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魔法図書館の魔女、探し物は本ではないと言われる

魔法使いが魔女に会うまで

以前に書いた「魔法図書館の魔女、探し物は本ではないと言われる」の男性キャラの前日譚です。前作未読でも楽しんで頂ける内容ですが、よろしければ前作も読んで頂けると嬉しいです。(前作へはタイトル上のシリーズ名から入って頂けます。後書きにURLも記載あり)

「アルト、婚姻を急げ」


宮廷に召し出されて皇帝にそう命じられた時には、言葉もなかった。


「ストア家が娘メルモリーとの婚姻を許す」


ずっと願っていたことであったのに、そう言われた時にも喜べなかった。


一年は確かに一つの区切りにはなる。だが一年の喪が明けたからと言って、わたしはまだ何かの集いや祝いごとを執り行う気にはなれなかった。


だが大多数の人々にとっては多くのことが止まった一年は長かったのだとは思う。

喪が明けて半月もする頃には、街でも宮廷でも一年の停滞を取り戻そうとする人々の熱気をあからさまに感じるようになっていた。


この流れからは逃がれられないとでも言うように、ずっと足踏みしていたわたしの結婚話は突然、強権によって進むことになったのだ。



魔力の量はほぼ血筋で決まる。

帝国最高位の紫水晶アメジストの魔法使いであるわたしは、皇帝の許可を得なければ結婚出来ない立場だった。強力な魔法使いの血を維持するために、紫水晶アメジストは結婚相手を制限されていたのだ。


これまでわたしが皇帝に結婚の許可を願い出なかったのは、メルモリーとの結婚が許されることはないと分かっていたからだ。メルモリーの家の魔力は弱く、本人の魔力もやはり弱かった。


更によりにもよってわたしの家ウィスター家は、過去に何人も紫水晶アメジストを輩出している帝国屈指の名門と呼ばれる家だった。魔力が弱い家系との縁組みは家族の同意も得難かった。


わたしとメルモリーの交際に賛成してくれる人間はいなかったと言っていい。


身を引くべきかもしれないと何度も思った。それでも諦められず、わたしはメルモリーを既に四年も待たせてしまっていた。


だがこの日突然に、わたしとメルモリーの結婚は許されたのだ。しかも「急げ」との命だった。


本当はわたしはまだ、そんな慶事と向き合う気にはなれなかった。だがわたしは26歳で、メルモリーはもう25歳だった。これ以上先伸ばすべきではないことも分かっていた。


一年の服喪の期間多くの家が婚礼を延期したお蔭で少しだけ目立たなくなりはしたものの、帝国貴族の女性が25歳を超えても独身であることは滅多になく、「一、二歳の違いなら些細な違い」と言えることではなかった。

婚期が遅れることによる不利益は、男より女性の方がずっと大きい。仮にストア家がわたし以外との縁談を今から用意しようとしたとしても、25歳からの相手探しは不利なのだ。


皇帝命令だと自分を叱咤して、すぐに行動した。

強制力が今はありがたかった。そうでなければ障害がなかったとしても結婚の話を進められた気がしない。


父と兄も勅命を前にとうとう折れた。


そうしてこれまですることが出来なかった式や結婚後の具体的な話を、わたしはメルモリーやストア家と初めて交わした。そして四年の間動かなかった話が一気に動いたのだった。


ʄ


交際を始めるかなり前から、わたしはメルモリーのことを知ってはいた。


見つめると吸い込まれそうに透明なアイスブルーの瞳に、眩い程の金色の髪を持つメルモリーは、「宮廷の花」と讃えられる美しい女性だった。だが魔力の弱い家に生まれたせいで、その容姿は彼女に幸福よりも面倒をもたらしがちだった。


正式な結婚は出来ないがメルモリーが欲しいとか言う性質たちの悪い高位貴族達に、メルモリーは頻繁に言い寄られていた。皇帝すら彼女に関心を抱いていたと思う。


弱小貴族の娘が権力者を突っぱねるのは簡単なことではない。


結果としてメルモリーは社交の場を避けがちになっていて、有名なのに姿を見掛けることが少ない女性だった。


気の毒に思いはしたものの、彼女の将来に大きく影響することではないとも思っていた。

正式な結婚を望んでいるのであれば、同家格の家に嫁ぐ未来はほぼ決まっていると言っていい。その未来のために人脈を広げる必要はなかった。強欲な権力者に手を出す隙を与えたら、その方が人生が狂ってしまう。


彼女のことはそんな風に思っていただけだった。


そんな彼女とわたしが言葉を交わすようになったのは、ある夜の事件がきっかけだった。


その日は皇后陛下の誕生日の祝宴で、広大な帝国の、ほぼ全ての貴族が祝辞を申し上げるために参内していた。参加者は桁外れに多いが、祝辞だけ述べて早々に帰宅する者も多いのが通例で、出席の優先順位が高い宴というだけでなく、参加もしやすかったのだろう。参列者の中に久しぶりにメルモリーの姿を見掛けた。


