エピソード108 本当に大変だと思います
『父上とケルン家の伯爵閣下が、直接会談をされる運びとなりました』
帝都魔法学園の学生食堂で食事を摂る際には、同席する事が最近は増えているアンリ卿の発言を聞かれた希望さんが、やや懐疑的な表情を見せられまして。
『貴族街にあるケルン家の上屋敷に、アンリの親父さんである子爵閣下が出向くのか?』
以前から共に狩猟を行う等の親交のあるナディーネさんの問いに対して、黒髪と褐色の肌色をされているアンリ卿は、手入れが行き届いている純白の、並びの良い歯を見せられながら笑顔にて。
『御安心下さい。令嬢ナディーネ女史。ケルン家でも当家でも無い、他家の貴族諸侯であらせられます家門の上屋敷での会談となります』
{レバークーゼン家の子爵閣下も、ケルン家の伯爵閣下の上屋敷に出向けば。謀殺される恐れがあると懸念されたようですな。我が主}
毒殺は、毒化無効の根元魔法が付与されているミスリル銀製の魔道具でもある装飾品で防げましても。ケルン家の伯爵閣下からすれば御自身の上屋敷内でしたら、他にも謀殺を行う手段は数多くあります。髪飾り。
『止事無い身分であらせられる皆様方は本当に大変だよね。飲食店で会って話しをする訳にはいかないから』
男爵閣下の御息女であらせられますナディーネさんの幼馴染みでもある、平民身分の恵さんによる感想に対して。私の隣の席に腰掛けていられます、免状貴族身分の真実さんが御頷きになられまして。
『帝国の君主であらせられます皇帝陛下の直臣の臣下として、爵位を叙爵あそばれていられます貴族諸侯の皆様方は。御領地と領民を御治めになられていられます、止事無い身分ですから。御当主様同士による会談を行われる場も、身分や立場に見合うように設定しなければいけませんわね』
止事無い身分であらせられる皆様方は本当に大変だと思います。私は皇帝陛下の直臣でもある臣下の帝国女騎士身分は目指しますが、御領地と領民を治める重責を担うのは、想像するだけでも嫌です。
{我が主は帝都にて、女魔法使いとして便利で快適な暮らしを送るのが目的ですからな}
その通りです髪飾り。天から授かりし根元魔法の素質を活用して社会に役立ちながら、便利で快適な帝都で安定した暮らしを送れれば。地方部出身の平民身分の村娘の私としては、それ以上は望みません。