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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
8/19

8.パパんとお散歩

翌日、私はいつも通り目覚めた。

昨日飲んだお菓子のような薬は、いったい何だったのか?まったくわからないが、よく効いたことは確かだ。

もう、いろいろ内緒にする必要はないんだ。ただ、カレンさんとローガンさんにはあまり、話しかけたりしないようにしなければ…

今日は一人で着替えにも挑戦してみようと思った。早速、昨日見つけたクローゼットの方へ歩き出したんだけど・・・

《あれっ、クローゼットは確かこの辺だったよな?カレンさんが出してくれた場所があったはず…》手探りで水族館のような壁を撫でてみるが、つるつるしたガラスの感触だけ。

どうしてもクローゼットが見つからない。うーん・・・。

「ダメじゃん、着替えられないじゃん」と独り言を言った。

「オープン・ザ・クローゼット」と言ってみるが、何も起こらない。

ただの四角い水族館だ。中では色とりどりの魚がのんびりと泳いでいるだけ・・・

諦めて、ベッドへ大の字に横になった。

《昨日、あんなに決意したのにもう挫けそう》そんな思いで目を閉じていると、ママんが部屋に入ってきた。

「おはよう。体調はどう?」いつもと変わらない優しい声に、心が少し軽くなる。

「大丈夫、元気!昨日のお薬がすごく効いたみたい。あれってなあに?」と尋ねると、ママんは微笑んで「特別なものよ。すぐに治って良かったわ」と答えた。今日もママんは美しい。その美しさに見惚れてしまう。

「朝ごはんは食べれそうね?今日は消化の良い軽めのものにしてあるのよ。オープン」と言った途端、水族館の壁が内側に開いて、クローゼットへの入り口が現れた。

《な、なんだ・・・ただ『オープン』って言えばよかったのか。思ったより普通の開け方だった》昨日カレンさんは何も言わなかったけど、どうしてかな?今まで着替えは、ママんが持ってきてくれてたっけ・・・

「ママん、昨日カレンしゃんは何も言わなかったけど?」と尋ねると、ママんは少し考えてから「カレンとローガンは家と繋がっているの。命令されれば、何も言わなくても開くから、言わなくても当たり前のことになってたから、気が付かなかったわ」と説明してくれた。

クローゼットに足を踏み入れると、その広さに圧倒された。昔、小学校で通った教室くらいの広さだった。

壁一面にびっしりと服が掛けられている。全部私のものなの?どうやら二列に分かれているようだ。

《多すぎる気がするけど、これから成長していくからかな?》棚には帽子や靴、小物が所狭しと並べられていて、反対側の壁には大きな鏡が張り付けられている。まるでダンスのレッスンができそうな感じだ。半分は服、半分はスペースになっていた。

《これが私のクローゼットだなんて…》改めて豪邸だと気づく私って、鈍すぎる。

「どんな服が着たい?」と、ママんが尋ねてきた。

「昨日みたいな、ママんと同じ服が着たい!ああいうの、すごく動きやすそうだち。」私はママんに提案してみた。

「しばらくはお出かけしないし、これがいいかしらね。実は、ママんとお揃いの服が何着かあるのよ。パパんとパトリには内緒で作ってあるんだけど。」ママんはお茶目にウインクした。

「ママんとお揃い、着よ!」と私は嬉しくて言った。ママんも微笑んで頷いてくれた。

「後で、私も着替えてくるわね。とりあえずこれ、どうぞ。」そう言って渡してくれたのは、薄いピンクのジャージだった。

「かあいい!」と私は喜び、さっそくパジャマのボタンを外そうとしたが、なかなか外れずに困ってしまった。結局、ママんに手伝ってもらうことに。せめてズボンくらいは自分で脱ごうと思ったのに、足を外そうとしてコロンと転んでしまった。どうやら、一人で着替えるのはまだ練習が必要みたいだ。

結局、ほとんど自分で着替えることができず、ママんに手伝ってもらった。私が少し悔しそうな顔をしていると、ママんは優しく私の頭を撫でながら言った。

「まだ、1歳になったばかりなんだから、ゆっくり練習していきましょうね。」

その後、着替え終わったママんと一緒にダイニングへ向かうと、パパんが羨ましそうな顔で私たちを交互に見ていた。そして、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟いた。

「俺もすぐにお揃いの作る」

テーブルの下で拳を握るパパんの姿が目に入り、私は思わず大笑いしてしまった。私がテーブルより背が低いせいで、足元が丸見えだったのだ。そんなパパんを見ていると、昨日のことなんてなかったような気がして、少し安心した。


