エピソード118 立志伝中の御方の御嫡男様
『カール卿が、ツヴィングリ男爵閣下の御嫡男様であったとは驚きました』
ザスキア女史の弟である兵士卿に、幼年学校の同期生であるカール卿の紹介をして頂きましたが。
『父上をご存知ですなのですか?。花女史』
飲食店の四人掛けの席で私の隣に腰掛けていられます、帝国では平民身分に数多く見られる黒髪をされていられますカール卿による問いに対しまして。
『直接御会いする栄誉を得た事はありませんけれど、帝国軍で三十年間勤め上げられました、退役軍人である祖父から聞いた事があります』
私による説明を聞いた、向かい側の席に座られていますギュンター卿が、得心された表情にて頷かれまして。
『異国のシュヴァイツ共和国のゾロトゥルン州から、単身にて帝国に移住をされまして。最初は傭兵として活躍なされましてから、最終的には皇帝陛下から爵位を叙爵されたツヴィングリ男爵閣下の事は。幼年学校でも、半ば伝説となっています。フロリアーヌ女史』
ギュンター卿の仰られる通りです。封建制度を政治体制に採用している帝国で、異国から移住なされて来られまして、最終的には皇帝陛下から爵位を叙爵されたツヴィングリ男爵閣下の事は。基本的には現役の帝国軍時代の事は話されない祖父でさえ、憧憬の念を込めて話されていられました。
『退役軍人の祖父を家長とする農家で生まれ育った、地方部出身の平民身分の村娘の私からすれば。カール卿の御父君であらせられますツヴィングリ男爵閣下は、人生における模範となる御方です』
嘘偽りの無い本心からの私の話を聞かれましたカール卿は、嬉しそうに満面の笑みを見せられまして。
『父上の事をそのように想って頂けて、子息として誇らしく思います。フロリアーヌ女史♪』
{生ける伝説とも呼べる立志伝中の御方の御嫡男様でありながら、カール卿は礼節を弁えられた物腰の柔らかい貴公子ですな。我が主}
その通りですね髪飾り。親元を離れて帝都にある幼年学校にて寄宿生活を送られている点から考えましても、幼い頃から御父君であらせられますツヴィングリ男爵閣下からは、跡継ぎの御嫡男様として非常に厳しく躾られて成長されたのだと思われます。