エピソード16 現実世界に与える影響と効果を具体的に組み立てる
『え、えーと。治癒魔法に限らず根元魔法を発動する際には、頭の中で現実世界に与える影響と効果を具体的に組み立ててから、魔力に命じるから…』
幼馴染みの希望さんによる挑発に乗せられる形で、売り言葉に買い言葉で啖呵を切られた恵さんですが、生まれ持った本来の性質は引っ込み思案なようですので。赤茶色の短いツインテールを神経質そうに小刻みに震わせながら、不安そうに薄茶色の瞳で、頑丈な器具に拘束されている咎人の背中の裂傷を観察されています。
『花の言う通り、裂けているのは背中の表皮だけで、真皮までには鞭打の裂傷は到達していないから…』
ハンナさんの美点の一つとして、常に周囲に気を配り他者の話を聞いている点にあります。私による裂傷に関する診断も聞き流す事無く役立てていられる点は、帝都魔法学園で共に根元魔法を学ぶ学友の女魔法使いとして好感を覚えます。
『よし。頭の中で現実世界に与える影響と効果を組み立てられた』
ハンナさんが覚悟を決めて体内の魔力に意識を集中する様子を、幼馴染みのナディーネさんが、深い想いを込めた藍色の瞳で見詰めつつ、嬉しそうに口元を綻ばせていられました。
『『治癒魔法。背中の傷よ癒えよっ!』』
『シュウウウッ』
内心の躊躇いを消し去る意味を込めて、ハンナさんが大声にて治癒魔法を発動しますと、私から見れば魔力の制御が未熟な根元魔法ではありますが、無事に発動をしまして。咎人の背中の裂傷が塞がり癒されました。
「ふうっ…」
安堵感から溜息を吐かれて肩の力を抜かれたハンナさんに対して、ナディーネさんが満面の笑みを浮かべながら。
『ははっ。何だよやれば出来るじゃねえか。失敗したら指差して笑い飛ばしてやろうと思っていたのにさ♪』
ナディーネさんの反応に対して、ハンナさんは頬を膨らませまして。
『もうっ。ナディーネなんて嫌いっ!』
ナディーネさんとハンナさんが仲良く話されている間に、老女教授が器具に拘束されている咎人に近付かれて、治癒魔法による癒やしの効果を冷静な眼差しにて確認をされまして。
『完全に鞭打による裂傷は塞がり癒されています。見事ですハンナ女史』
帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下でもある、帝国女騎士身分の老女教授による威厳のある声にて、自身の治癒魔法の効果を認められたハンナさんは。反射的に背筋を伸ばして直立不動の姿勢を取られますと。
『『あっ、有難う御座います。帝国女騎士様っ!』』