エピソード178 無条件に信用をする人物
『根元魔法の帰還を使えば、帝都魔法学園の学生寮まで一瞬で帰れますけれど。こうして真実さんと二人きりで歩きながら帰る方が、楽しいと私は感じています』
幼年学校で寄宿生活を送られていますカール卿と別れましてから、ヴェレーナさんと二人きりで歩いて夜の帝都を移動していますけれど。
『とても嬉しく思いますわ。花さん♪』
銀白色の髪の毛と、緑青色の瞳をされていられます、止事無い身分であらせられる皆様方の家門に生まれた令嬢か淑女であると、多くの人達が感じるであろうヴェレーナさんは、私に対して蠱惑的に見える笑みを見せられまして。
『昨夜フロリアーヌさんが、恵さんと二人で女子寮に帰って来られた際に、希望さんが藍色の瞳の中に険難な光を浮かべられましたけれど。私もナディーネさんに近い気持ちを抱きましたわ♪』
{腕輪の主による、大切な幼馴染みであるハンナ女史に対する独占欲と同じ感情を。首飾りの主は、我が主に対して抱いていられると告白をされましたな}
ヴェレーナさんのように素敵な女性にそのように想って頂けるのは、非常に光栄ですね。髪飾り。
『非常に光栄に想います。ヴェレーナさん』
意志ある魔道具でもある遺失魔道具の髪飾りとの、脳内会話である念話とは異なり、言葉として発しないと伝わらない気持ちを声に出して話しますと。
『うーん。フロリアーヌさんが私に対して、感謝の気持ちを抱いてくれているのは伝わりますけれど。あと一歩という所のようですわね♪』
あと一歩ですか?。
{首飾りの主は、我が主に身も心も委ねる一心同体の恋人となって欲しいようですな}
ふうむ…。私は誰かを無条件に信用した記憶がありませんから、ヴェレーナさんに身も心も委ねて一心同体の恋人となる方法が解りません?。
『ヴェレーナさんは、誰かを無条件に信用した記憶はありますか?』
私が瑠璃之青の瞳による視線を、ヴェレーナさんの綺麗な緑青色の瞳に向けて尋ねますと。
『…そうですわねぇ。幼い頃に専属の乳母奴隷をしていた、奴隷身分でした女性奴隷労働者の事は、実の御母様以上に無条件に信用していたように記憶をしていますわ。フロリアーヌさん』
ふむ?。やはり地方部出身の平民身分の村娘である私と、帝都にて手広く商売をされていられます、免状貴族身分の豪商を御父君とされるヴェレーナさんとでは、幼少期の生活環境が大きく異なりますね。
『奴隷身分でしたという事は、ヴェレーナさんの専属の乳母奴隷をされていた奴隷身分の女性奴隷労働者は、今では解放奴隷となっているのですか?』
私の問いに対してヴェレーナさんは、一瞬だけでしたが表情を歪められまして。
『私が身代金目的の営利誘拐未遂に遭った際に、私を庇い命を落としましたわ。御父様は彼女の献身に対する報酬として、家族を全員奴隷身分から解放されましたから。今では彼女は平民向けの墓地で静かに眠っていますわね。フロリアーヌさん』
……スッ。
『不躾な質問をした事を、心底より御詫び申し上げます。ヴェレーナさん』
恭しく深々と御辞儀をしまして、謝罪の気持ちを伝えますと。
『お気になさらずに。フロリアーヌさん♪』
…少なくともヴェレーナさんには、自らの命を犠牲にしてでも護ろうとしてくれた大切な人が過去に居たのを知る事が出来ました。