第2話「お散歩しただけで国を救うな」
午前十時。
暇すぎて、散歩に出た。
別にこの世界に興味があるわけじゃない。部屋にいたら、王族とか学者とかがやたらと“お話”に来るからだ。
あと、朝食が七品出たのは怖い。俺、納豆とごはんでいいんだけど?
「ピラー様、お足元にお気をつけください」
横でリリが必死についてくる。全身鎧でカチャカチャうるさい。
街を歩けば、民衆が道をあけ、頭を下げ、花を投げてくる。いやマジでやめてくれ。
「ピラー様、今日もお美しい……」
「もうアラサーなんだけど俺」
リリはメモ帳を広げてなにやら記録を取っている。
「本日の“神託”は、『もうアラサーなんだけど俺』……と。意味は不明ですが、民衆に希望を与える言葉に違いありません」
「違ぇよ」
俺が適当に歩いただけで、周囲が勝手に意味づけしてくる。
俺が“ラッキーなだけ”って、誰か気づいてくれ。
「ところでリリ、この辺、やたら警備が多くないか?」
「はい、実は……この先に“爆霊樹”という凶悪植物が現れまして。触れるだけで大爆発を――」
ボゴォン!!!
派手に煙があがった。
「あっ、ピラー様、前方です! 爆霊樹が暴走を――!」
俺はうっかり転んだ。
足元の石につまずいた。ただそれだけだ。
でも、俺の手から飛んだ石が、ちょうど地面の裂け目にハマり、そこに流れていた魔力が遮断され――
「封印……! 爆霊樹の暴走が止まりました! ピラー様が導かれた奇跡の一撃……!」
「……いや、今、ただ転んだだけ……」
「さすがはピラー様……!」
周囲が拍手し、兵士たちが涙ぐむ。
リリは膝をついて「感激です……」と感想を漏らした。
「違う!俺はただ転んだだけ!お前らこそ、もうちょっと疑えよ!」
……ああ、俺、今日もまた帰れなかった。