エピソード100 御身内による協力が必要不可欠な行動
『本日は話を聴いて頂きまして、心底よりの感謝を申し上げます。令嬢希望女史。ザスキア女史。真実女史。花女史。恵女史』
談話室に入られた時よりは、幾分か表情が明るくなられたアンリ・フォン・レバークーゼン卿が。男爵閣下の御息女であらせられます令嬢のナディーネさんと、帝国騎士様を御父君とされますザスキア女史と、免状貴族身分な豪商の御息女でもあるヴェレーナさんと、平民身分の私とハンナさんに対して御礼を述べられました。
{封建制度を政治体制に採用している帝国においては、感謝の言葉を述べる際の序列も重要なのですな。我が主}
その通りです髪飾り。文明社会を円滑に維持する為には、身分と立場と軍階級が複雑に絡み合って定まる序列を常に意識して生きていく必要があります。地方部出身の平民身分の村娘に過ぎない私は、帝都で生きていく術を主にヴェレーナさんから学んでいますから、常日頃から感謝の気持ちを忘れないように心懸けています。
『私は地方部出身の平民身分の村娘に過ぎませんから、アンリ卿による御話は非常に勉強となりました。御父君であらせられます子爵閣下が、貴族街にあります上屋敷にて御身内による協議をされていられると知りまして。帝国の君主であらせられます皇帝陛下の直臣の臣下として、御領地と領民を御治めになられていられます貴族諸侯という止事無い身分であらせられましても、御当主様が御一方で全てを決する訳では無いと知る事が出来ました』
平民身分の私から見た、止事無い身分であらせられる貴族諸侯の家門内での、意思決定の過程に関する見解に対して。男爵閣下の御息女であらせられます、令嬢のナディーネさんが。
『帝国は封建制度を政治体制に採用しているから、貴族諸侯でも家門により家風や家訓は異なるが。基本的に重要な意思決定は、身内で集まり協議はするな』
ナディーネさんによる補足説明に対して、アンリ卿も頷いて同意を示されますと。
『はい。令嬢ナディーネ女史の仰られる通りです。御領地と領民を御治めになられていられます貴族諸侯であらせられます皆様方が、他家との領界争いに決着を着ける為に、自力救済の慣習に基づき家臣団の騎士や従騎士や小姓や衛兵を動かすとなりますと。御当主様の御一方だけでは難しいですので、家門の御身内全体による協力が必要不可欠となります』
貴族諸侯であらせられます家門にて生まれ育たれました、ナディーネさんとアンリ卿による説明を聞かれましたヴェレーナさんが。
『家臣団だけでは兵力が足りない時は、領民から志願者を募り民兵の徴募を行いまして。それでも不足する際には、傭兵も雇い入れる必要がありますけれど。民兵にしろ傭兵にしろ給与を支払わねばなりませんから。資金調達も事前に行わなければいけませんわね』
{首飾りの主の御父君は、帝都にて手広く商売をされていられますが。貴族諸侯であらせられます皆様方への、戦争資金の貸し付けも行っているようですな}
取引関係のある貴族諸侯であらせられます皆様方の家門から、戦争資金の融資を依頼されたら断るのは商家としては難しいと思われます。勿論融資した資金を利子込みで回収可能なのか、綿密な計算に基づいた融資となるのは、農家で生まれ育った私でも容易に想像が付きます。