エピソード55 国全体での統計調査が事実上不可能となる政治体制
『魔法薬の講義を担当している教授は、自己主張が強いから少し疲れるよね…』
本日の一限目の講義を受講し終えましたので、帝都魔法学園の内部を歩いて移動していますが。私と同じ平民身分の恵さんが、短いツインテールの髪型にされている赤茶色を力無く垂らしている様子は、仔犬が不満を示しているような印象を受けます。
『帝国の北の玄関口でもある、団体の盟主の帝国自由都市リューベックで誇りとされている、叡智学園にて教鞭を執られていられます博士の著作である優生学は。貴族諸侯であらせられる止事無い身分の皆様方のみならず。私達のような女魔法使いや魔法使いに対しても、天から根元魔法の素質を授かりし我々は選良であるという認識を、理論武装するのに役立っているようですわね』
帝都にて手広く商売をされています、免状貴族身分の豪商を御父君とされる真実さんは、実家の商売柄最新の情報を入手されやすい立場にありますが。
『宮城で宮仕えをしている下級貴族の親父も、ヴェレーナと同じような事を話していやがったな。全く、余計な本を書きやがって…』
希望さんの生まれ育たれた男爵家は、御爺様であらせられる准将閣下と、帝国騎士身分の兄君の御三方と、御母堂であらせられる男爵夫人様と、末娘の令嬢のナディーネさんは、魔法使いと女魔法使いという御家族ですが。現当主の男爵閣下のみは、天から根元魔法の素質を授からなかった一般人となります。
{根元魔法の素質は、血を分けた家族の全員に受け継がれる訳ではありませんからな。我が主}
魔法使いの祖父と、女魔法使いでもある孫娘の私達二人しか、天から根元魔法の素質を授からなかった家庭環境で生まれ育ちましたから、非常に良く解っています。髪飾り。
『私はお父さんもお母さんも普通の一般人なんだよね。こうした家庭環境から生まれた女魔法使いの事を、博士の優生学では何て説明しているの?』
ハンナさんが大切な幼馴染みでもあるナディーネさんに対して、薄茶色の瞳を向けて尋ねますと。
『アタシは優生学を読んだ事は無ぇよハンナ。本好きの花なら、説明出来るか?』
私達の中では一番長身な、男爵閣下の御息女であらせられる令嬢のナディーネさんが、灰白色の髪の毛を軽く揺らしながら、私に対して藍色の瞳による視線を向けて尋ねられましたので。
『優生学の中では二つの可能性を示しています。先祖返りとも呼ばれる隔世遺伝と、突然変異です。私の場合ですと、魔法使いの祖父から血統により根元魔法の素質を受け継いだ孫娘の女魔法使いとなりますから、分類上は隔世遺伝となります』
以前に図書館で読んだ優生学の内容を思い出しながら話した私に対して、ハンナさんが不思議そうな表情にて。
『フロリアーヌは、納得していないみたいに見えるけれど?』
ハンナさんによる他者の反応の微妙な違和感を察知する能力を、私は持ち合わせていません。
『私は地方部出身の平民身分の農家にて生まれ育ちましたが、それなりの大家族なのに、魔法使いの祖父から血統により根元魔法の素質を受け継いだのは、孫娘でもある女魔法使いの私一人だけでした』
個人的な経験から、博士の著書である優生学の内容に納得がいかないと話しますと。
『アタシの家はフロリアーヌとは逆に、親父だけが一般人だからな。帝国全土で魔法使いと女魔法使いを輩出した家系の平均値を調べれば、答えは出るのかもしれ無ぇが。封建制度を政治体制に採用している帝国では、各領地で暮らす領民の戸籍は、貴族諸侯であらせられる御領主の皆様方が個別に管理しているからな』
封建制度を政治体制に採用している帝国では、国全体の統計調査を行うのは事実上不可能となっています。




