がなくても、私はこの手で、人々を守ってきた! そして、これからも守り続ける!」


葵は、サイラスに向かって叫んだ。


彼女の言葉は、嘘ではない。


彼女は、偽りの仮面の下で、真のヒーローとしての自分を確立してきた。


 「それが、私の真実だ!」


葵は、サイラスの顔面に、渾身の力を込めたパンチを叩き込んだ。


サイラスは、意識を失い、その場に倒れる。


しかし、コア・タワーの最上階から、インフィニティがゆっくりと階段を降りてくるのが見えた。


彼の顔には、微かな笑みが浮かんでいる。


 「さすがだな、アンフェイス。だが、これで終わりだ」


インフィニティが手をかざすと、葵の全身に、能力抑制の波動が襲いかかる。


葵のスーツの機能が麻痺し、ブーストデバイスの力も失われた。


 「くっ……!?」


体から力が抜け、葵は地面に膝をついた。


インフィニティは、ゆっくりと葵の前に立ち、見下ろす。


 「これで、貴様はただの人間だ。超能力を持たぬ凡夫に、何ができるというのだ?」


インフィニティの言葉は、葵の最も深い傷を抉る。


彼は、葵が能力者ではないことを、明確に知っていた。


 「貴様の偽りの仮面は、ここで剥がされる」


インフィニティは、葵のマスクに手を伸ばした。


その時、葵の脳裏に、あの日の瓦礫の下に埋もれた人々の絶望的な顔が鮮明に蘇った。


 『私は……負けない……!』


葵の瞳に、強い光が宿った。


彼女は、能力抑制の波動に抗い、全身の力を振り絞って、インフィニティの腕を掴んだ。


 「なっ!?」


インフィニティが驚愕する。


彼は、能力を抑制された人間が、ここまで抵抗するとは予想していなかったのだ。


 「私は……偽物じゃない!」


葵は、掴んだインフィニティの腕を、自らが培ってきた格闘術でねじ上げ、そのまま地面に叩きつけた。


彼の背中に、鈍い音が響く。


 「ぐあっ!」


インフィニティは、苦悶の声を上げた。


彼の能力抑制が、一時的に途切れた。


その一瞬の隙を、クロウは見逃さなかった。


 「今だ、ゼータ! 葵のスーツに最終ブーストモードを起動させろ!」


 「了解! 葵、これが僕の最高の傑作だ! 後は、お前自身の力で……!」


ゼータの言葉と共に、葵のスーツから、まばゆい光が放たれた。


ブーストデバイスが、限界を超えた出力を発揮する。


 「これが……私の……力だ!!」


葵は、インフィニティに向かって、渾身の力を込めた拳を叩き込んだ。


その拳は、能力抑制を打ち破り、インフィニティの顔面に正確に命中した。


 「がぁあああああ!!」


インフィニティは、悲鳴を上げて吹き飛び、そのまま意識を失った。


彼の能力抑制の波動が消え、タワー内部にいた他の能力者たちも、その場に倒れ込んだ。


 「やったな、葵!」


クロウが興奮して叫んだ。


 「お前は、この街を救ったんだ!」


ゼータも興奮を隠せない。


タワーの入り口から、警官隊が突入してくるのが見えた。


彼らは、倒れている謎の組織のメンバーたちを次々と拘束していく。


葵は、その場に膝をついた。


全身の疲労と、達成感が、彼女を包み込む。


彼女は、偽りの仮面の下で、真の自分を見つけ、そして、この街を救ったのだ。




数日後。セントラルシティは、再び平和を取り戻していた。


コア・タワーは修復され、人々の日常が戻ってきた。


しかし、百道葵の心は、まだ揺れ動いていた。


 「ねえ、葵。この週末、時間ある?」


放課後、美咲が葵に声をかけてきた。


葵は、美咲の笑顔を見つめる。


そして、ゆっくりと、しかしはっきりと口を開いた。


 「美咲……話したいことがあるんだけど」


美咲は、不思議そうな顔で葵を見つめた。


葵の心臓が、激しく脈打つ。


しかし、彼女の瞳には、もう迷いはなかった。


 「私……実は……」


葵は、深呼吸をした。


この瞬間、彼女は、長年被り続けてきた偽りの仮面を、ついに脱ぎ捨てようとしていた。


彼女の言葉は、偽りの終焉と、真実の始まりを告げる、希望の光となるだろう。


夜空を見上げると、満月が優しく輝いていた。


その光は、百道葵の真実の姿を、きっと優しく照らしてくれるはずだ。




彼女の物語は、ここで終わりではない。真実の光が、新たな未来を紡ぎ始める。


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