エピソード256 自制心のある十四歳の若者達
『雨が降った後に地面が陥没したんだな。アンリ?』
『はい。令嬢希望女史。付近一帯の地主でもある牧場主の話によりますと。放牧している馬が落ちては困るので埋めようとしたそうですが、松明を使い中を覗き込みますと、明らかに人工物の地下通路に繋がっているので、どうするべきかと頭を抱えているそうです』
ゾーリンゲン家の男爵閣下の御息女であらせられますナディーネさんと共に馬に乗られました後に、レバークーゼン家の子爵閣下の御令息様であらせられますアンリ卿が、牧場主により引き留められて話をしていた理由は、雨で地面が陥没をしまして、明らかに人工物な地下通路に繋がる謎の建造物が理由でした。
『引率代表の帝国女騎士様に連絡しなくていいの?。アンリ』
恵さんの確認に対して、黒髪と褐色の肌色をされているアンリ卿は軽く肩を竦められますと。
『帝国女騎士様は憲兵隊を古巣とされていますから、牧場主としては帝国軍の皆様方が関わり大事にはしたくはないそうです。ハンナ女史』
成る程。アンリ卿の御父君であらせられますレバークーゼン家の子爵閣下は、財務省が管轄をされています財務警察の警視正ですから。軍務省よりは財務省の方が、事を大事にしないだろうという判断が、牧場主にはあったようですね。
{帝国軍はケーニヒスベルク家の辺境伯閣下が、大将の軍階級にて東方拡大戦争の指揮を執られている軍隊組織ですから。辺り一帯を全て掘り返されたりしたら、牧場主としては大迷惑ですからな。我が主}
『地下通路の建造物の様式は、約百年程前に流行していた宝物庫と共通点があります』
根元魔法の光により内部が照らされています地下通路を、瑠璃之青の瞳の視線で見下ろしながら観察して見解を述べた私を、アンリ卿が声を掛けられた帝都魔法学園の二年生の全員が見詰めまして。
『解るのですか?。花女史』
アンリ卿の問いに、私は御辞儀を行いまして。
『はい。アンリ卿。以前に図書館で読んだ本に挿絵付きで詳しく記載されていました。約百年程前に流行した主に地下に建造する宝物庫ですが、番人として召喚魔法で呼び出し呪縛をした、魔界の住民が使われている例が多いと書かれていました』
私の説明を聞かれた全員が、お互いの顔を見合わせられまして。
『魔界の住民か…。下位魔神くらいならアタシ達でも何とかなるが。万ヶ一にでも魔神王が呪縛されていたら、手に負え無ぇな』
ナディーネさんの見解に、私達は揃って頷きまして。
『私達が暮らす物質界とは異なる次元に存在をします、魔界の領域を支配する魔神王が、万ヶ一にでも呪縛されている宝物庫でしたら。解き放った場合の被害は想像を絶しますわね』
真実さんの話に、ザスキア女史も同意をされまして。
「そ、その通りだと思います。ここは牧場主さんに、帝国女騎士様に御話をするのが最善だと、説得をされるべきかと…」
帝都魔法学園にて共に学ぶ私の学友達は十四歳の若者ですが、自制心も持ち合わせています。
『解りました。牧場主には詳細を説明して、帝国女騎士様に伝えるべきだと説得をします』
{誰一人として、内部を探索するべきだとは主張されませんでしたな?。我が主}
ヴェレーナさんが仰られた通り、万ヶ一にでも魔神王が呪縛されていて解き放った場合の被害は、私達の想像を絶しますから。髪飾り。