私は今日から自分で食べるんだ。もう誰かに頼る必要はない。なんでも自分でやっていくんだ、と決心し、スプーンを手に取ってスープを食べようとしたその瞬間、パピーが素早くスプーンを取り上げて、食べさせようとしてきた。

「嫌!自分で食べるの!」と私は反抗し、スプーンを取り返そうと小さな手を必死に伸ばした。しかし、パピーに腕の長さで敵うはずもなく、彼はスプーンを手の届かないところに持っていってしまう。何度かそんなことを繰り返していると、ママんが静かに微笑みながら、小さめのスプーンを私に差し出してくれた。

「はい、これでどうぞ。」

「ママん、ありがとう!」私は嬉しくて、パピーをジロリと睨みつけた。そして、意気揚々とスープに手を付けようとしたその瞬間、カシャン、とスプーンがスープ皿の中に落ちてしまった。

「・・・あっ!!」

その途端、パピーがすかさずスプーンをスープ皿から拾い上げ、新しいスプーンをくれた。

「ほら、しょうがないなぁ~。」と言いながら私に渡してくれた。

私は気を取り直し、ゆっくりとスプーンを使い始めた。

今までずっと食べさせてもらっていたから、最初はうまく持てなかったけど、ゆっくりやればなんとか口まで運ぶことができた。パピーに向かって得意げにドヤ顔をすると、彼は肩を揺らしてクスクスと笑っていた。

たまにパピーは意地悪なところがあるんだから、と私は少し口を尖らせながら再びスプーンを口に運んだ。

私は一口ずつゆっくりと食べ進めていると、パパんが寂しそうな顔をしながらじっと私を見つめていることに気づいた。

「パパん、食べたくないの?」と聞いてみると、パパんはため息混じりに答えた。

「もう、ローズに食べさせない方がいいんだよな。わかっているんだけど、ちょっと悲しいんだ・・・」そう言いながら、瞳が少しうるうると潤んでいる。

「じゃあ、わかった!パパんがママんに食べさせてあげたら?」と私が提案すると、パパんは大きなため息を一つついた。真剣な表情を見せた後、パパんが尋ねてきた。

「ローズ、どこでそんな言葉を覚えたんだ?」

私は前世の記憶があるなんて言えるわけがないので、さりげなくごまかすことにした。

「・・・もちろん、パパんとパピーから…」と言うと、二人は驚いたように目を見開いた。

「えっ、俺も?」とパピーが驚いて聞いてきた。私は大きく頷いてみせた。

「だって、いつもローズにやってくれるでしょ?ママんだって、たまにはやってほしいでしょ?」と私が言うと、ママんが微笑みながら私に近づき、こっそり耳元で囁いた。

「私はいいのよ、ローズ・・・昔、パパんにされすぎて、もういい加減遠慮したいのよ。だから、余計なこと言わなくていいのよ」とママんは言って、ちょっと困った顔を見せた。

どうやら、パパんは相当しつこくママんに尽くしていたみたいだ。私もこれからは気をつけないといけないかもね。


朝食が無事に終わり、私は思い切って提案してみた。

「あたちのこと、みんなちっているから言うけど…家の中案内ちてほしい。いろんなところ行きたいち、部屋の中だけじゃ嫌だよ~」と、瞬きを多めにして、パパんを上目遣いでじっと見つめる。パパんは右手で目元を覆い、上を向いて何かに耐えている様子だ。

