エピソード171 其の道の玄人
「シュッ、シュッ、シュッ」
『恵さんは赤茶色の髪の毛を短いツインテールにされていますが、非常にお似合いだと思います』
『ありがとう花♪。希望とは喧嘩になると、背中に馬乗りにされて左右に引っ張られるんだけれどね』
公衆浴場の大浴場での湯浴みを終えまして、脱衣所内に設置してある大形の姿見の前の椅子に並んで腰掛けながら、私とハンナさんは鏡に写る自分自身の姿を見ながら、髪の毛を櫛で丁寧に整えています。
「シュッ、シュッ、シュッ」
『ナディーネさんは帝都魔法学園で乗馬の講義を受講される際にも、背筋を伸ばされた非常に美しい姿勢にて騎乗されていられますね』
『うん。フロリアーヌの言う通りね♪』
{ハンナ女史は自らが、幼馴染みである腕輪の主に馬扱いをされても、一切気にされずに笑顔にて楽し気に話されていられますな?。我が主}
ハンナさんとしてはナディーネさんとの喧嘩は、対等な友人同士による肌の触れ合いを含む、親密な交流の延長線上の行為に過ぎないのかも知れません?。髪飾り。
「シュッ、シュッ、シュッ」
ふぅむ…。大形の姿見の鏡に写る自分自身の姿を見ながら、同時に脱衣所内に居る他の女性達の様子も観察していますが、特に奇妙な行動をしている人物は見付かりません?。
{我が主を監視しているのだとしましたら、其の道の玄人が、組織的に動いているようですな}
どうにもそのようですね。放火殺人事件の嫌疑が完全には晴れていないのかも知れません。他の理由で尾行されながら監視をされている可能性もありますけれど。髪飾り。
「シュッ、シュッ、シュッ」
『私はこの後にいつものように洗濯屋に立ち寄りましてから、帝都魔法学園の学生寮の女子寮に帰りますけれど。ハンナさんはどうされますか?』
誰に尾行されているのか解らないのなら、この後の行動予定を敢えて声に出してハンナさんと話して、その通りに動いて尾行されている事に気が付いていない振りをする事に決めました。
{其の道の玄人が相手ならば、その対応が一番賢明かも知れませんな。我が主}