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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
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5.グレン・カエサル・アスラン

俺の名前はグレン・カエサル・アスラン。バート・カエサル・アスランの息子だ。

ついこの前、俺たちはシャルル・ドット家からの招待状を受け取った。なんと、開催日のぎりぎりになってから届いたんだ。普段なら親父はこんな急な招待には応じない。仕事が忙しいのもあるし、なにより、常識外れだ。

しかし、今回ばかりは親父も何かを感じ取ったのか、俺と一緒に出席することを決めた。

招待状には『明後日の10時』とだけ書かれていた。そんな直前になって招待をするなんて、やはり普通ではない。シャルル・ドット家に限ってこんなことがあるはずがない。

あるとしたら、何か特別な理由があるに違いない・・・

ただのパーティーなら、もっと余裕を持って招待するはずだ。それに、あの家には『シャイニーブラン様』という特別な存在がいる。シャイニーブラン様を公の場に連れ出すなんて、アレンニード様が許すはずがない。俺は不安な想像が頭をよぎり、首を振った。

「いや、まさかそんなことはない」

と独り言をつぶやきながらも、やはり気になる。実際に行ってみなければ真相は分からないだろう。だから俺も出席を決めたのだ。


あの家にはもう一人、厄介な奴がいる。パトリピアーズ・シャルル・ドットだ。

俺より2歳年下だというのに、同じ学年で学園に入学してきやがった。

普通なら6歳で初等部に入学するのが常識だ。それなのに、あいつは4歳で入学してきたんだ。頭がいいだけじゃ、学園には早く入れない。

6歳児の体力も必要になる。それに、4歳の子供が6歳の子供に体格や体力で適うわけがない。

なのに、あいつは入学してきた。体格は確かに4歳児並みか、それより少し上くらいだったが、初めての体力測定で俺には敵わなかったものの、50人中20位に入ったんだ。真ん中より上だ。正直、驚いた。俺も自慢じゃないが体力には自信がある。6歳の同学年の中ではトップだ。それなのに、まだ4歳のあいつがここまでやれるなんて、正直、危機感を覚えた。

「このままじゃ、いつか追い抜かれるかもしれない」と不安になった俺は、パトリピアーズを自分の中でライバルに定め、体力づくりに力を入れることにした。

正直、頭ではあいつには勝てない。俺の成績は悪くないが、せいぜい中の上どまりだ。でも、あいつは違う。パトリピアーズは学年で断トツの1位。いつもテストの成績表では名前が一番上にある。俺だって勉強は頑張っているんだが、どうしてもトップには届かない。

悔しいが、俺があいつに勝てるのは体力だけなんだ。だから、余計に突っかかってしまうのかもしれない。


あの日、親父と俺はアスラン家を出発し、前日にPacifica(パシフィカ)を発った。シャルル・ドット家があるTriniverse(トリニバース)までは、Velocity(ヴェロシティ) Express(エクスプレス)に乗っても5.5時間かかる。だから、前日に出発しないと間に合わないんだ。

急な招待にも関わらず、金銭的な問題を避けるためにも、追加の費用はできるだけ抑えたかった。そうなると、前日の午後には出発しなければならない。

Triniverse(トリニバース)にはアスラン家の別荘もあるから、到着後はそこで少し休むことができるはずだ。

《俺は、その時間もトレーニングに充てるつもりだがな…》急な招待にもかかわらず、遠くからわざわざ来たんだから、しっかり歓迎してもらいたい。そう思いながら、俺はドット家に向かう気満々でいた。


当日、続々と招待客が集まる中、親父と俺もホールへと足を運んだ。ほとんどの客が揃ったところで、アレンニード様が挨拶を始めた。その時、俺の視線が引き寄せられる。

《・・・あれは何だ?子供か?ええっ…》一瞬、混乱し思考が停止する。アレンニード様の話がほとんど耳に入らなくなった。慌てて父親に話しかけた。

「親父、あれ、なんだ?」親父は目を丸くして、俺を見返した。

「何言ってんだ、お前?子供だろ?」

「いや、そうなんだけどさ。いつ?増えたんだ?」

「ああ~、羨ましいよなぁ~ホント」と親父は本当に羨ましそうに言った。

うちは母親がいないから、カエサル・アスラン家は俺で最後だ。俺が結婚して子供を作らない限り、アスラン家は途絶えてしまう。

何が何でも嫁を取らないといけないというプレッシャーはあるが、《俺、まだ8歳だし…》今はそんなことを考える余裕もない。将来のことを今から心配する8歳児は珍しいが、こんなご時世、何があるか分からないから、今から備えておく必要があるのかもしれない・・・