どのくらい経っただろう?私はパパんから視線をそらさずにじっと見つめ続けた。すると、パパんは顔を元に戻して一言。

「今日は、パ、パ、んが一緒にローズと過ごす」と、右手の拳を上げてポーズを決めた。なぜか『パパん』の部分をわざとゆっくりとしゃべっていた。

「やったーーー!」私は両手をあげて大喜びし、続けて「パパん、大ちゅき~」とほっぺにキスをしてあげた。

パパんは私を抱き上げると、ものすごい勢いでぎゅーっとしてきた。

「…じぬ、じぬ。マジじぬから…」私は掠れた声で抗議する。

「あっ、ごめん、ごめん。嬉しすぎて…ローズはパパんが一番大好きだよな~」と、パパんは顔中が緩みっぱなしだ。

「俺も一緒に行くーーー!」とパピーが言い出した。

すると、パパんが少し意地悪そうに呟いた。

「お・ま・えは、学園の宿題を終わらせてからな。ぜ~んぶだぞ、ぜ~んぶ。」パパんはまた、『おまえ』の部分をゆっくりと・・・《意外と大人げないんだから・・・》

パピーは悔しそうに、でも負けじと宣言した。

「俺の宿題がぜ~んぶ終わったら、俺がず~っとローズと遊ぶからな!!いいな!!」パピーも真似して、『ぜ~んぶ』と『ず~っと』の所だけ、ゆっくりと言った。

「わかってるよ~、パトリ君」と私は軽く返事をしながら、パパんに抱っこされて部屋の方へと連れて行かれた。


パパんの用意が終わり、ふたりで手を繋いでホールの前の階段まで来ると、パパんは私を抱き上げてゆっくりと階段を下りてくれた。そして、そのまま玄関の方へと向かう。

「ローズ、ここは玄関だが、ローズはここから絶対に出てはいけないよ。約束してくれるかな?ここから出るときは、パパんと一緒じゃないとダメだ。ママんも一人じゃ外には出ないんだ。ローズもだよ」とパパんは少し真剣な顔をして言った。


「パパん、お外はそんなに危ないの?パピーは?大丈夫なの?」と私は疑問を投げかける。

「パピーは、男の子だから、大丈夫なんだ。この話はおいおいな!」とパパんはそれ以上話を続けたくないようだった。私は素直に頷いて応じた。

「うん、わかった。」

「ローズはホントに賢いな。どうしてそんなに賢いんだ?私の遺伝か?」とパパんが自信満々に尋ねてくる。

「パパんの遺伝だね」と私は笑顔で答えると、またパパんの顔がゆるゆるになってしまった。

《うん、社交辞令ではあるが、これからはこれでいこう》と私は心の中で決意する。

娘に激甘なパパんは、ちょっと、可愛らしい。そんなこと口には出せないけどね。

そして、パパんと一緒に反対側のお庭へと向かった。前回は、ただただ必死にしがみついていた記憶しかなく、景色を楽しむ余裕などなかったけれど、今日は違う。《今日は、ちゃんとよく観察するんだ》と私は心の中で決意を固めていた。


「パパん、あたち、ここから歩く」と言うと、パパんはそっと私を地面に降ろしてくれた。

地面に足がついた瞬間、広大な庭が目の前に広がった。まるで公園のようで、上空を見ると、空ではなく空の色を映した巨大なドームが広がっているようだ。まるで東京ドームのような大きさ、いや、何倍もありそうな広さかもしれない。天井は、透けて見えるのか?映像を写しているのか?仕組みは全然わからない。

「うわぁーーー!」と感嘆の声をあげた私に、パパんがにっこり笑って言った。

「どうだ、ローズ?」

「しゅごい、しゅごい!!なにこれーーー」と私は興奮して叫んだ。

《これ、全部…自分の家?どんだけ金持ちなんだ…?まぁ~、自分のお金ではないんだけど…》

その瞬間、後ろにひっくり返りそうになってしまい、パパんがすかさず笑いながら支えてくれた。まだ、体のバランスが追いついていないようだ。

庭の奥には2階建てほどの高さの木々がうっそうと茂っていて、前世でいう国立公園のように整えられた景観が広がっている。

ベンチや噴水も、遠~くの方に見え、庭全体は自然と人工の美が見事に調和していた。ちょうど庭の真ん中あたりには、白いまあるい東屋のような建物があり、それを囲むように色とりどりの花が咲き乱れている。

東屋といっても、かなり大きい建物だ。2、30人は入れそうな感じだ。

木々も美しく配置され、東屋を中心に放射状に広がる花壇があり、季節ごとに異なる花で彩られているのが見て取れた。


今は夏真っ盛りで、夏の季節の花が咲いているエリアには、ローガンが数人いて、手入れをしている様子がうかがえた。執事服を着ているけれども、様々な作業を黙々とこなしているのが印象的だった。

家の建物の前には、きれいに整えられた芝生が広がり、先日パーティーを行った会場がそのまま広場になっていた。今は何もないけれど、それでも途方もない広さを誇っている。こんな広い場所で寝転がったら、さぞ気持ちがいいだろう。程よい風が吹き、爽やかな陽気が漂っていた。

《んっ…、真夏の暑い盛りなのに、暑くない。とても快適だ。何かがおかしい…。普通、外に出たら汗だくだくになるんじゃないの?》と私は疑問を抱き、パパんに聞いてみた。

「パパん、なんで暑くないの?すっごく快適だし、夏なのにどうちて?」

するとパパんは、曖昧に微笑みながら言った。

「ローズ、あのお花畑の方へ行こうか!ベンチがあるから、そこで話をしよう。」そう言って、私を誘導しながら歩き出した。


私たちは、ベンチまでゆっくりと歩き、腰掛けた。ここまで私の足で約10分ほど。じんわりと汗をかき始めたころ、ふたりで座っていると、ローガンが飲み物を手に持ってやってきた。

