エピソード17 御辞儀を行う慣習のある帝国の封建制度
『ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ』
うん?。
『全員。魔法障壁を展開』
『えっ?』『何が起きて?』
『ウヴンッ』
治癒魔法の実習講義を行っていた刑場を取り囲む壁の外側から、何かが内側に複数投げ込まれますと。引率を担当されている老女教授が、魔法障壁を展開するように学生達に指示されましたが。指示通りに魔法障壁を展開出来た学生は、私と真実さんと希望さんの三人だけでした。
『ボンッ、ボンッ、ボンッ』『うわっ!』『なっ、何だっ!』
壁の外側から複数投げ込まれたのは発煙筒ですね。壁に囲まれている刑場の内部は、発煙筒による煙幕が張られて視界が遮られました。
『魔法障壁を展開しつつ、全員その場を動かないように』
『『は、はいっ。帝国女騎士様』』『ウヴンッ』
経験豊富な老女教授による威厳のある声による指示は、帝都魔法学園で根元魔法を学ぶ十代の学生達を落ち着かせる効果もあります。最初の指示の際には動揺して魔法障壁を展開出来なかった他の学生達も、遅蒔きながらも指示に従い魔法障壁を展開しました。
『大丈夫か?。恵』
『う、うん。ありがとう。ナディーネ』
ナディーネさんは発煙筒が投げ込まれますと、反射的に大切な幼馴染みでもあるハンナさんに駆け寄り、老女教授の指示により展開した魔法障壁の内側に二人で一緒に入られています。
『持ち場を離れるな』『はい。衛兵長』
発煙筒による煙幕が張られていますので、魔法障壁の外側は視界が遮られていますが。帝都の刑場に勤務される衛兵隊は、訓練が行き届いていられ…。
『衝撃波』『ブゥオッ』『うわっ!。ドサッ』
発煙筒による煙幕で視界が遮られている刑場内ですが、天から根元魔法の素質を授かりし女魔法使いでもある私は、魔力探知が行えますので。姿隠之魔法を発動して煙幕の中を移動していた怪しげな人物を、衝撃波で吹き飛ばしました。
『失敗だ。逃げるぞ』『おうっ』
煙幕の中には他にも複数名の侵入者が居たようですが、失敗を悟ると速やかに撤退行動に移ったようです。
『思い切りの良い行動でした。皇帝陛下の軍隊である帝国軍で、三十年間勤め上げられた退役軍人である、経験豊富な魔法使いのおじい様による薫陶の賜物ですね。花女史』
煙幕が晴れて視界が戻った刑場内にて、私は帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下でもある、帝国女騎士身分の老女教授に対して、顔の表情が見えないように恭しく深々と御辞儀を行いまして。
『身に余る勿体ない御言葉で御座います。帝国女騎士様』
…封建制度を政治体制に採用している帝国では、下位の身分や立場にある者は上位者に対して御辞儀を行いますが。今みたいに内心の不愉快さを表情から気取られたくない時には、深々と御辞儀を行う慣習のある帝国の封建制度に、心底よりの感謝をしたい気分です。