エピソード198 一度きりしかない人生ですからね
『今宵も非常に楽しい時間が過ごせました。花女史♪』
『私の方こそ御馳走様でした。カール卿』
飲食店での夕餉を摂り終えましてから、カール卿と私の男女二人は、帝都にあります幼年学校の正門近くまで話ながら歩いて来ました。
『また御会い出来ると嬉しく思います。フロリアーヌ女史♪』
幼年学校にて寄宿生活を送られるカール卿は、遊び相手として私を気に入られたようです。
『はい。カール卿』
止事無い身分であらせられます、貴族諸侯のツヴィングリ男爵閣下の御馳走様であらせられますカール卿は、私が過度に入れ込まない適度な距離を保つ素っ気ない態度で肯定をしますと、満面の笑みを見せられまして。
『ありがとうございます。フロリアーヌ女史♪。それではお休みなさい』
『はい。カール卿。御休なさい』
カール卿が幼年学校の正門を通り姿が見えなくなるまで見送りますと、私は公衆浴場に向けて歩き出しました。
{我が主とカール卿は御似合いですな♪}
御父君であらせられますツヴィングリ男爵閣下から、血統により根元魔法の素質を受け継がれなかった一般人なカール卿からしますと。退役軍人な魔法使いの祖父から、隔世遺伝で根元魔法の素質を受け継いだ孫娘な女魔法使いの私は、将来的に御自身が儲けたいと御考えになられている御息女の令嬢の理想像なのかも知れません。髪飾り。
{成る程。単なる遊び相手という訳では無く、カール卿の御立場からしますと、我が主のように優れた選良の女魔法使いを、御息女であらせられる令嬢として天から授かりたいと御考えになられる訳ですな}
私が優れた女魔法使いであるかは評価が分かれますが、カール卿の御立場からしますと、御父君であらせられますツヴィングリ男爵閣下の孫と孫娘となる御自身の御子は、隔世遺伝により天から根元魔法の素質を授かりし魔法使いか女魔法使いである事を、強く望まれていられるのだと思われます。髪飾り。
{女魔法使いの我が主が、カール卿の御夫人となれば、魔法使いか女魔法使いが生まれる確率は高まると思われますが?}
私は地方部出身の平民身分の村娘ですよ髪飾り。止事無い身分であらせられます皆様方の愛妾にはなれるかも知れませんが、御正妻であらせられます御夫人にはなれません。そして私自身も、加齢に伴い容色が衰えたら捨てられる可能性の高い愛妾となるのは望みませんから。カール卿と私の男女関係は、遊び相手に始まり終わります。
{我が主は慎重な御方ですな♪}
一度きりしかない人生ですからね。他者に運命を委ねる愛妾という不安定な生き方を選ばないだけです。髪飾り。