エピソード513 誰も何も愛さない御方
『ツヴィングリ男爵殿は、花が帝都魔法学園を卒業後も、同級生の女魔法使い殿と同棲生活を送るのは、反対されないそうです』
『有難う御座います。御母様』
ケルン家の伯爵閣下であらせられます御父様の御正妻にして、ブランデンブルク家の侯爵閣下の妹君でもあります御母様は、娘である私に対して御頷きになられますと。
『カール卿が事前に手紙にて、ご父君でもあります男爵殿に事情を説明されていたそうです。恋人であるフロリアーヌの気持ちを尊重する殿方であると、感心をしました』
御母様の御言葉に対しまして、私は心底よりの同意を示しながら、恭しく深々と御辞儀を行いまして。
『はい。御母様。カール卿は幼年学校の野外演習を終えられまして、一段と逞しくなられました凛々しく精悍な殿方な上に、私の話しを真剣に聴いて尊重して下さいます』
娘である私によるカール卿への嘘偽りの無い気持ちを聞かれました御母様は、笑顔にて御頷きになられまして。
『私はブランデンブルク家からケルン家に輿入れしましたが、帝国の貴族諸侯の家門の大半と同じく政略結婚による婚姻でしたけれど、伯爵閣下は妻として心から愛して下さるようになりましたわ♪』
御母様と娘の私による、女性同士による会話を黙って聞かれていました御父様でしたが、優しく微笑まれまして。
『妻として私を支えてくれて、本当に感謝をしている♪』
『嬉しく思いますわ。伯爵閣下♪』
御父様と御母様の御夫妻は、二人きりの時にはお互いを名前で呼び慣わされるそうです。御夫妻で二人きりにて過ごす時間を、本当に大切になされていられます。
『私の甥でツヴィングリ男爵殿の猶子となった帝国騎士殿は、非常に優秀な魔法使いなのだが。男爵殿からの手紙と騎士からの報告によると、生来恋愛感情が欠落しているそうでな。男爵殿からすると、帝都魔法学園にて根元魔法を学ぶフロリアーヌが、愛情豊かな女魔法使いである事に、一種の安心感を覚えているようだ』
ケルン家の伯爵閣下であらせられます御父様の甥の帝国騎士様は、団体の盟主でもあります帝国自由都市リューベックにあります叡智学園にて根元魔法を学ばれています、私とは同い年の魔法使い様だとは聞き及んでいます。
『ヴュルテンベルク家の城伯殿の跡継ぎとなる帝国騎士殿も、帝国自由都市リューベックにある叡智学園にて根元魔法を学んでいる魔法使いだが。私の甥は恩義と友情に厚い性格をしているので、学友との関係は非常に良好らしいが、誰も何も愛さないそうだ』
誰も何も愛さない御方には、世界がどのように見えるのでしょうか…。




