エピソード10 威厳のある声
『本日は宜しくお願いをします。衛兵長』
本日の治癒魔法の実習講義の引率を担当されている、老女教授が声を掛けますと。衛兵長様は恭しく深々と御辞儀をなされまして。
『こちらこそ御足労を頂きまして、心底よりの御礼を申し上げます。帝国女騎士様』
帝都魔法学園で治癒魔法の講義を担当されている老女教授は、根元魔法が付与されている偽造が極めて難しい、ミスリル銀製の記章を身に着けていられます。
「やはり帝国の君主であらせられる皇帝陛下の直臣の臣下の身分を証明する、ミスリル銀製の記章の効果は絶大ですわね♪」
帝都で商売をされている、免状貴族身分の豪商の商家で生まれ育たれた真実さんが、羨望を込めた緑青色の瞳の視線を老女教授に向けながら小声で話されますと。希望さんは笑いながら。
「ヴェレーナは入学当初から、帝国女騎士の身分を目指しているからな」
ナディーネさんの言葉にヴェレーナさんは、銀白色の髪の毛を揺らしながら頷かれまして。
「御父様は免状貴族身分ですから、娘の私が上位の身分である帝国女騎士様となれば、帝都魔法学園を卒業後も縁談を強制される心配をせずに済みますわね。ナディーネさん」
帝国は皇帝陛下を頂点に戴く封建制度を政治体制に採用していますから、高額納税者である免状貴族身分よりも、直臣の臣下である帝国女騎士様の方が身分が上位となりますので。商家に生まれたヴェレーナさんは、帝都魔法学園を卒業後も御父君から縁談を強制されない為に、帝国女騎士様の身分を目指されています。
「ヴェレーナは入学時点で目標を決めていたものね。私はナディーネが帝都魔法学園に入学するから、一緒に勉強したくて入ったからね」
恵さんの話しを聞かれたナディーネさんは、藍色の瞳を幼馴染みに向けまして。
「ハンナはもう少し頭を使った方がいいな。悪い男に騙されるぞ♪」
笑いながらナディーネさんは話されましたが、ハンナさんに向けた藍色の瞳の奥には、異なる種類の感情を秘めているように感じました。
『移動します。皆さん』
『『はいっ!』』
小声で雑談をしていた十四歳の私達ですが、皇帝陛下の直臣の臣下であらせられる帝国女騎士様による威厳のある声に対して、一斉に背筋を伸ばして返事をしました。