エピソード109 准将閣下と少将閣下と中将閣下
『アンリも今日の放課後からは、貴族街にあるレバークーゼン家の上屋敷には行かずに、自由に行動が出来んだな?』
『はい。令嬢希望女史。その通りです』
学生食堂で朝餉を摂り終えた私達は、哲学の講義を受講する為に移動していますけれど。
『やはりアンリ卿とナディーネさんの御二方は、移動される際にも背筋を伸ばした美しい姿勢にて歩かれていられますね』
レバークーゼン家の子爵閣下の御令息様であらせられますアンリ卿と、宮城にて宮仕えなされていられます、皇帝陛下の御信任の厚い官吏をされていられます、男爵閣下の御息女であらせられます令嬢のナディーネさんの、御二方による後ろ姿を背後から観察させて頂きましたが。地方部出身の平民身分の村娘に過ぎない私には、真似するのは極めて困難であると感じる、背筋を伸ばされた美しい姿勢にて歩いて移動されています。
『花さんの歩く姿も御綺麗ですわよ♪。少し軍人風な歩き方ではあるように感じますけれど』
免状貴族身分の豪商を御父君とされます真実さんの言葉に、赤茶色の髪の毛を短いツインテールにされています恵さんが頷いて同意を示されまして。
『ヴェレーナの言う通りフロリアーヌの歩き方は、ナディーネのお爺さんやお兄さん達に似ていると感じるかな?』
ふむ?。ナディーネさんの御爺様であらせられます、軍務省にて勤務されていられます准将閣下と、現役の帝国軍人でもある帝国騎士身分の兄君の御三方と、私の歩き方は似ていると。ナディーネさんの幼馴染みでもあるハンナさんには見える訳ですね。
『祖父は三十年間帝国軍にて勤め上げられました退役軍人ですので、孫娘の私も自然と歩き方が似ているのかも知れません?』
コクッコクッコクッ。
外務省にて勤務なされていられます、帝国騎士様を御父君とされますザスキア女史も、私の見解に同意をされて無言にて御頷きになられましてから。
「て、帝都魔法学園に入学した日に、フロリアーヌ女史を止事無い身分であらせられる令嬢か淑女ではないかと思いましたのは。金髪と瑠璃之青の瞳をされています絶世の美貌だけでは無く。威風堂々とされた立居振舞から、上級貴族の皆様方の血統だと感じたからでした…」
封建制度を政治体制に採用している帝国では、貴族諸侯であらせられます男爵閣下から将官の准将となられます。ナディーネさんの御爺様のように、家督と御領地を譲られた後も、軍階級だけは維持される例もありますけれど。基本的には男爵閣下が准将の軍階級となり、アンリ卿の御父君であらせられますレバークーゼン家の子爵閣下は、少将の軍階級となられます。
『軍務省で爺さんの上官である憲兵隊の副総監をされている、ケルン家の伯爵閣下は中将の軍階級だからな。アンリの親父さんは、爵位も軍階級も一つ上の相手と渡り合う必要があるからな』
ナディーネさんなりに、家族ぐるみでの親交のある、レバークーゼン家の子爵閣下の身を案じられますと。アンリ卿は貴公子然とされた笑みを御浮かべになられまして。
『お気遣い頂きまして感謝をします。令嬢ナディーネ女史♪。父上も御領地と領民を御治めになられていられます貴族諸侯であらせられますので。易々とは伯爵閣下の意の儘にはされませんので、何卒ご安心を下さい』
{アンリ卿は奴隷腹の庶子ですが、御父君であらせられますレバークーゼン家の子爵閣下の事は、心底より敬愛なされていられるようですな。我が主}
そのようですね。奴隷身分の女性奴隷労働者が産んだにも関わらず、天から根元魔法の素質を授かりし魔法使いとして生まれたので、正式に御令息様として認知をして頂けた御父君に対して、強い恩義を感じていられるのだと思われます。髪飾り。