エピソード27 帝室と貴族諸侯であらせられる皆様方の間での常識
『帝都の闇を払う光を齎す街灯や、文化的な生活を営む上では欠かせない上下水道網の浄水設備などは、貴賤貧富を問わずに恩恵を享受出来る魔道具ですが。職人街にある工房では、貴族諸侯であらせられる皆様方から、ミスリル銀製の装飾品に根元魔法を付与して欲しいとの依頼が数多く寄せられています』
帝都魔法学園で根元魔法を学ぶ学生の半数以上は、卒業後に帝都にある職人街の工房に弟子入りされますから。教授による本日の講義内容は自らの進路と将来に直接関係すると考える人達も多く、二年生の同期生は普段以上に真剣な表情で受講されています。
『工房を経営される親方は、職人であると同時に経営者でもありますので。貴族諸侯であらせられる皆様方からの依頼は、高額な報酬を得られるので基本的には積極的に受注されますが。高名な一流の親方となりますと、帝室や上級貴族の皆様方からの依頼しか受けずに、最高級の魔道具を特別に製作されていられます』
昨日に図書館で読んだ、帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下でもある、帝国騎士身分と帝国女騎士身分に叙勲された皆様方の名簿の中にも。帝室と上級貴族の皆様方に対する貢献を評価された、工房を経営されている親方の姓名も一部にありました。
『さて、ここで質問ですが。帝室や上級貴族の皆様方が、工房に依頼される装飾品への付与を望まれる根元魔法で、一番多いのは何だと思いますか?』
スッスッスッスッ。
教授の質問に対して、私や真実さんと希望さんとアンリ卿などが、静かに挙手をしました。
『それでは花女史』
『はい。教授』
講義を担当されている教授から指名された私は、椅子から立ち上がりますと。
『毒殺を防ぐ治癒魔法を、装飾品に付与して欲しいとの依頼が一番多いかと思われます。教授』
二年生の女子学生である私の解答を聞かれた壮年期の教授は、柔和な笑みを浮かべられまして。
『正解ですフロリアーヌ女史。社交界への御披露目を行う際に、毒殺を防ぐ治癒魔法を付与した装飾品を、御子に贈るのが、帝室と上級貴族の皆様方の家門では、一種の慣習となっています』
一度社交界に御披露目されれば、以降は晩餐会や舞踏会等の席では料理や御酒を口にする必要が生じますから。毒を盛られた葡萄酒等を飲んでも大丈夫なように予防策を打たれるのも、帝室と上級貴族の皆様方の間では常識とされています。




