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トコナイとはじまりのふね

その日トコナイのため息は深いものだった。

陰気な室内と違い陽の当たる青空の真っただ中を飛ぶ小型飛空艇エルフィスカが見えたからだった。


あのような飛び方をするのはカエルで間違いなかった。

「お前さんの騎士嬢ちゃん、高速急降下斜め切り上げ旋回ヤロッツェ・ブラッキン決まってるね~」

馴れ馴れしい年上の同期生が肩を寄せてくるのも、よりため息を深くするのだった。


その珍妙な飛行術の名前は編み出した本家のカエルが名付けたものである。

狭いこの城ではそのネーミングセンスだけが、先行して広まっていた。


トコナイにとって高級士官学校は飛び級に次ぐ飛び級で感慨も思い入れも全く持てる余地のある場所ではなかった。


卒業し船を持つことだけ考えてきたが、いざその日を迎えてもあまり気が晴れないのは生来の気質のせいだろうか。

船だけあっても仕方のないということばかりこの場所で示されてきたことが大きい事だけはトコナイが自覚していた。


その眼は浮かれ気味の同期生ではなく、別の光景を映しているようだった。

紅色くれないいろの闇を。




格式のみの式典を終えたトコナイの前にはユグドラ種の樹から剪定され削り出されたばかりの新造船があった。

名も無き一隻の船はトコナイの半身ともいうべき存在になる。


この世界では武勲を立てた船乗りが立派な船に乗り換えるのではなく、その船を立派に大きく付け足していくのであった。

将来、大型艦を指揮する立場となっても、その心臓部は目の前の船が担うのである。


最初の仕事は船の名前を考えることであったが、トコナイの非凡な感性から導きだされた名は、司令部に何度も却下され。

通りがかったカエルのひとことが消去法で残ってしまうことになり。。。



結果、後に彼等と共に名を轟かす、巡航戦列艦「暴食蟻の女王号マラブンタ・キュエーン」はここに誕生することになる。



今は小さく、まだ無理でも、いつか単独航行であの何も残ってない故郷へ。

そう考えるとトコナイの心の消えたロウソクのいくつかに、青い炎が灯るのを。

本人が自覚するのは少し先の話である。


トコナイとはじまりのふねfin

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