エピソード61 恰幅の良い中年女性
『そこを行く金髪の別嬪さん。一つどうだい♪』
初めて通る帝都の裏通りを歩いていますと、蠱惑的な甘い香りが漂う屋台から、恰幅の良い中年女性が元気な客引きの声を私に掛けられましたので。
『食欲をそそる甘い香りですね』
屋台に近付き話し掛けた私に対して、恰幅の良い中年女性は笑顔で頷かれますと。
『うちの屋台のアプフェル・クーヘンは絶品だからね。金髪の別嬪さん♪』
バター生地に生の林檎を乗せて焼いたアプフェル・クーヘンは、帝国では地域を問わずに人気のあるお菓子です。
『歩いていて少しお腹が空きましたから、一つ頂きます』
『お買い上げありがとう。金髪の別嬪さん♪』
懐から財布を取り出しまして、帝国ターレルの銅貨にて支払いを済ませましてから、恰幅の良い中年女性からアプフェル・クーヘンを一つ受け取り頂きました。
『美味しいですね』
図書館に向かう迂回路を探していて、道に迷った私からしますと、途中で甘いお菓子を販売する屋台を見付けたのは幸運でした。
『その制服は、帝都魔法学園の女子学生なのかい?。金髪の別嬪さん』
アプフェル・クーヘンを販売する屋台を経営されていられるらしい、恰幅の良い中年女性の質問に頷きまして。
『はい。その通りですご婦人。帝都魔法学園の学生寮から、図書館を目指していたのですけれど。普段利用している道が石畳の補修工事の為に通行止めとなっていましたので、迂回路を探しています』
私の説明を聞かれた恰幅の良い中年女性は、得心された表情を見せられましたが。周囲の様子を探られますと、潜めた小声にて。
「図書館への道は教えてあげるから、直ぐに向かった方が良いよ。金髪の別嬪さんのような美人のお嬢さんが、一人で裏通りを歩くもんじゃないからね」
私に対して声を掛けて下されたのは、単なる屋台への客引目的だけで無く、見慣れない年下の女性が帝都の裏通りを独りで歩いているのを見掛けて、同性の女性として心配をして下されたからのようです。
「お気遣いを頂きまして、心底よりのお礼を申し上げます。ご婦人」
小声でお礼を述べました私に対して、恰幅の良い屋台の経営者らしい中年女性は満面の笑顔を浮かべられまして。
「気にする必要は無いよ金髪の別嬪さん。女同士で助け合わないとね♪」