「どこから来たの?ローガンさん?あたち、オレンジジュースがいい」と言うと、ローガンは笑顔を浮かべてオレンジジュースをサイドテーブルに置いてくれた。

「あの白い東屋です。お嬢様。ちなみに私たちはローガンでいいですよ」と、にこやかに答えるローガン。

近くで見ると、渋くて魅力的な雰囲気を持つ50代くらいの栗色の髪をしたおじさんだった。いわゆるイケオジの部類だろう。

《この家には、不細工な人はいないのだろうか?》と思いながら、カレンのことを思い出した。彼女も若くはなさそうだが、落ち着いた品のある美人で、髪の色はローガンと似ていた気がする。

「ローガン、少し外してくれ。用事があるときはまた呼ぶから」とパパんが指示すると、ローガンたちはすぐに動き出し、いろんな方向にいたローガン達が東屋の方へ一斉に引き上げて、みんな揃って東屋の中へ入るのが見えた。

《あれ、エレベーター…?》私は驚きで固まり、目を見開いた。

「パパん、なにあれ?みんな地下に行っちゃったよ」とパパんの袖を引っ張って聞くと、パパんは優しく答えてくれた。

「みんな地下に行ったんだよ。呼ぶまではここには来ない。地下には、この間のパーティーで出した料理を作る場所や、テーブルや椅子をしまっておく場所、その他にもいろいろな部屋があるんだ。地下5階まであるんだよ」

「・・・しょんなに!!しゅっごーい!!パパんってお金持ちなんだね」と私が驚きながら言うと、パパんは少し得意げにドヤ顔をして、胸を張った。

「ジュースでも飲みながら、話をしようか?」パパんは、自分のコーヒーらしき飲み物を一口飲んだので、私もジュースを一口飲んだ。そして、パパんがまた静かに話し出した。


「私は、ローズにいろいろな言葉を教えたつもりはないし、パトリもそうだと思う。ただ、私たちはローズの前で他愛ない話しかしていないはずだ。しかも、お金の話なんて一切していない。それでも、ローズは『お金』という言葉を理解しているように見える。そして、私はこの間、初めてローズが話せることを知ったばかりだ。ママんやパトリとは違って、私は誕生日でそれを知って、とても驚いているし、混乱もしているんだ。私もローズを理解したい」

「うん」と私は相槌を打った。

「今後、ローズがどんな危険にさらされるかわからないと考えると、とても心配なんだ。もちろん、みんな全力でローズを守るつもりだが、何が起こるか予想するのは難しい。だから、ローズもこれからは、自分で力をつけていかないといけない。パトリもそうしてきたんだ。ただ、パトリは男の子だからまだいいけど、女の子は本当に気をつけなければならないよ。わかるかな?」そう言って、パパんは優しく頭をなでてくれた。

「よくわかんないけど、わかった。パパん。お外は危険がいっぱいだから、あたちお外に出ない」と私は返事をした。


「お外に出なければいいというわけでもないんだよ。もっとローズが理解できるようになったら、またいろいろ話をするけど・・・まだわからないこともたくさんあるだろうからね。話は変わるけど、どうしてローズは、教えていない言葉までわかるんだい?話を聞いていただけで覚えたっていうのは、普通では考えられない。お金の話はもちろん、『地下』って言葉も理解していたように思う。もしかして、パパんには言えない・・・秘密があるのかな?」と、パパんは優しく問いかけた。

それを聞いて私は、これ以上隠すべきかどうかを考えた。もし内緒にしてしまえば、誰も味方がいなくなるし、全部自分で解決しなければならなくなる。前の世界での常識がこの世界で通用するのかどうかもわからない。何が正しいのか判断がつかないまま、思い悩んでいた。

そのとき、グラスの中で氷がカランと音を立て、私はハッと我に返った。

ふと頭の中で、『情報を制する者は、すべてを制する』という、いつかどこかで聞いたことがある言葉が浮かんだ。そして、自分に問いかける。

私はまだ1歳で、前世の記憶はあるけれど、今の記憶はたったの1年分しかない。何もわからない『ひよっこ』もひよっこ。赤ちゃんなのだ。

何を心配する必要がある?心配するのは親の役目ではないか!全部親に任せてしまえばいいのだ。もちろん、クソ親も世の中にはいるが、私の両親はこの1年で十分に見てきた。何を悩む必要があるのだ。こんなにも心配してくれて、愛してくれているじゃないか・・・

私は、両親を信じることを決意した。


どのくらいの時間が経ったのだろうか。ジュースの氷はすっかり溶けてしまい、グラスには水滴が滴り、少しぬるくなっているように思えた。それでも、私はジュースを一気に飲み干し、息を整えてから話し始めた。