彼女の姿に気が付いたのはやはり目立っていたからだが、美しいと思いはしたものの、その時のわたしにとっては彼女は、ただそれだけの存在だった。わたしと彼女の結婚はあり得ないと思っていたし、ウィスター家がストア家と交流する理由もなかったので、わたしはメルモリーと親しくなりたいと思ったことはなかった。いずれの女性と結婚することを考えれば、必然性がない女性との交流はトラブルの素でしかないと思っていた。


全ての参列者が御前で直接祝意を述べるため、皇后陛下の誕生日の祝宴はとにかく長かった。三日に分けて行われる皇帝の誕生日の祝宴よりも、一日だけで終わらせる皇后の祝宴の方が夜が長くなってしまうのだ。


立場上、わたしは最後まで会場に残らなければならなかったのだが、休憩は頻繁に取れた。


皇后陛下の誕生日は御前の順番待ちも長かったが、帰宅の時も馬車の順番待ちで延々と待たされる有様だったので、飲み物と軽食が用意された休憩室があちこちに用意されていた。


看過出来ない場面に出くわしたのは、何度目かの休憩の場所を決めかねて彷徨っていた時だ。


そこは高位貴族専用の休憩室があるエリアだった。廊下を歩く人間もほかの場所と比べてぐっと少なく、その部屋の前にはほかに人がいなかった。


「父と母が待っておりますので」

「ご両親には後でわたしから申し上げよう。わたしのために少しは時間を割いてくれてもよいだろう?」

「何をされておいでですか」


声を掛けると、メルモリーを小部屋に連れ込もうとしていた男は弾かれたように振り返った。男は一瞬不快そうな表情かおをしたが、わたしが締めている帯の色を見てすぐに表情を消した。

わたしは高位貴族の名前と顔をほぼ記憶していたので、相手の素性はもう分かっていた。名門の貴族だが既に妻子もあり、メルモリーの倍は年上の筈の男だった。


「そこは休憩室ではありませんが」

指摘すると、「なんと、勘違いをしておりました」と、相手は大袈裟に驚いたふりをして見せた。

しらじらしいとは思ったが、ここで男に恥をかかせても誰の得にもならない。


「そちらのご令嬢をご両親に頼まれて捜しておりました。ご両親の許可なく引き止めないで頂きたい」

「申し訳ございませぬ」

「今後一切このようなことはないように。メルモリー殿、こちらへ」


そう言ってわたしがメルモリーに手を差し出すと、男が刺すようなで彼女を見た。卑怯な無言の恫喝、と思ったが、メルモリーは怯えながらも選択を誤らなかった。そっと手を伸ばし、メルモリーは細い指をわたしの掌に重ねた。


「差し出がましいことをしました。ご両親に頼まれたというのは噓ですが、ご両親の元までお連れしましょう」

廊下を歩き出し、男の姿が見えなくなってから告げると、メルモリーは柔らかに笑った。

「本当にありがとうございました」


後で聞いてみると、メルモリーはわたしの帯を見て「もう二度と関わることがない人」と思ったそうで、却って気楽に話せたのだと言う。


あの時の彼女は、だから実際に素に近かったのだと思う。



その笑顔を見た時に彼女の魂の深い部分に触れた気がして、一遍で恋に落ちた。



「互いの人生が交わることはないだろう」と、その直前までわたしも思っていたのに。


ストア夫妻を少し先の人混みの中に見付けた時、わたしは夫妻にすぐに声を掛けることが出来なかった。だがメルモリーも両親に声を掛けようとしないことに気が付いて、わたしは自分の左腕に手を掛けていた彼女を見やった。

