エピソード56 色眼鏡では見ない平民身分
『パカラッパカラッパカラッ』『パンッパンッパンッ』
『皆さん背筋を伸ばすのを忘れずに、乗馬時の騎乗姿の美しさは、背筋を伸ばして正面を向いた姿勢によります』
『…帝都魔法学園の講義で一番苦手なのは、乗馬の時間かも?』
『同感です恵さん。故郷では農作業に欠かせない荷馬車の荷台に乗る事はありましたけれど、平民身分の村娘に過ぎなかった私は、馬に騎乗する機会はありませんでした』
魔法薬に関する講義の次に、更衣室にて乗馬服に着替えてから、帝都魔法学園で飼育している馬に騎乗して乗馬の講義を受講していますけれど。平民身分の私とハンナさんの二人からしますと、入学前には経験して来なかった内容ですので、かなりの苦行となっています。
『パカラッパカラッパカラッ』『パンッパンッパンッ』
『花女史とハンナ女史。姿勢が前のめりになっていますよ』
『はい。申し訳ありません』
男爵閣下の御息女であらせられる令嬢の希望さんや、子爵閣下の御令息であらせられるアンリ卿などは、乗馬の講義を担当されています女教授による手拍子に合わせて、背筋を伸ばされた美しい姿勢にて騎乗されていますが。平民身分の生まれの私とハンナさんには難しいです…。
{我が主にも苦手とされる分野があるのですな?}
心底から不思議そうに言わないでもらえますか髪飾り。私は物質界とは異なる次元の領域を支配する、精霊王や魔神王では無いのですから。
{火の精霊界を支配する精霊王の一柱でもある焰蛇が、物質界にて馬に騎乗する姿は確かに想像が出来ませんな。我が主よ♪}
『ナディーネの後ろ姿は綺麗だよね♪』
髪飾りと念話をしていて気が付きませんでしたが、ハンナさんが幼馴染みでもあるナディーネさんの後ろ姿を、薄茶色の瞳で追われていましたので。
『はい。ハンナさんの仰られる通りですね。幼い頃から帝国の貴族諸侯であらせられる男爵閣下の御息女でもある令嬢として、努力を積み重ねて来られて身に付けられた、美しい乗馬の姿勢だと尊敬をします』
私の返答を聞かれたハンナさんは、嬉しそうに満面の笑みを浮かべられまして。
『フロリアーヌは私と同じ平民身分だけれど、男爵閣下の御息女ならこれくらい出来て当たり前だという色眼鏡で、ナディーネの事を見ないから嬉しいな♪』
ナディーネさんの幼馴染みとして生きて来られたハンナさんですから、平民身分や奴隷身分による、嫉妬に満ちた陰口も聞いて来られたのだと思われます。