「パパん、あたちのこと変な子って思わないで、はなち聞いてくれる?」と聞くと、パパんは黙って頷き、続きを促した。

私は、前世のこと、自分の思い、自分のことすべてを話した。もし受け入れてくれなかったら……そんなことを考えると涙が出そうになったが、それでも話さなければならない。もし、受け入れてくれなければ、1歳とはいえこれから自立の道を考えなければならないかもしれないのだから・・・

パパんは、私の話を聞いて、ひどく真剣な顔で何かを考えている様子だった。そして、一言。

「変は変だよな。普通とは全然違うし……でも、俺も変だから同じだ」と言って、パパんはまた話し始めた。

「生まれた時からいろいろ抱えてきたんだな。つらい気持ちがあるなら、パパんにも分けてくれ。ローズの力になりたい」と言って、パパんはそっと私を抱きしめてくれた。

「パパん、大ちゅき」と私も抱きしめ返すと、「パパんも大ちゅきだ」と言って、さらに力を込めてぎゅーっとしてきた。

「じぬ、じぬ!」と私はパパんの背中を叩いた。

「ごめん、ごめん」とパパんは言って、私を解放してくれた。


「お昼だから、ママんが呼んできてって頼まれたんだけど、ふたりとも深刻そうな顔してどうしたのさ?」とパピーがやってきて尋ねてきた。

「なんでもない」と私が答えると、パピーが不服そうな顔でさらに聞いてきた。

「パパんにはよくて、俺には言えないこと?」と、ほっぺをぷくっと膨らませて拗ねている。その様子がなんて尊いんだろう。相変わらず、可愛すぎる仕草に目を奪われた。

「パピー、可愛すぎ」と私が言うと、ぎゅーっと抱きしめられた。

「可愛いのは、ローズだよ」と言いながら、パピーは私の首筋にぐりぐりと顔を押し付けてきて、なんだか匂いをくんくんされているような気がする……。恥ずかしすぎる。

私は、パピーの腕から逃れようと暴れたが、パパんに抱っこされると、なんとパパんも同じことをしてきた。

「あ~、癒される~。これから毎日、これやろうっと」と小さな声でこっそり言っているではないか!毎日くんくんされるのか? 私、なんか匂うのかなぁ……?

そういえば、前の私もそんなことをした記憶がある。赤ちゃんの首筋からはフェロモンが漂っているらしい。

これも愛情表現の一つだと思えば、腹も立たない。けれど、毎日? いつまで続くの? 我慢できるかな・・・?

そして、いつか私も同じことをやり返そうと決めた。


昼食をみんなで食べたあと、パパんに噴水まで連れて行ってもらうことになった。噴水までは距離があるし、私は病み上がりなので無理せずにパパんに抱っこしてもらいながら行くことにした。

その噴水はかなり大きく、まるでどこかのホテルのショーかと思うほどに、色とりどりで様々な動きをしていてとても綺麗だった。噴水の周りにはソファとテーブルがいくつも設置されていて、お茶を楽しむこともできるようだ。あの白い東屋が真ん中にあるかと思っていたが、実際にはいくつか点在しているらしい。

大人の足で10分くらい歩いただろうか……。噴水の向こうには広大な森が広がっていて、先が見えないほどだった。

「パパん、どこまで続いてるの?」

「噴水で半分くらいかなぁ。向こうはずっと森になっているんだ。とっても気持ちいい散歩コースだよ。仕事で頭が疲れてくると、ここで少し体を動かしたりするんだ」と教えてくれた。

そばの東屋から、ローガンが飲み物とおやつを運んできてくれて、パパんとたくさん話をした。過去のこと、今後のこと、いろんな話を。

かなり長い時間話した後、明日からのローズの予定についても話し合った。

結果として、午前中はパピーと一緒に、この庭で運動をしながら話し方の練習をすることになった。まだ、「さしすせそ」がうまく言えないのだ。そして午後は図書室に移動して、ママかパピーと一緒に文字の練習をすることになった。

休憩もちゃんと取り、最初のうちは30分くらい昼寝をすること。慣れてきたら昼寝をしなくてもいい。そして、文字を覚えたら本を読んでも良いことになった。本は事前に読みたい本を言って、カレンに探してもらうように頼むこと。

たくさんのことを話し合った後、パパんが最後にこう言った。

「ローズにとって一番大事なことは、困ったことがあったら誰かに相談すること。パパんでもママんでも、パピーでも、誰でもいい。一人で抱え込まないこと。これが一番大事だ」と笑いながら話し合いは終わった。


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