が会うと、メルモリーは一度恥ずかしそうに視線を伏せた。だがやはり両親を呼ぶことはなく、数拍を置いて彼女はもう一度わたしを見上げた。


互いのの中に、生まれたばかりの微かな熱が宿っていた。



帝国魔法使いは階級によって正装時の帯の色が決められている。わたしの帯の色は紫だった。

それは超級魔法使いの色で、紫水晶アメジストは、そもそもはこの帯の色に由来する俗称だ。


そして紫水晶アメジストの地位は、少なくとも法的には、皇族に次ぐものとされていた。


ʄ


なにぶん勅命だ。宮廷に召し出された日からひと月後には、わたしはストア家を訪れていた。


現れたメルモリーは目が覚めるように綺麗だった。髪に一杯に薄桃色の小花を散らし、シンプルな白いドレスを纏ったメルモリーの姿は花嫁姿を思わせて、どぎまぎした。


だが通された応接室で、わたしは予想外の攻撃を浴びることになった。


「皇帝陛下のお言葉を斟酌しんしゃくしますに、メルモリーとの結婚を命ぜられたとは言えませんわね」


そう言われて応接机越しに睨みつけられた時、はっとした。

紫水晶アメジストとして既に家から独立した扱いとなっていたわたしは一人だったが、メルモリーの側には娘と並んで、ストア夫妻が座っていた。


「ウィスター家の紫水晶アメジストの魔法使いともなれば、もっと相応しい方がいらっしゃいますでしょう?もう娘を惑わせるのはおやめ下さいまし」

「お母様!なんということを!」

「なんと!これは……」


娘と夫が驚愕した表情で夫人を見やった。


その席は「正式な結婚申し込みの場」と、事前に了承を得た上で設けて貰った席だった。

「結婚を申し込んで、了承される」という手順を踏むための、最早形式的な席という認識で、全員正装で臨んでいた。


わたしは「侮辱」と怒っても当然だったと思う。


だが夫人の厳しい声と瞳は、娘を思う気持ちに満ちていた。


「なんということを……!お詫び申し上げないか!」

狼狽うろたえる夫を夫人は睨み返した。

「あなた!あなたはこの婚姻で本当にメルモリーが幸せになれるとお思いなの?!」

「お母様‼」


わたしとメルモリーの交際に反対していたのはストア家も同じだった。ご当主がわたしに遠慮していなければ、メルモリーはとっくにどこかに嫁がされていておかしくなかった。


しかし皇帝の許しが降り、正式に話が進み出したこの段階に来てから反対されるとは思ってもいなかった。


日頃から政治の場に身を置いている男性より、時に女性の方が言動が大胆だと思う。


「メルモリー!あなたは第二夫人や第三夫人がいる結婚生活で幸せなの?!」


夫人がそう言った時、頭を殴られる思いがした。間抜けにも、多分わたしだけがその可能性に気付いていなかった。


後から考えると皇帝も、意外な程あっさりと折れた父と兄も、その抜け道を視野に入れていたのだろう。


「お母様、無礼です!どうかおやめ下さい……!」


今にも泣き出しそうな表情かおでわたしを気遣っていたメルモリーも、恐らく気付いていた……。


結局その日は結婚の申し込みどころではなかった。目に涙を溜めて謝罪するメルモリーに見送られて、わたしは一端ストア家を辞した。


メルモリーの母君に対して怒りを持つ気にはなれなかった。


ʄ


家門の魔力量と、帝国内の地位はほぼ正比例している。


法的には一夫一婦制の帝国で、魔力が強い家系の者が弱い家系の相手と縁組することは滅多になかった。ただ正式な婚姻関係の外で、有力貴族の男が魔力の弱い家の令嬢や平民の娘を愛人にしていることはままあった。


わたしが皇帝の思惑に気付けなかった理由の一つは実に単純で、その逆の例―――――魔力の弱い女性を妻に迎えて、強い女性を妾に持つという例を聞いたことがなく、それ故に、思い浮かびもしなかったからだ。


だが理由はそれだけではない。


メルモリーとの結婚が許される理由になら、わたしは思い当たった。だから婚姻の許しを不審に思わなかったのである。



ちょうどその頃から、人間が持つ魔力の量は激減し出していた。「名門」と呼ばれる家でも魔力量が極端に乏しい子供が生まれることが起き始めていた。


長い目で見れば人間の魔力量は昔から減り続けていたのだが、人々は急激な変化の理由を求め、帝国も原因を突き止めようと必死だった。


そしてその時立てられた有力な仮説の中に、「血が濃くなり過ぎているのではないか」というものがあった。


もう何百年と魔力が釣り合う家系同士で婚姻を繰り返していたため、確かに帝国では、魔力量が近い家は皆親戚という状態だった。

少し前から「関係が遠い家同士で縁組みをした方がいいのでは」という提言が真剣に検討され始めていて、わたしもその議論の行く末に希望を抱いていた。そしてそれが、メルモリーを四年も待たせる原因の一つとなってしまった。


そこに加えて一年前の悲劇で、帝国は強力な魔法使いを一度に百人近く失っていた。


帝国に残った紫水晶アメジストは、もうわたしだけだ。


皇帝がわたしの結婚を急かすのは当然で、時間の問題や「血縁の仮説」を総合的に考えた結果が、メルモリーとの婚姻なのだろうと思っていた。



だがいずれメルモリーとの間に子供が生まれた時に、帝国の期待に反して、その子の魔力が弱かったら。


倫理も道徳も法も無視して、帝国は今度は、魔力の強い家の娘をわたしに宛がおうとするだろう。


それでも魔力の強い子供が生まれなかったら?



ぞっとした。



十分な魔力を持つ子供が生まれるまで、種馬のように第二、第三の女性を宛がわれるのか?



それをメルモリーに、耐えろと言うのか?




