エピソード136 油断大敵を骨の髄まで
『ワイワイ・ガヤガヤ・ザワザワ』
『昨夜の予習中に、意志ある魔道具でもある遺失魔道具の髪飾りとの対話の結果、私は希望さんの御家族と、ザスキア女史と兵士卿による姉弟の関係に、無自覚に嫉妬していたと認識しました』
翌朝。帝都魔法学園の学生食堂にて朝餉を摂りながら、昨夜に髪飾りとの対話の結果導き出された結論を話しますと。ナディーネさんと真実さんが、揃って苦笑を御浮かべになられまして。
『アタシの腕輪も大概だが、花の髪飾りも当たりが強いな。ヴェレーナの首飾りはどうだ?』
灰白色の髪の毛をされています、男爵閣下の御息女であらせられますナディーネさんが、藍色の瞳による視線をヴェレーナさんに向けて問われますと。
『私の場合は首飾りからは、止事無い身分に生まれたナディーネさんと、家長である退役軍人の御爺様から、自由に生きる事を認められているフロリアーヌさんに対する、強い嫉妬を指摘されていますわね♪』
笑いながら答えられましたヴェレーナさんによる話を聞かれたナディーネさんも、笑顔で御頷きになられまして。
『アタシの場合は、金髪と瑠璃之青の瞳をしているフロリアーヌと、銀白色の髪の毛と緑青色の瞳をしているヴェレーナの容姿に対する嫉妬を、腕輪に言われたな♪』
ナディーネさんの腕輪と、ヴェレーナさんの首飾りも、貴方と同様の指摘を行っているようですね。髪飾り。
{我が主が他の皆様方に御話にならなければ、腕輪の主と首飾りの主は、内面にて自覚された嫉妬心を抱え込み増大させていた可能性がありましたが。お互いに気持ちを吐き出した事により、内側に溜め込んだ感情が爆発する恐れは無くなりましたな♪}
楽しそうですね?。髪飾り。
{はい。最初に話したのが我が主ですので、腕輪と首飾りは、それぞれの思惑を潰されましたから♪}
『うるせぇな。腕輪』
『煩わしいですわよ。首飾り』
ナディーネさんとヴェレーナさんが、同時に意志ある魔道具でもある遺失魔道具に不満を述べる様子からも、髪飾りの推量は当たっているようですね。
『ナディーネとフロリアーヌとヴェレーナは、頭に直接話し掛けて来る魔道具を身に着けているのに、比較的平気そうだよね?』
コクッコクッコクッ。
赤茶色の髪の毛を、短いツインテールの髪型にされています恵さんが、薄茶色の瞳で私達三人の顔見ながら話されますと。ザスキア女史も小刻みに頷かれて同意を示されました。
『まあ、最初は少し戸惑いはしたがな。何事も慣れだな。ハンナ』
幼馴染みであるナディーネさんによる返答に、ハンナさんは頷かれまして。
『三人とも根元魔法の、眩惑と防御魔法を封じ込めて、常時発動状態にしているんだよね?』
ハンナさんの確認に対して、私は頷き肯定しまして。
『少なくとも私はそうですハンナさん。ナディーネさんとヴェレーナさんも、眩惑と防御魔法を封じ込められたままですか?』
髪飾りの所有者である私の問いに対して、ナディーネさんとヴェレーナさんは揃って御頷きになられまして。
『ああ、その通りだフロリアーヌ。周囲に不可視の障壁を展開する魔法障壁だと、学生食堂のように混み合った場所だと、周囲の人間を弾き飛ばしかね無ぇからな』
『ナディーネさんの仰られる通りですわね。常時発動させる根元魔法を二種類選ぶのでしたら、やはり眩惑と防御魔法の組合せになりますわね』
眩惑を常時発動させていれば、遠距離から射手に弓矢で狙撃されましても、狙いを定めて命中させるのは極めて困難となりますし。万ヶ一命中しましても、防御魔法で致命傷となるのは防げます。
{我が主と、腕輪の主と、首飾りの主は、帝国の中枢である帝都にて暮らしていられますのに、常在戦場の精神の持ち主ですな♪}
私は三十年間帝国軍で勤め上げられて、軍人恩給を受給している祖父が家長をしている農家にて生まれ育ちましたし。ナディーネさんは軍人一家でもある男爵家の令嬢ですし。ヴェレーナさんは幼い頃に身代金目的の誘拐未遂に遭われた、生き馬の目を抜く厳しい競争社会である帝都にて、手広く商売をされて成功されている豪商の御父君が家長をされていられます商家で生まれ育たれました。
{御三方共に、油断大敵を骨の髄まで叩き込まれていられる訳ですな。我が主♪}
人生一寸先は闇ですから。髪飾り。