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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
4/19

4.パーティー

さあ、これからお客様のお出迎えだ。パパんにしっかり抱っこされて、みんなで玄関の方へ進む。

私の心は期待と不安でいっぱいだ。今日は初めてのお客様が来る日だって、朝から何度も聞かされていた。玄関に着くと、向かって左側に私たちが並び、反対側にはずらりとメイドさんと執事さんが並んでいた。

お茶を運んでくれた女性たちもそこにいるけれど…

《ええっ!?女性と男性とでは顔は違うけど、全員同じ顔!?》

私は驚いて目を大きく見開いた。まるで、同じ人が何人もいるみたいだ。いや、違う、同じ人がいるんじゃなくて…同じ「何か」がいるような気がする。目が合うたびに、同じ笑顔を浮かべている。まるで鏡がいくつも並んでいるような感覚だ。

「ママん、あれは何?」思わず、ママんの袖を引っ張る。

ママんは私の疑問に気づいて微笑みながら、静かに教えてくれた。

「あれはね、カレンたちとローガンたち。みんなヒューマノイドっていうロボットなの」

「ヒューマノイド?」私はその言葉を繰り返し、なんとか理解しようとした。

「そう、カレンたちはメイドで、ローガンたちは執事なの。彼らはみんな同じ姿をしていて、記憶も共有しているの。だから、どのカレンも同じカレン、どのローガンも同じローガンなのよ。ちょっと不思議でしょう?」

私は再びメイドさんたちを見た。どの顔も同じで、どの笑顔もそっくりだ。

「じゃあ、みんな同じことしかできないの?あたちたちみたいに違うことはできないの?」ママんは優しく頷いた。

「彼らはお仕事に特化しているから、私たちとは違うの。でも、それぞれのカレンとローガンが、ちゃんとローズをお世話してくれるわよ。そしてみんなを守ってくれるの」

私はパパんの腕の中で小さく頷いた。どうやら、この家にはまだまだ私の知らないことがたくさんあるみたいだ。


「さあ、お客様がいらっしゃったわよ」

ママんの声が響くと、玄関ホールに並んでいたみんなが、一斉に笑顔を作り始めた。でも、なんだかいつもと違う笑顔だ。目が笑っていないし、どこかぎこちない感じがする。

《いつもの笑顔じゃない…》私は内心でそう思った。

普段のママんやパパんの笑顔は、あたたかくて安心できるのに、今はまるで仮面をかぶったような、そんな感じがする。

私も真似したほうがいいのかな?でも、1歳児が作り笑いをするなんて変だよね…?やっぱり、自然にしていたほうがいいのかな?色々と考えて、私は不安げにパパんの顔を見上げた。

すると、パパんが私の不安に気づいたように、そっと小さな声で囁いてくれた。

「ローズは、下を向いていなさい。あまり顔を上げないように」

その言葉に、私は少しほっとして、遠慮なくパパんの肩に顔を埋めた。肩にギュッと抱きついて、目を閉じると、パパんの体温が伝わってきて、なんだか安心した。

この場所には、初めてのことやわからないことがいっぱいで、少し不安になるけど、パパんがそばにいてくれるだけで心強い。パパんの肩越しに聞こえる周りの話し声や、靴の音、そして遠くでドアが開く音が、私の中で少しずつ遠く感じるような気がした。


「お客様もほとんどいらっしゃったようですし、私たちもホールへ行きましょう!」とママんの声に促されて、私たちはホールから階段を上がり、上の階の見晴らしの良い場所へと移動した。

下を見下ろすと、多くのゲストが集まっていて、話し声がホールに響いている。

やがて、ホールが静かになったのを見計らって、パパんが前に進み出て挨拶を始めた。


「皆様、本日は遠方よりお越しいただき、誠にありがとうございます。おかげさまで、私の娘、ローズマリー・シャルル・ドットが本日、1歳の誕生日を迎えることができました。この特別な日を皆様と共に過ごせることを大変嬉しく思います。」

パパんの声は堂々としていて、ホールの隅々まで響いた。私はパパんの肩に顔を埋めながら、その声を聞いていた。

《私の本名ってローズマリー・シャルル・ドットっていうんだ。日本人じゃなかったね。想像はしていたけど・・・》などと考えているとパパんが話し始めた。

「伝統に従い、生まれて1年経った子供を皆様にお披露目するために、こうして誕生日会を開かせていただきました。ご都合が合わずご出席いただけない方もいらっしゃいましたが、本日をもって正式なお披露目とさせていただきます。どうか、今後とも我が家の繁栄のために、ご支援ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。」