ストア夫人がわたしに敵意を向けるのは当然だった。




ʄ


「……覚悟は出来ています」


ストア家を再び訪ね、庭園で二人だけで話し合った日、メルモリーはそう言った。

なんと応えればいいのか分からなくて、わたしは言葉を失った。


メルモリーにそんな人生を送らせたくなかった。

そして種馬のように扱われる人生を、わたしの方が覚悟出来なかった。



終わりにしよう。


喉元までその言葉が出掛かった。


そんな結婚なら、愛のない相手と割り切ってする方がまだましだと思った。



「……あなたの傍にいたいの」


真っ直ぐな愛の言葉を聞いて、何も言えなくなった。


それに、と、メルモリーは言葉を接いだ。


「魔力が強い子供が生まれる可能性もあるでしょう?」


満開の白い花の下で、透き通るような色の瞳がわたしを見つめていた。


わたしは覚悟を迫られた。



ʄ


その二カ月後、皇帝の誕生日を迎えた。


昨年はその宴も中止されていたが、そんな服喪の期間など存在しなかったかのように、宮廷で一番大きな広間に、以前と同じ盛大な祝いの席が用意された。


わたしと、薄く桃色が入った白に近いドレスをまとったメルモリーは、式典が始まる前から玉座の近くに控えていた。

三日に渡る筈だった祝宴の初日に、皇帝が直々にわたしとメルモリーの婚約を発表し、祝うことになっていたからだ。


皇帝はまだ着席していなかったが、大広間には続々と人が集まり出していた。最初に会場に入るのは高位貴族と決まっていて、ほとんどが知っている顔だった。


わたし達の婚約の話は既に社交界にだいぶ広まっていた。紫水晶アメジストの魔法使いと下位貴族のメルモリーの結婚には否定的な眼差しの方が多かったが、祝いの言葉を掛けてくれる人もいた。メルモリーの姿に惚れ惚れと見入る人間も多くて、わたし達は何人かと言葉を交わした。


式典の始まりを待っていたそんな時間に、わたしは友人の姿を見付けた。


「トラゴス!」


思わず声を張り上げていた。


赤い帯を締めたブルネットの青年が振り返る。

紅玉ルビーは帝国魔法使いの、紫水晶アメジストの次に位置する階級だ。


トラゴスは、あの日生き残ったたった五人の仲間の内の一人だった。

心身ともに深い傷を負った彼は、服喪の期間も喪が明けた後も社交界に姿を現していなかった。


わたしの方へと歩いて来た彼は、左足を微かに引き摺っていた。

あの迷宮で、トラゴスは左足の膝から下を失っていた。

古代の魔法使いの中には人体の欠損ヵ所すら再生出来る者がいたと言うが、一体どうしたらそんなことが出来るのか分からない。


魔法は基本的に念の力で化学反応を起こさせたり促進したりするもので、無から有を産める訳ではない。


彼の義足を造ったのはわたしだったが、帝国最高位の魔法使いである筈なのに、「本物そっくりの代替品」を造るのが精一杯だった。一応足の指まで動かせるようには造れたが、元の足と全く同じようにはしてやれなかった。


「結婚すると聞いた」

と言われた時、罪悪感を覚えずにはいられなかった。


迷宮でトラゴスは、婚約者も失っていた。


魔力の量に男女差はなかったが、危険な任務に女性の魔法使いを伴うことは少なかった。魔力を用いていても、よけたり走ったりと物理で対応しなければならない場面が意外な程に多いからだ。帝国魔法使いは体を鍛えることも必須だった。


だがあの任務には、女性の上位魔法使いも大勢駆り出された。結果として部隊の中には恋人同士や婚約者同士が何組もいた。そもそも魔力が釣り合う者同士で縁組みしているものだったから。


そして女性の生還者は、ゼロだった。


トラゴスに、わたしはただうなずき返して話題を変えた。

「出て来られるようになったんだな」

「ハッ」

明らかな冷笑に、顔が強張った。一年以上、ほとんど会うことがなかった彼が今何を思っているのか分からなかった。

「『結婚を急げ』と言われるかもな」

嘲笑うように言ってから、トラゴスはメルモリーを見て口をつぐんだ。さすがにメルモリーを傷付けるのはよくないと思ってくれたのか、トラゴスは声を落とすと、「失礼」と彼女に謝罪してくれた。

だが紅玉ルビーの不穏な振る舞いに、メルモリーは声も出せずに固まっていた。それでもわたしに視線が戻った時には、トラゴスから攻撃的な気配は消えていた。

「ようやく念願が叶ったんだな―――――――――よかったな」

「――――――――――――――――」

嬉しげにうなずくことなど、出来なかった。



やがてファンファーレが鳴り響き、宰相が厳めしく声を上げた。

「皇帝陛下、皇后陛下、並びに皇子殿下、皇女殿下のご入場である!」


会場の全員が一斉に膝を着き、こうべを垂れた。

皇帝とその家族が壇上にある入り口から入場するのを気配で感じた。


ファンファーレはまだ鳴り続けていた。この曲が鳴りやんで皇帝が許可を出すまで、顔を上げることは許されない。


その時。


突然、背中に衝撃を感じた。


「っ……?!」

「…………済まない、少し寝ててくれ」


トラゴス………?


