エピソード149 沈黙に対する違和感
『チャプンッ』
『帝都魔法学園の学内での湯浴みを、教授が手配されたのは賢明だと思いますわね。花さん♪』
根元魔法の講義を終えた私達は、乗馬の講義を終えた後に湯浴みを行う学内の浴場にて入浴していますが。
『はい。真実さんの仰られる通りだと思います。一時的に魔力を強化する香水の瓶による副作用で、光り輝く魅力に溢れるヴェレーナさんが、公衆浴場に向かう為に帝都の街中を歩いて移動されますと、必要以上に注目を集めます』
笑顔で御話になられましたヴェレーナさんに対して、私が思ったままに本心を伝えますと。希望さんと恵さんが、浴槽のお湯に浸かりながらお互いの顔を見合わせられまして。
『少し雰囲気が変わったか?』
『フロリアーヌなりに、ヴェレーナへの気持ちを自覚した感じかな?』
ナディーネさんはヴェレーナさんと私が一時的に魅了効果を得ましても、大切な幼馴染みであるハンナさんにしか関心を持たれなかったのは、揺るぎない気持ちの持ち主だと証明されました。
『教授は大丈夫だと仰られていましたけれど、痛みはありませんか?。ザスキア女史』
私が周囲に展開した、不可視の魔法障壁に突進されて気絶したザスキア女史は、申し訳なさそうな表情にて浴槽のお湯に浸かられながら。
「は、はい。み、見苦しい醜体を晒しまして、お詫びの言葉も御座いません。フロリアーヌ女史…」
身体の怪我自体は大丈夫そうですが、ザスキア女史は自身が恋多き乙女であると自覚された事による、精神的な打撃の方が深刻なようです。
『………………』
ああ、そうでした。意志ある魔道具でもある遺失魔道具の髪飾りは外して湯浴みをしていますから、彼が脳内に直接念話にて話し掛けるのに慣れてしまいますと、沈黙に違和感を覚えます。
『ヴェレーナさんは首飾りを、ナディーネさんは腕輪を外して湯浴みをされていますけれど。沈黙に違和感は覚えませんか?』
私の問いに対してヴェレーナさんとナディーネさんは、浴槽のお湯に浸かりながら揃って御頷きになられまして。
『フロリアーヌさんの仰られる通り、沈黙に対する違和感を覚えますわね』
『普段は喧しいと感じる事もあるが、外すと確かに静か過ぎるな』
私の髪飾りと、ヴェレーナさんの首飾りと、ナディーネさんの腕輪は、公衆浴場では外して脱衣所に置いておくと危険ですので、浴場の中に持ち込むのが習慣化していましたから。脳内に直接語り掛ける念話が無い沈黙に対して、三人共に共通する違和感を覚えるようになりました。