エピソード144 脳内の世界と外の世界
『希望達は、ザスキアの香水の瓶で魔力を強化して、普段は発動が出来ない根元魔法を試さないの?』
何時にも増して魅力的となっている大切な幼馴染みに話し掛けられたナディーネさんは、何かの衝動に耐えるかのように身体を小刻みに震わせてから、私と真実さんの方に、半ば無理やり藍色の瞳の視線を向けられまして。
『ヴェレーナと花は、何か試したい根元魔法はねえのか?』
ハンナさんから視線を逸らす口実として、ナディーネさんが私達に話し掛けられたのは明白ですけれど。私とヴェレーナさんは敢えて気が付いていない振りをしながら、お互いの瑠璃之青と緑青色の瞳による視線を、空中にて絡め合わせまして。
『退役軍人の祖父から、理論だけは学んだ根元魔法の攻撃魔法があります。ヴェレーナさん』
『私は帝都魔法学園に入学する前に、家庭教師をされていた女師匠から、理論だけは学んだ根元魔法の攻撃魔法がありますわね。フロリアーヌさん♪』
私とヴェレーナさんによる会話を聞いた周囲の人達が、天から根元魔法の素質を授かりし魔法使いと女魔法使いとして、私達が魔力を一時的に強化して放つ攻撃魔法を見てみたいという眼差しを揃って向けて来られました。
『発動しましたら、標的を消滅させてしまうと思われますが、許可を頂けますか?。教授』
ハンナさんが放たれました、要塞の城壁を貫通させる強力な攻撃魔法である、火槍に耐えた標的が消滅すると話した私に対して。魔法使いの教授は、これから試す攻撃魔法の種類に見当が付いたらしく、苦笑を見せられまして。
『皇帝陛下の軍隊である帝国軍にて、三十年間勤め上げられて、軍人恩給を受給なされていられるフロリアーヌ女史の御爺様は退役軍人として。孫娘に対して、非常に危険な根元魔法の理論を教えられましたね』
『唯一自らの血統により根元魔法の素質を受け継いだ孫娘である私に対して、退役軍人としての知識と技術を残したかったのだと思われます。教授』
{御爺様は、いずれは孫娘であらせられます我が主が、発動可能となるだけの魔力を身に付けられるとの確信があったようですな}
血を分けた身内の中で、私しか根元魔法の素質を受け継いだ女魔法使いがいなかったという、消極的な理由かも知れませんよ?。髪飾り。
『動かない標的に撃ち込んでも、効果が解らないのは理解していますわ。首飾り』
『ヴェレーナ。さっきのアタシと同じく、念話の会話内容が声に出てるぞ』
『あら。失礼いたしましたわ。ナディーネさん♪』
ナディーネさんとヴェレーナさんの御二方は、意志ある魔道具でもある遺失魔道具との念話に、少し苦労されていられるようです。
{我が主のように、頭の中で通常の会話と無言の念話を切り替えて行える御方は貴重ですからな♪}
私の場合は以前から、大好きな読書中は完全に本の中に入り込み没入する傾向にありましたから、脳内の世界と外の世界を分けて考えやすいようです。髪飾り。