急激に意識が遠のいた。


「アルト!!」


メルモリーの悲鳴が聞こえた。


刺された、と分かった。

魔力による直接的な攻撃だったなら察知して回避することも出来たかもしれないが、魔法の気配はなかった。トラゴスは魔法を間接的に使ったのだろうことも分かった。剣の類は広間に持ちこむことが出来ない。だから彼は、持っていても見咎められない何かに強化魔法をかけて武器にしたのだ。

後で調べてみると彼が使ったのは剣の形に切った布で、トラゴスはそれを、手袋の中に隠していたのだった。しかもその布に、薬を仕込んでいた。


トラゴス。何をするつもりだ―――――――――――――


とんでもないことが起きようとしていると分かっていたが、わたしはそのまま意識を失った。




―――――――――――薄っすらと目が開いた時、強烈な熱を感じた。

爆音が聞こえたのとほぼ同時に覚醒して、わたしは自分達の周りに保護魔法を張り直した。


「アルト?!」

「メルモリー!!」


飛び起きて状況を確認する。

目覚めた時わたしは、弱々しい保護魔法とそれを張ってくれたメルモリー自身に包まれていた。

メルモリーは上から覆いかぶさるようにしてわたしを守ってくれていた。そのドレスにべっとりと血が付いていてぎょっとする。自分の血なのか、彼女の血なのか分からなかった。服を剝いで確認している余裕はないので、取り敢えずメルモリーと自分自身に治癒魔法を掛けた。自分の体にその時何か違和感を覚えたのだが、強くは気にならなかった。周囲では瓦礫が散乱し、人々が怒号や悲鳴を上げながら走り回っていた。


戦おうとしている者もいたし、怪我人を救助している者もいた。広間から脱出しようとしている者達もいたが、脱出を試みる方が危険かもしれないと思える程、出口の辺りには人が殺到していた。


「アルト、あなた………」


腕の中に抱き締めたメルモリーが何かを言おうとしていたことにも気が付かず、わたしは玉座に目を向けていた。


凄まじい破壊。玉座の近くにいた宰相や大臣達が倒れていた。自分はどれくらいの間気を失っていたのだろう。


血の気が引く。



トラゴス―――――――――――!お前がやったのか……?!



帝国最高位の座を飾り立てていた豪華な美術品や装飾的な柱が砕けて飛び散っている。

火と氷と空気の塊と、様々な魔法が途切れることなくその場所を襲い、広間は激しい熱と冷気に交互に晒されていた。


だが皇帝とその家族はまだ無事だった。


玉座の周りには、わたしも構築に携わった防御魔法が何重にも仕掛けられていたのだ。


しかし様子がおかしい。


皇帝はなぜまだ壇上にいる?


帝国では皇帝への襲撃とその際に取るべき行動を何通りも想定していて、皇族や側近はそれを頭に入れていた。


この状況なら、防御魔法が機能している間に皇帝を安全な場所に退避させるのが常道の筈だ。


入退出口の辺りで喚いている皇帝の姿を見て、出口が塞がれているのだと思った。


まずい。


攻撃の意味を察した。


この攻撃は、防御魔法を発動させ尽くすことを目的としている。魔法が費えた時に次が来る。


保護魔法を。


そう思った時には遅かった。


宙を飛んで来た者達が玉座の周囲に降り立ち、彼らが皇帝一家ごと自分達を覆う保護魔法を張った。


保護魔法は外からの魔法の干渉や衝撃を遮断する、透明な魔法の膜だ。盾のように面で張ることも出来るが、基本的には守りたいものを完全に覆うものだ。


単純だが強力で、特に高位の魔法使いが張った保護魔法はほとんどの魔法を遮断するし、簡単には破れない。


皇帝一家は、襲撃者が張った保護魔法かべの中に閉じ込められたのだった。


「トラゴス―――――――――」


赤い帯。襲撃者の中にトラゴスがいた。


襲撃者は九人だった。高齢だったり体が不自由だったりしなければ迷宮攻略に召集されていただろう、強力な魔法使い達ばかりだ。


その顔触れを見て彼らの動機を理解する。あの強引な迷宮攻略で、家族を失った者達だった。


玉座の防御魔法が費える。


命の危機を理解した皇帝一家は、自分達で保護魔法を展開した。

皇族自身が全員強力な魔力の持ち主なので、それでしばらくは攻撃に耐えられる筈だった。


「アルト!!」


父の声がした。


会場に最初に入るのが上位貴族だけだったのは、二重の意味で幸いだった。


ストア夫妻はメルモリーの両親として同席することも出来たのだが、「肩身が狭い」と言って遠慮していたお蔭で難を免れた。今広間にいるのは魔力が強い家の者達ばかりなので、自分の身はある程度自分で守れるだろう。