再びアレンニード様に視線を戻すと、抱っこされている子の髪がプラチナブロンドのような珍しい色で、ふわふわと揺れていた。《あの、ふわふわした髪を触ってみたいなぁ~》と思ってしまう。

考えるほど、顔が見たくなってくる。

「なんで誕生日なのにあの子は顔を見せないんだ?お披露目じゃないのか?」と疑問に思いながら、親父に尋ねた。

「バカ・・・余計なことはやめろよ。いいんだ、あれで!!俺も娘がいたら、そうする」と親父は意味不明なことを言って、挨拶のために向かっていった。

俺は、なんだか気が晴れなくて、お菓子でも食べようと、テラスの方へ歩いて行った。


お菓子のテーブルに行くと、見覚えのある人物が皿を持って物色していた。足元には、先ほどのふわふわがしがみついている。

《なんだ?あれ?可愛すぎないか?顔は見えないけど・・・》必死にしがみついているその様子が、なんとも愛らしかった。

《やっぱり顔が見たい!!》という衝動に駆られ、近寄っていくと、その人物がふわふわの髪を撫でているのが見えた。羨ましいと感じると同時に、思わず苛立ちが込み上げ、声を大にしてしまった。

「おい、顔くらい見せろよ!!お披露目なんだろう?顔を見せないでどうするんだ?顔を見せられないくらい不細工なのか?この世の中、不細工でも女なら誰かがもらってくれるさ!だから、顔を見せろよ」

後から振り返ると、自分の言い方がいかに横柄だったかに気づく。

調子に乗って顔を見ようとしたら、思わずかじられてしまった。ほとんど痛みはなかったが、薄っすらと歯形が残っていたように思う。

その後、親父の拳骨が飛んできたことで、ようやく反省することとなった。

今まで、女の子と関わる機会がほとんどなく、学園では少数のせいで授業も別々だったし、自分が話しかけようとすると体格のせいで逃げられることも多かった。そんな経験から、自分から関わることを避けていた。

でも、あの子は最後に素直にお願いすると、少しだけ顔を見せてくれた。驚くほど可愛らしかった。

《不細工かもとか言って、ごめん》と心の中で謝った。次に会ったときには、必ず直接謝ろうと決意する。

とはいえ、『忘れろ』と言われても、忘れられるわけがない。あんなに可愛い存在を知ってしまったから。

俺は、忘れたふりをしながら心の中にしまい込むことを決意した。


後から親父に聞いた話だが、この時代、子供は非常に貴重な存在だという。生まれてからの1年間は、どの家でも特に大切に育てられるため、外には出されず、お披露目のときまで顔を見せることはほとんどないらしい。俺もそうだったそうだ。

特に女の子の数は極端に少なく、彼女たちは変な輩に狙われるリスクが高い。そのため、顔を隠すことで『不細工』と思わせ、誘拐のリスクを減らす狙いがあるらしい。だが、あのドット家だ。いくら不細工を売りにしたって駄目だろう。両親があんな美形ぞろいなんだから・・・

お家の存続を考えると、どの家も必死で子供を守るのだ。俺んちも例外ではない。俺が子供を持たなければ、アスラン家の存続すら危うくなる。

だから、女たちは相手を厳選する。俺の親父の時もそうだった。俺の母親は、俺がまだ幼い頃に家を出て行ってしまった。このアスラン家の後継ぎを担う家でさえもだ。

どうやら、ドット一族の誰かに惚れた男がいたらしい。忌々しい話だが、親父は体こそゴリラ並だが、顔は悪くないと思っている。

この状況はどの国でも同じで、子供の数は自然と減少している。特に女の子は異常なほど少ない。

結婚した後でも女性は安泰ではなく、常に誘拐の危機にさらされている。誘拐され、無理やり子供を産ませようとする輩もいると聞く。なんて卑劣な奴らだと思うが、あの子が顔を見せなかった理由も少しは理解できる。

《前もって、説明してくれよ》と思うが、あの時初めてその現実を知るのは難しかった。

国の法律では、女性が少ない現状を考慮し、家のことで縛られず自由に相手を選べるようにするための規制がある。隠したい奴らがいるからこそ、子供が少なくなるのを防ぐために決められたルールだそうだ。

それを破ると一家の格が落ち、自由も効かなくなるらしい。その辺の事情は俺にはまだよく分からないが、子供だったから許された。しかし、大人になってもこのままではいけない。

あの子に相応しい男にならなければならない。

いくらパトリピアーズがあの子を大事にしていたとしても、兄弟同士では結婚できない。俺にもまだチャンスはあるはずだ。家格だって釣り合っているのだから…



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