エピソード93 清廉かつ効率的な官僚機構
『軍務省勤務の爺さんは、こうして上屋敷に帰って来られるのに。宮城で宮仕えしている親父は、相変わらず泊まり込みで仕事してんだな』
帝都の貴族街にあります上屋敷にて、非常に美味しくて滋養の摂れる夕餉を頂いていますけれど。今宵は家督と御領地を希望さんの御父君であらせられます男爵閣下に御譲りになられました後も、准将閣下の軍階級にて軍務省で勤務なされていられます、先の男爵閣下も孫娘のナディーネさんと食事を共にされています。
『軍機に抵触するので詳細は話せぬが。軍務省と外務省から皇帝陛下に奏上奉る上奏文の内容を、宮城にて宮仕えをしている官吏は事前に全て目を通して確認せねばならぬから、今は普段以上に多忙を極めておるな』
帝国の君主であらせられます皇帝陛下は、帝国軍の最高司令官でもありますので、軍事に関する最終決定権を持たれていますから。皇帝陛下の軍隊である帝国軍を統御なされていられます軍務省は、最高司令官による勅裁が必要な案件は、上奏文として認めて、宮城に奏上奉る手続きを行う義務があります。
『これでも儂の若い頃と比べれば、非常に官僚機構が清廉かつ効率的となったのだがな。昔は皇帝陛下への上奏文を通す為には、袖の下の賂が必須だったが。今はそうした賄賂を求める腐敗した官吏は一掃されて、相互監視機構が機能しておる』
地方部出身の平民身分の村娘に過ぎない私は、詳しくは存じ上げてはいませんけれど。帝都には衛兵隊の他にも、軍務省の憲兵隊などの治安機関が存在します。
『爺さんの上官でもある、ケルン家の伯爵閣下は、非常に優秀な御方らしいしな』
チラッ。
孫娘のナディーネさんが、准将閣下の上官であらせられますケルン家の伯爵閣下に言及されますと、私の方に一瞬だけ視線を向けられましてから。
『競売会の会場にて、中将閣下の御令息と御息女の兄妹とは、仮面越しに面識を得たはずだが。令嬢は強力な魔力を身に纏う女魔法使い殿を、非常に御気に召されたそうだ』
私が髪飾りで。ナディーネさんは腕輪で。真実さんは首飾りの魔道具として分割して手に入れた意志ある魔道具でもある遺失魔道具ですが。五つに分割した残りの二つは、ケルン家の伯爵閣下の御令息様と御息女様の兄妹が所持なされていられます。
『…あの兄妹の御二方は、何を御考えになられていられるのか解ら無ぇからな』
ナディーネさんの感想に対して、ヴェレーナさんも大きく頷いて同意を示されました。