振り返ると父はすぐそこにいた。


「メルモリーを頼みます!」


メルモリーを父に託し、わたしは皇帝の救出に向かった。



幼い頃から帝国と皇帝を守れと教えられて育ってきた。

その刷り込みだったのだろう。体が勝手に動いた。



その時わたしは、何も考えていなかった――――――――――――――。



ビキッ………


保護魔法が微かにきしむ音がした。


見ると、襲撃者の保護魔法の内側に水が満ちていた。その水の中に、強化魔法を掛けたのだろう鋭利で小さな物が、沢山浮いていた。


「トラゴス!!」


名を叫ぶと、振り返ったトラゴスはわたしを見て驚愕の表情を浮かべた。彼は二つ目の小さな保護魔法で自分を包み、水の中に立っていた。


ビキッ………


また音がした。


皇帝一家の保護魔法が水圧に押されている。保護魔法は魔法より物理的衝撃に弱い。

そして保護魔法の強度は、術者の魔力量に依存していた――――――――――――


水自体は魔力で生成されたものだが、このままいけば水圧が皇帝側の保護魔法を破るだろう。


それを狙っているように見えるが、そうではない。


この魔法を、わたしはあの迷宮で見ている。


今この中で水を一気に蒸発させるだけの高温を発生させると、膨れ上がった水蒸気で爆発が起こるのだ。


しかもトラゴス達は、水の中に鋭利なつぶてを仕込んでいる。


爆発で保護魔法が破られると同時につぶてと爆風と、そして高温の蒸気に襲われて、最悪の場合、皇帝一家は全滅するだろう。


水中でそこまでの高温を発生させるのは容易ではないが、襲撃者は強力な魔力の持ち主ばかりだった。


二重の保護魔法で自分を包む彼らを攻撃することは、わたしなら出来なくはなかった。だが全員を一度に倒すのはさすがに無理だ。


それでは間に合わない。


「皇帝陛下!!」

「アルト殿!!」


広間の参列者達が叫ぶ声が聞こえた。だがおそらく誰も、トラゴス達の狙いを理解していない。


もう一秒の猶予もない状況だった。


わたしは宙を飛び、保護魔法の上に降りた。


そこは皇帝達の真上で、その状況で一家に一番近付ける場所だった。


魔力には有効距離がある。近ければより多くの魔力が届く。透明な壁の上に、わたしは片膝と両手を着いた。


空気の矢や瓦礫に襲われる。わたしの姿に気が付いた襲撃者達が攻撃を仕掛けてきたのだ。保護魔法は外からの魔法は遮断するが、内からの魔法は通す。


「………っ」


保護魔法で防御したが、ぎりぎりだった。


わたしは魔力のほとんどを皇帝達の周囲に保護魔法を展開するために使っていて、自分の保護はおろそかになっていた。


強力な魔法使い達が作った壁越しに魔力を注入するのは、消耗が激しい。



「トラゴス!!」



あの時わたしは、何を思って彼の名を叫んだのだろう。


もうどう転んでも平穏な明日あすはなかっただろうに、それを諦めきれなかった。



一瞬だけ、トラゴスと目が合った。


茶色い瞳。本当に一瞬だった。



衝撃と共に、わたしの体は吹き飛んでいた。




ʄ


メルモリー………


微かに残る意識の中で、彼女のことを思い出していた。


なんて迂闊だったのか。


わたしが水中に展開した保護魔法は、爆発に耐えたのだろう。


だがその結果、襲撃者の側の保護魔法が破れて、爆発は外に向かったのだ。

皇帝を守ることばかり考えていて、結果を予想していなかった………


助かると思えなかったが、ふいに目がいた。



「生きている………」



自分の足と、瓦礫と血が見えた。


玉座の横の壁際。


ここまで吹き飛ばされて、壁にぶつかったのだろう。

わたしは背中を壁に付けて、両足を投げ出すような形で床に座っていた。


目を上げると退避したのか、皇帝一家はもういなかった。

だが血まみれの襲撃者達の体は、あちこちに転がっていた。


トラゴス………


壇の下に落ちたのか、トラゴスの姿を見付けられなかった。



まだ意識があるのなら、起きて次の攻撃に備えなければならない。彼らの仲間がほかにもいる可能性がある。



でもそれ以上に、トラゴスの姿を確認したかった。


生きていたとしてもただでは済まないだろうが、それでも生きていてほしいと思った。


トラゴスは、あの迷宮を生き延びた仲間だった。



だが立ち上がろうとして、腹部に違和感を覚えた。

視線を落とすと、腹が破れて内臓が外に出ていた。


目にした途端、強烈な痛みに襲われて意識が遠のき掛けたが、残念ながらもう一度気を失うことは出来なかった。


治癒魔法を掛けても、これは間に合わない。


後のことは広間ここにいる人達に託すしかなかった。



死ぬのか―――――――――?なんのために……?



