エピソード107 掲示板の貼り紙
『ワイワイ・ガヤガヤ・ザワザワ』
『お早うございます。ザスキア女史』
「あっ。お、お早うございます。花女史…」
生まれ故郷にて退役軍人でもある家父長の祖父により幼い頃から躾られた通りに、朝の洗顔などの身嗜みを整えましてから、朝餉を摂りに学生食堂に来ましたが。掲示板の前に立ち眺めていられましたザスキア女史と、朝の挨拶を交わしました。
『何か新しい情報が貼り出されていましたか?。ザスキア女史』
一年以上私に避けられていたと誤解されていたザスキア女史は、話し掛けられるのが嬉しいらしく、はにかむような控え目な笑みを見せられまして。
「は、はい。フロリアーヌ女史。古物市を開催するお知らせが、新たに掲示板に貼り出されていました…」
ふむ?。古物市ですか。
{関心がお有りですかな?。我が主}
珍しい古書が購入可能な価格で手に入るのでしたら、古物市には興味があります。髪飾り。
「きょ、興味がお有りですか?。フロリアーヌ女史…」
念話で会話をしていた意志ある魔道具でもある遺失魔道具の髪飾りと、奇しくも同じ問いを私にされたザスキア女史に対して頷きまして。
『はい。図書館に無い珍しい古書が、古物市でしたら購入可能な価格で手に入る機会があるかと考えました。ザスキア女史』
{掲示板の貼り紙によりますと、本日の夕方から古物市は開催されるようですな。我が主}
帝都魔法学園での講義を受講しましてから、図書館に行く前に立ち寄るのも良いかも知れません。髪飾り。
「あ、あの。恵女史からお聴きしたのですけれど。フロリアーヌ女史は本日からは放課後は自由に行動されるのですよね?」
『はい。その通りです。ザスキア女史』
私による返答を聞かれたザスキア女史は、上目遣いに表情を窺いながら。
「あ、あの。そ、それでしたら。本日の放課後に、古物市に一緒に行きませんか?。フロリアーヌ女史。も、勿論私と一緒に行くのはお嫌でしょうけれど……」
{ザスキア女史は、異様に自己肯定感が低いと感じますな?}
帝国と交戦中のザクセン公国の血統であると直ぐに解る名前ですから、周囲との軋轢を極力避けて今まで生きて来られたのだと予想されますから、無理も無いかと思われます。髪飾り。
『お誘い頂き感謝しますザスキア女史。放課後に貴女と一緒に古物市に行くのが非常に楽しみです』
「や、やっぱり私なんかとは一緒に行きたくは無いですよね。無理なお願い……。はいっ?」
『放課後に一緒に古物市に行く際には、移動手段は徒歩でよいですか?。ザスキア女史』
コクッコクッコクッ。
ザスキア女史は信じられないという表情を浮かべながら、首を縦に振られましてから。
「あ、あの。やはり気が変わり私なんかとは一緒に行きたくは無くなりましたら、どうかお気になさらずにフロリアーヌ女史……」
『万ヶ一急用が出来ましても、必ず貴女に連絡は入れますザスキア女史。本日の放課後に、一緒に古物市に行くのが楽しみです』
{我が主の御学友は、個性的な御方が多いと感じられますな}
地方部出身の平民身分の村娘に過ぎない私からしますと、帝都魔法学園では多様な異なる価値観の持ち主と交流の機会を持てて、新たな学びにより視野が広がる機会を得られたのには、心底よりの感謝をしています。髪飾り。