エピソード53 人間以外の存在に対する感謝の気持ち
{物質界における人間社会では、技術革新が日進月歩の勢いで進んでいますが。帝国は根元魔法が盛んな事もあり、魔法薬が一般庶民にまで普及しつつありますな。我が主}
学生食堂での遅めの夕餉を摂り終えましてから、学生寮の女子寮にある私の部屋に戻りまして、明日受講予定の講義の予習を行っていますが。魔道具の髪飾りは、帝国の国内における魔法薬の普及に関して興味を抱いたようです。
『私のように天から根元魔法の素質を授かりし女魔法使いは、帝国内でも少数派に過ぎませんが。帝都での生活水準を大きく引き上げている上下水道網の整備や、夜の街路を明るく灯す魔道具の街灯の他にも。一般人は魔法薬を服用する際に、医者や女医の存在に深く感謝をします。髪飾り』
予習を続けながら淡々と話した私に対して、髪飾りから楽し気な気配が伝わって来まして。
{我が主は本当に慎重な性格をされている女魔法使いですな♪。男女の性別による差異は多少はありますが、十四歳の若者でしたら、自らは天から選ばれし選良であるという、特別意識を少しは持つ場合が多いのですが?}
髪飾りの疑問に対して、私は予習に使用している教科書の中にある、魔法薬の調合に必要不可欠な薬剤に関する物流網の頁を開きますと。
『魔法薬を調合するには、魔力に反応する百合を含む薬剤が必要不可欠ですが。帝都にて安定的に薬剤が調達可能なのは、国内と帝国の属国を含む隣国との間に、安定した物流網が確立しているからです。髪飾り』
帝国の中枢でもある首都の帝都は、巨大な消費都市でもありますが。
『帝国は君主であらせられる皇帝陛下に対して、封土受領之誓いを奉りられました貴族諸侯であらせられる皆様方が、爵位を叙爵されて御領地と領民を御治めになられていられます、封建制度を政治体制に採用していますが』
私の金髪に着けている魔道具の髪飾りには目はありませんが、教科書に記されている帝国の地図に視線を向けているのを感じます。
『帝国の君主であらせられる皇帝陛下の庇護下に置かれている、帝国郵便の郵便馬車は、貴族諸侯であらせられる皆様方が御治めになられていられます御領地内も自由に通過するのを認められています』
封建制度の欠点の一つとして、円滑な物流を領界における検問所にて阻害する恐れが生じる点にありますが。帝国の君主であらせられる皇帝陛下の庇護下に置かれている帝国郵便の郵便馬車の通過を妨げるのは、臣下の義務を果たしていないとの嫌疑をかけられる理由となります。
{謀叛の嫌疑をかけられた貴族諸侯の領地には、隣接する周辺の領地を治める貴族諸侯が皇帝陛下に対する謀叛の疑いありという大義名分を掲げて、帝国の慣習である自力救済により攻め寄せる恐れがあるという緊張感が、安定した物流網の維持に貢献している訳ですな。我が主♪}
ふむ?。
『楽しそうですね?。髪飾り』
私の疑問に対して髪飾りからは、再び楽し気な気配が伝わって来まして。
{帝国は物質界における人間社会の本質である、欲望と恐怖による均衡を絶妙な匙加減にて調整しながら、封建制度という政治体制にて統治しております。我が主♪}
人間では無い意志ある魔道具でもある遺失魔道具が、自らを五つに分割した髪飾りからは、帝国はそのように見えるのですね。
『髪飾りによる客観的な評価は、帝国の地方部出身の平民身分でもある、帝国之住民な女魔法使いの私からしますと、非常に参考になり勉強となります』
{………………}
『どうかしましたか?。髪飾り』
{あ、いえ。我が主が本心から嘘偽りの無い感謝の気持ちを、人間では無い意志ある魔道具でもある遺失魔道具に向けられましたので、少しだけ戸惑いました}
成る程。
『髪飾りは、帝都での貴族諸侯であらせられる皆様方との暮らしが長かったようですね。私は地方部出身の平民身分という環境で生まれ育ちましたから。人間以外の家畜などに対しても、感謝の気持ちを常日頃から抱いてこれまで生きて来ました』
農家では家畜は日々の糧を与えてくれる貴重な財産です。雌鶏は鶏卵を毎日産んでくれますし、卵を産まなくなれば屠畜して鶏肉として、美味しく食卓にて命を頂けますから。人間以外の存在に対しても、私は心底よりの感謝の気持ちを抱きます。




