第4話 「風のルート」
今日こそ、俺は帰る。
このわけのわからん異世界から、元いた快適な生活へ。
布団、Wi-Fi、コンビニ飯。文明最高、異世界最低。
俺は静かに窓を開け、外の気配を探る。――よし、見張りなし。
慎重に、音を立てずに――
「やはり“風のルート”……!」
地面に正座していた鎧ガチャ女が、空を仰ぎながら涙を浮かべていた。
「ピラー様がまた、風の導きに従い“窓から出る”という高位の行為を……!」
「ストーカーか!? ていうか、ただの非常口だって言ってんだろ!!」
俺は叫びながら着地、裏山方面へダッシュ。リリの後ろでは、なぜか兵士たちが拍手していた。
今日も謎の信仰で俺の行動は神格化されている。地獄かな?
◆ ◇ ◆
目指すは、町外れの遺跡跡。そこに“次元のひび割れ”があるという噂を聞いたのだ。
「どうせまた、ハズレなんだろうけど……」
そう呟きながら、岩陰を越えた瞬間。
「お待ちしておりました、ピラー様!」
パーンッ!
なぜか紙吹雪が舞った。
……なんでだよ。
「本日は帰還のための“新儀式”をご用意いたしました!」
現れたのは、あの胡散臭い神官アモン。白装束でテンションだけは高い。
「今度こそ、本当に帰れます!」
「いや、絶対ウソだろお前!」
「ご安心を。今回は宮廷魔導師ガルダス様による最新の魔術理論を応用し、“多次元歪曲アセンブラー”を装備済みです!」
アモンが笑顔で指差すと、背後の石像が光を放っていた。喋る石像、ピローンである。
「……またこのパターンか……」
ピローンがぼそっと呟いた。
「前のピラーはこれで……いや、なんでもないッス」
「お前それ毎回言うよな!?」
◆ ◇ ◆
結果として、“新儀式”はものの見事に失敗した。
魔法陣は暴走し、神殿の床が抜け、俺は天井からぶら下がっていた。
「やはりこの結果も……神の意志……!」
感動した顔のリリが、ぶら下がる俺を下から拝んでいる。
なぜかアモンもガルダスも納得した顔で頷いていた。
「……帰らせろって言ってんだろ……!」
天井にぶら下がりながら、俺は涙をこらえるのだった