エピソード28 異性による細かな反応の違い
『ワイワイ・ガヤガヤ・ザワザワ』チラッ、チララッ。ジイッ…。
『実用性を重視されて、魔玉等は埋め込んではいない指輪ですね。アンリ卿』
帝都魔法学園における本日の午前中の講義は終わりましたので、学生食堂にて昼餉を摂っていますが。
『帝都魔法学園に入学する際に父上から贈られた、毒殺予防の治癒魔法が付与されている魔道具の指輪になりますが。実用性を重視した造りとなっている理由はお解りですか?。花女史♪』
黒髪と褐色の肌色との対比が色鮮やかな、手入れが行き届かれている並びが良い、純白な歯をされているアンリ卿が。御自身の指輪を手に取り調べている私に問われましたので。
『昨日アンリ卿が参加なされた狩猟講義のような狩猟を行う際には、凝った造りですと邪魔となる場合もあります』
封建制度を政治体制に採用している帝国において、少数派の文化圏に属される貴族諸侯であらせられる子爵閣下を御父君とされるアンリ卿は、笑顔で頷かれまして、平民身分の私に続きを促されましたので。
『御自身の名誉を掛けた一騎討ちをされる際にも、凝った造りの指輪は邪魔となる恐れがあります。アンリ卿』
騎士道精神は、帝国では徐々に廃れて来てはいますが。決闘文化という慣習自体は、自力救済を重んじる社会で広く容認されています。
『帝国軍でも個人的な諍いの解決方法として、公正中立な立会人が居れば軍人同士による決闘は認められているからな』
御爺様と兄君が職業軍人の男爵家にて生まれ育たれた、希望さんの話しにアンリ卿も頷かれまして。
『自分自身と家族や大切とする人物の名誉を護る為の決闘を認めている、帝国軍の軍隊文化は素晴らしいと思います。令嬢ナディーネ女史♪』
免状貴族身分の商家に生まれ育たれた真実さんは、子爵閣下の妾腹の御令息でもあるアンリ卿の考え方には、内心では思う所があるようですが。一年以上の交流がある、同性の女性である私が辛うじて察知出来る範囲での、気配の変化を僅かに示されただけでした。
『指輪をありがとうございました。アンリ卿』
女魔法使いとして毒無効化の治癒魔法が付与された装飾品に興味を抱いた私の知的好奇心を満たす為に、御父君であらせられる子爵閣下から贈られた指輪を貸して下されたアンリ卿に対して御礼を述べて返しますと。
『貴女のように礼節を弁えた素敵な淑女の為にでしたら、一騎討ちなどの決闘も厭いません。フロリアーヌ女史♪』
…純白の歯を光らせながら、貴公子然とした笑みを浮かべられながら話されたアンリ卿に対して。私は昨日に刑場にて、治癒魔法の実習講義を引率なされた、帝国女騎士身分の老女教授に行ったのと同様に、深々と御辞儀をして表情が見えないようにしましてから。
『有難う御座います。アンリ卿』
私の反応の真意を、同い年の同性の女子学生でもあるナディーネさんとヴェレーナさんと恵さんは、気が付かれたようでしたが。
『お気になさらずに。フロリアーヌ女史♪』
天から根元魔法の素質を授かりし魔法使いにして、子爵閣下の御令息でもあるアンリ卿は、同い年の異性による細かな反応の違いを察知する能力は持ち合わせてはいませんでした。




