エピソード182 会場の席順
『真実さんの隣の席で助かりました』
『私も嬉しく思いますわ。花さん♪』
帝都の貴族街にありますヴュルテンベルク家の城伯閣下の上屋敷に到着した私達は、晩餐会の案内役の使用人の方に招待状を見せまして会場まで案内をして頂きましたが。
『フロリアーヌの表情を窺い、平民身分の席で免状貴族身分に一番近い席に迷わず案内をしたよね』
平民身分の私と恵さんは一緒に使用人の方に案内をされましたが、直ぐ隣が免状貴族身分のヴェレーナさんの席でした。
チラッ、チララッ。
「あちらの金髪と瑠璃之青の瞳をされていられるのは、どちらの止事無い身分であらせられる皆様方の家門の令嬢か淑女かしら?」
「平民身分の席に座られているという事は、正式に認知はされていられない女魔法使い殿ですわね」
…もうこうした誤解には慣れましたから、視線と囁き声も以前ほどは気になりません。
『ザスキアも来ているね』
ハンナさんの薄茶色の瞳の視線の先を追いますと、外務省に勤務されていられます帝国騎士様を御父君とされるザスキア女史が、希望さんとヴェレーナさんの席の中間に居心地が悪そうな表情にて腰掛けていられました。
『御父君であらせられます帝国騎士様から、城伯閣下の上屋敷にて開催される晩餐会に出席するように申し付けられたそうですから。ザスキア女史自身は出席したくは無かったようですわね』
ザスキア女史もヴェレーナさんも、御父君の家父長権には従わざるを得ない娘の立場ですので。命令に従わなくとも済むようにするには、帝国の君主であらせられます皇帝陛下の直臣の臣下である帝国女騎士身分となる必要があります。
『私はお父さんからは特に何も言われないから、ザスキアよりも恵まれているからね』
そういえばハンナさんのご父君は、ナディーネさんの御父君であらせられます男爵閣下から出入りを許されている御用商人であるという以外の事は、何一つ知りませんが。封建制度を政治体制に採用しています帝国では、平民身分の御用商人の重要度は止事無い身分であらせられる皆様方とは、比べ物にならない程に低いのが事実です。
『私は御父様に借りを作りたくはないので、フロリアーヌさんに好意を寄せるカール卿に招待状を用意して頂きましたわ』
『ツヴィングリ男爵閣下の御嫡男様であらせられますカール卿からしますと、帝都の幼年学校で寄宿生活を送る間の遊び相手としては、平民身分の私は非常に都合が良いですから。ヴェレーナさん』
カール卿は私が本気にはならない遊び相手としては丁度良いと、御考えになられていられるようです。