エピソード38 身に付ける機会が無かった技術
『カラッカラッカラッ』
『貴族街では、移動には馬車を用いられますね』
希望さんの御父君であらせられる、男爵閣下の上屋敷から、競売会の会場に向けて移動をしていますが。地方部出身の平民身分である私からしますと、大して離れていない場所への移動にも馬車を使うのは、無駄なようにも感じられます。
『貴族街では歩いて移動しているのは、基本的に使用人だからな』
ナディーネさんの藍色の視線の先を追い、馬車の車窓から貴族街の街路を眺めて見ましたが、確かに今私達三人が着ている夜会服のような服装の人達は見当たりませんでした。
『親父が爺さんから受け継いだ領地でなら、狩猟の際に馬に騎乗したりもするけれどな。花と真実は、帝都魔法学園で一応乗馬の講義は受講しているが、あまり得意じゃねぇみたいだな?』
男爵閣下の御息女であらせられる令嬢のナディーネさんの問いに、免状貴族身分のヴェレーナさんと、平民身分の私は揃って頷きまして。
『私は帝都にて商売をしている商家に生まれましたから、馬車に乗る事はありましても、馬に騎乗する乗馬に慣れ親しむ機会はありませんでしたわね。ナディーネさん』
『私の場合は地方部出身ですけれど、農作業に使う荷馬車の荷台に乗るくらいで、馬に騎乗する機会が無かった点は、ヴェレーナさんと同じです。ナディーネさん』
私達の返答を聞かれたナディーネさんは、得心された表情にて頷きまして。
『確かに乗馬の技術は普通に生きていく上では特に必要は無ぇな。ただ、帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下の身分である、帝国女騎士を目指すなら。最低限の乗馬の能力は必須とされるから、帝都魔法学園での講義には身を入れて受講した方がいいな』
帝都魔法学園で根元魔法を学ばれていられる学生の中には、貴族諸侯であらせられる皆様方の家門に生まれたナディーネさんやアンリ卿のような方々も居られますので。平民身分の私がこれまで身に付ける機会が無かった技術を習得する事が出来る、貴重な学び舎となっています。
『はい。ありがとうございます。ナディーネさん』




