エピソード199 脳内に感じる沈黙
『チャプンッ。シャアアアッ』
『花さんは、本当に賢明だと思いますわ♪』
『有難う御座います。真実さん』
カール卿と幼年学校の正門近くで別れましてから、公衆浴場に湯浴みに来ましたけど、先にヴェレーナさんが来られていました。
『カール卿は止事無い身分であらせられますツヴィングリ男爵閣下の御嫡男様ですから、いずれは貴族諸侯の家門の令嬢か淑女と婚約なされますわね♪』
私が公衆浴場に湯浴みに来るのが普段よりも遅いのを訝しまれたヴェレーナさんに、カール卿と飲食店内にて夕餉を共に摂ったと伝えますと、最初はヴェレーナさんは冷ややかな表情を見せられましたが。
『カール卿の姉君であらせられます令嬢星様も、ヴュルテンベルク家の城伯閣下の跡継ぎであらせられます帝国騎士様と婚約されていられますから。カール卿からしますと地方部出身の平民身分の村娘に過ぎない私は、帝都の幼年学校にて寄宿生活を送られている間の遊び相手として丁度良い、女子学生な女魔法使いです。ヴェレーナさん』
私がカール卿に対して特別な感情を一切抱いていないと確認をされたヴェレーナさんは、満足気な笑みを見せられまして。
『フロリアーヌさんの仰られる通りですわね♪』
意志ある魔道具でもある遺失魔道具の髪飾りは、公衆浴場で湯浴みをする際には外して、城伯閣下から頂戴しました魔道具の夜之祝福と一緒に他の人達から見えないように手拭いの中に包みしまっていますから、脳内会話の念話で話し掛けられません。
『チャプンッ。シャアアアッ』
『ヴェレーナさんも首飾りを外していられますけれど、意志ある魔道具でもある遺失魔道具から話し掛けられないと、違和感を覚えませんか?』
私の問いに対してヴェレーナさんは、少し考え込まれましてから。
『そうですわねぇ…。確かに脳内に沈黙を感じる事はありますわね。フロリアーヌさん』
ふむ。やはりヴェレーナさんも私と同じ感覚を覚えているようです。
『腕輪の主である希望さんも、普段の反応から見まして、私達と同様だと思われますわねフロリアーヌさん。耳飾りの主であるケルン家の令嬢に関しては、解りませんけれど?』
帝都の貴族街にありますヴュルテンベルク家の城伯閣下の上屋敷にて、久し振りに御会いした令嬢は、意志ある魔道具でもある遺失魔道具の耳飾りを着けてはいられましたけれど、脳内会話である念話をされているかは、私もヴェレーナさんと同様に外からは解りませんでした。