広がる血溜まりを見ながらそんなことを思った。



わたしはなぜ、皇帝を守って死のうとしているのだろう。

皇帝の命は、トラゴスの命より重要だったか?


紫の帯が血に染まっている。



「アルト!!」

「アルト殿!!」



周囲に人が押し寄せた。


その中にメルモリーもいた。無事だったが、わたしを見つめるメルモリーの顔は真っ青だった。



「メルモリー……」



ごめん。


君の人生を搔き乱すだけになってしまった。


四年もわたしを待ってくれたのに。



激しい悔恨の中―――――――――――――――――――痛みが急速に引いた。


初めは、体の感覚や機能が停止し始めたのかと思った。だが体はどんどん楽になって行った。

感覚が消えて行っているのではなく、体が正常化していると感じた。



何が起きている?



驚いて自分の体を見降ろすと、肌も服も大量の血に染まったままだったが、飛び出していた臓器は見えなくなっていて、腹の傷が塞がろうとしていた。



治癒魔法?



だが周囲の誰も、魔法を使っている気配がなかった。もちろん自分の魔法でもない。


「アルト?お前―――――――――?!」


父が目をみはっていた。

紫水晶アメジストの自分でも治癒不可能と思っていた傷だ。


はっとする。


メルモリーと自分に治癒魔法を掛けた時に、覚えた違和感。


傷が癒えたり、痛みが引いたりする感覚がなかった。なんの異常もない体に、治癒魔法を掛けているかのように。



弾かれるように顔を上げ、メルモリーを見た。




メルモリーは、真っ青な顔でわたしを見つめていた。





ʄ


古い時代には人間が持つ魔力の量は今よりずっと多く、平民に至るまで、魔力を持たない者はいなかったと言う。


そして魔力の量と人間の価値が、今よりも更に強く結びついていた。


魔力があって当たり前だった古代の世界の中でも歴史に名が残る程突出した力を持っていた者は、強烈な選民意識を持っていたらしいと、遺された様々な記録から分かっている。


彼らは自分の魔力を誇示するような遺物をあちこちに残しており、「迷宮」はその一つだった。


迷宮の創造は、古代の強力な魔法使いの間で流行した遊びのようなものだった。

彼らは幾つもの魔法の罠を仕掛けた場所に、今では考えられないような凄まじい魔道具を数多く隠した。

それは「魔法の罠を突破した者にしか魔道具は与えない」と言う、他の魔法使いへの挑戦状なのだ。


入口すら魔法で隠されているために、今も発見されない迷宮は世界中に眠っていると言われている。


帝国領内で「レベルゼの迷宮」が発見されたのは、一年前だ。



「人類史上最強」と謳われている魔法使いは二人いる。



一人は世界中の本を自動的に再現して今なお収蔵し続けている「魔法図書館」の創造者パウセで、もう一人が、レベルゼだ。



慎重に調査するべきだった。


周囲の諫言を聞き入れず、迷宮の短期制圧を命じて帝国の高位魔法使いを根こそぎ動員したのは、間違いなく皇帝の失策だったと思う。


迷宮でわたし達は仲間を次々に失い、途中で目標を「制圧」から「脱出」に切り替えた。


だが脱出出来たのは五人だけだった………。



迷宮の外で意識を取り戻した時、わたしは自分が無傷であることを不思議には思わなかった。

脱出直前まで仲間同士で絶えず治癒魔法を掛け合っている状況だったので、誰かの治癒魔法が掛かった直後だったのだろうと思った。


一人無傷だったわたしは、それからばらばらに倒れていた生還者を見付け出し、治癒魔法を掛けて回った。



帝国最高クラスの魔法使い、九十三名の殉職。


帝国はそれから、一年の喪に服した。



ʄ


「ぐっ………」


魔法で自分の脇腹を貫くと激しい痛みがあり、血が飛び散った。

だが傷口は見る間に塞がり、跡形もなく綺麗になった。

剥き出しの上半身は、迷宮の制圧に向かう前と何も変わっていない。


「―――――――――――――――」


あれから色々試した。

状況調査を命じられた帝国魔法使い達の前でも、自分個人でも。


なんの保証もないので、「試しに死んでみる」という訳にはいかなかった。


初めは腕や足に切り傷を付ける程度のことから試し、それから骨を折ってみたり、体を貫いたりしてみた。


数瞬とはいえ毎回痛みはあるため、かなりきつかった。しかし確認しないままではおれない。


毒も試した。

軽い毒から始めて、徐々に強い毒を。

これも一瞬苦しいが、すぐに回復した。


絶食も試した。

強烈な空腹感はあったものの三日経っても普通に活動出来て、体重が減ることすらなかった。



――――――――――――呪い。



わたしは不老不死の呪いに掛かっている―――――――――――



草地に崩れ折れた。



呪いは魔法の一種だが悪意で掛けられるもので、解除や停止が容易ではない。

レベルゼの呪いを解ける者など、今の時代にはいないだろう。



なぜ気付かなかったんだろう。



一年の間には、小さな怪我くらいならしたこともあったと思う。ただ些細なものだったので、見た時に痛みや傷がなくても、おかしいと思わなかった。この一年、病気をしなかったことも不審に思うようなことではない。



メルモリーの話によると、あの日トラゴスに刺されたあと、わたしは更に大きな怪我をしていたらしい。トラゴス達が破壊した柱の一部が、偶然わたしの背中を直撃したらしいのだ。一度は刺し傷より大量に出血したのに、その血が急に止まって、わたしが目を覚ましたのをメルモリーは見ていた……。



何年か経たなければ証明は出来ないが、自分がただの「不死」ではなく、「不老不死」の呪いに掛かっていることはほぼ確信していた。


迷宮の入口では、そこに隠されている魔道具の一覧を示すのが古代の魔法使い達の流儀だった。

迷宮に入った時、わたし達は古代文字で記された魔道具の一覧が宙に浮かび上がるのを見た。そしてその中に、「不老不死の解呪の宝珠」があったのだ。


不老不死の呪いに掛かっている者でもいない限り、用のない魔道具だ。

なぜこんな物を、とその時には思ったが、迷宮に入った後のどこかの時点で、その呪いはわたしに掛けられていたのだ。




「死ねない、ということなのか………?」




年も取れない――――――――――――――――――――――――――永遠に?




ʄ


「ごめんなさい」


メルモリーは泣いていた。


白い花は、もう散っていた。



「何度も考えたの。あなたが今のまま年老いない人生―――――――――わたしは老いるし、子供や孫はあなたの年齢としを追い越して行く――――――――耐えられる気がしない…………」



目を伏せて、メルモリーは絶句した。



メルモリーは何も悪くなかった。なんの咎もない。



あまりにも当然過ぎて、すがる気持ちも起きなかった。自分の身に起きた出来事を受け止めきれず、感情が少し麻痺していたとも思う。



それでも喪失感は巨大で。



でもこの呪いに彼女を付き合わせることは出来ない。




ずっと傍にいてくれた柔らかな白い肌と輝くような髪を見つめる。




「ごめん、メルモリー」




わたしは君を、苦しめただけになってしまった。






ʄ


事件からひと月が経っていた。


トラゴスはもういない。


襲撃者達は全員、ほぼ即死していた。


皇帝一家が全滅していたら帝国は内戦状態に陥った可能性が高い。もう一度あの日に戻ったとしても、わたしは皇帝を守ろうとはするだろう。

――――――――心では正反対のことを望みながら。



でももしもう一度があるのなら。



別のやり方を選んでいればトラゴスを死なせずに済んだか?


死なせずに済んだとして、そのあとに逃がすことが出来たか?


あの時のことを考える度、そんな風に思う。



宮廷にメルモリーとの婚約の解消を伝えた数日後、わたしは皇帝に召し出された。


ストア夫人が言うように、皇帝の指示は確かに、「婚姻を急げ」「メルモリーとの婚姻を許す」であって、「メルモリーとの婚姻を急げ」ではなかったので、婚約解消自体は皇命に反していなかった。


わたしの今後のことは宮廷で協議されることになるだろうと考えていたので、何かの進展があったのかと思っていた。


―――――――――――だが。


「アルト。デリー家の娘との婚姻を命じる」

「――――――――――――――――――」


言葉が出なかった。


婚約を解消した直後だ。


しかもよりにもよってデリー家とは。

デリー家の今の当主は、四年前の皇后誕生日にメルモリーを小部屋に連れ込もうとしていた、あの男だった。


わたしの呪いのことも、皇帝は報告を受けている筈だった。


どんな内容であれ呪いを負っている人間は敬遠されるものだったし、先方だって、喜んで嫁いで来るとは思えないのに。



わたしはなぜこの男を守ったんだろう。


トラゴスの思いをはばんで。



死ねないわたしは、この帝国にずっと仕え続けるのか?と、ふと思った。


次の皇帝にも、その次の皇帝にも――――――――――――――まさかずっと妻を宛がわれ続けて?





ʄ


しばらくして、わたしは帝国を脱出した。


帝国魔法使いの出奔は本来許されないのだが、今の帝国にわたしを追える者はいなかった。



祖国の情報は折に触れ集め続けていたため、それから数年後、メルモリーが結婚したことを知った。


その後帝国は急激に衰退したが、メルモリーが生きていた間は豊かさを保っていたのでよかったと思う。



レベルゼの迷宮の制圧は、わたしの人生の目標となった。

それは呪いの解除と、仲間達の敵討ちのためだった。





―――――――――――――そして六百年近い月日が流れ、最後の仕上げとして知識の補完のために、わたしは魔法図書館を訪れた。



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前作「魔法図書館の魔女、探し物は本ではないと言われる」はこちらから

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