パパんが少し微笑みを浮かべて続けた。

「それでは、どうぞテラスへお出になって、リラックスしてパーティーをお楽しみください。」

パパんの言葉が終わると、私たちはみんな揃って深々とお辞儀をした。

私は、パパんの肩にぎゅっとしがみつきながら、周りの視線を感じていた。これが、私の初めてのお披露目なのだと、少しだけ緊張した。


《顔を見せないままなんて、これが我が家のルールなのかしら?》と私は心の中で考えた。

今まで知らなかったことばかりで、少し不安になる。でも、これからどうなるのか、どうすればいいのか全然わからない。とにかく、今はパパんにしっかりとくっついていよう。

その時、パピーが提案した。

「パパん、ローズは僕が見ているから、ママんと一緒に挨拶に行ってきていいよ。」

パパんは少し迷ったように見えたが、私をそっとパピーに預けた。そして、パピーの耳元で低い声で囁いた。「なるべく顔を子供たちに見られないようにするんだぞ。いいな。」

普段と違うパパんの厳しい声に、私は肩をビクッとさせた。それに気づいたパパんが、優しく私の頬を撫でてくれる。

「大丈夫だよ、ローズ。すぐ戻るからね。」

「じゃあ、行ってくる。」パパんはそう言って、ママんの腰に手を回し、二人でさっそうと歩いて行った。

その姿を見て、私は思わず目を見張った。今日のパパんはいつも以上にスマートでカッコいい。ママんと並ぶと、まるでおとぎ話の王子様とお姫様みたいだ。

その時、パピーが私の耳元でそっと囁いた。

「ローズ、のど乾いてない?甘いものでも食べに行こうか?それとも、テラスに行ってみる?ローズはここ初めてだもんね。」


「うん!」私は元気よく頷いた。すると、パピーがすぐに唇に指を当てて『し~』と合図をした。

「静かにね。目立たないようにしないと、変な人が寄ってきちゃうから」パピーが少し真剣な顔で言う。

私はその顔を見て、思わず不安になりながらも、パピーにぎゅっとしがみついた。パピーは私の頭を優しく撫でてくれた。その手の温かさに、私は少し安心した。

「ローズはいい子だな。」パピーが小さく呟く。その声は優しくて、私は心の中で微笑んだ。


私は初めてテラスに行くことができると思うと、ワクワクが止まらなかった。

その気持ちが態度に表れてしまっていたようで、時折顔を上げてはキョロキョロと周りを見回してしまった。すると、パピーがそっと頭を引き寄せ、「ローズ、顔をあげちゃダメなんだ。ごめんね」と優しく囁いた。

《わかったよ。私はいい子にするからね》と心の中で呟いて、自分に言い聞かせた。

《いずれ、お菓子も景色も、後でたっぷり楽しめる時がくるはず。今は我慢しよう》。そう思いながら、私はパピーの肩に顔をうずめた。

お菓子のテーブルに着くと、甘い香りが漂ってきて、思わずお腹が鳴りそうになる。パピーが再び耳元で囁いた。

「色んなお菓子があるから、適当に盛り付けるね。でも、その間は僕の足元にぴったりくっついていて。話しかけられても、絶対に返事しちゃダメだよ。声も出さないようにね。」

私は静かに頷き、パピーの足元に降ろされると、小さな手で彼の足にしっかりとしがみついた。

少しだけ不安だったけれど、パピーがそばにいてくれるから大丈夫だと思えた。そんな時、上の方から温かい声が聞こえた。

「ローズは本当に可愛いなぁ。」頭を撫でられ、その優しい手の感触に、ほっこりとした気持ちになった。

パピーは手早くお皿を持ち、私が好きそうな小さなお菓子を次々と選び取っているのが見えた。

私のために、食べやすいものを選んでくれているのだろう。

《ありがとう、パピー》心の中でそう思いながら、私はパピーの足にぎゅっとしがみついて、じっとおとなしくしていた。

「おい、顔くらい見せろよ!」と突然、大きな声が響き渡り、私は一瞬で身体が固まった。

パピーの足にしがみついたまま、顔を上げずにじっとしていた。

《絶対に声を出しちゃいけない。お顔も見せちゃダメ》。そう自分に言い聞かせる。

「お披露目なんだろう?顔を見せないでどうするんだ?顔を見せられないくらい不細工なのか?この世の中、不細工でも女であれば誰かがもらってくれるさ!だから、顔を見せろよ」その声の主が私の肩に手を伸ばそうとした瞬間、パピーの低く冷たい声が響いた。

「やめろ、触るんじゃねぇ」パピーの声にはいつもの優しさが消え、相手もその変わりように驚いている様子だった。

「なんだよ。顔を見るくらい、いいだろ。減るもんじゃねぇし。お前、俺より2歳も年下だろ?言うこと聞いた方がいいぞ。痛い目見る前にな」相手の声が少し苛立ったものに変わる。

「年上?年上のくせに俺と同級生なんだろ?笑えるな」とパピーが鼻で笑ったように見えた。私はパピーの足元で、なるべく小さくなってじっとしていた。

《誰だかわからないけど、この人は無礼だな。名前も名乗らないなんて》そう思ったが、言いつけを守ってしゃべらないでおこうと決めた。

「みんなお前より年上のやつしかいないだろうが……」男の子がそう言いながら、私の両脇に手を入れて、パピーから引きはがそうとした。その瞬間、私は思い切り左手を噛んだ。

「つうっ・・・痛ってえなぁ!このクソガキが!」男が手を離し、私はすぐにパピーにしがみついた。

男が手を上げようとした時、会場に大きな音が響いた。「ガツン!」

「やめないか!グレン!」どこかから低く威圧感のある声が響いた。

パピーのすぐ横に、どっしりとした男性が立っているのが見えた。右手は、拳を握り震えている。どうやらこの男の子に拳骨をしたようだ。その人は続けて言った。

「うちの息子が申し訳ない。まだ小さいとはいえ、女性の扱いには注意しなさい。デリケートなんだから。男とは違うんだ」その言葉に、私は少し怖くなった。

すると、少し離れたところからママんの優しい声が聞こえた。

「グレン君、ローズのことを多めに見てあげて。この子は私たちの言うことをちゃんと聞いてくれているだけなの。無視しているわけじゃないのよ。ただ、恥ずかしがり屋さんなの。まだ1歳の赤ちゃんなんだから、優しくしてあげてね」

「すみませんでした。顔を見たくて、つい……ごめんなさい」とグレンが頭を下げた。

《意外と素直なところもあるんだな、この子は》すると、グレンが私の前にしゃがみこんで、目線を合わせてきた。

「ごめんな。怖がらせたな。顔を見せてくれないか?お願いだ」とグレンが静かに言った。

その様子は、まるでしょんぼりした大型犬のようで、つい私は顔を上げてしまった。グレンの目と私の目が合った瞬間、彼はほんのりと頬を染め、小さな声で「ありがとう」と呟いた。

すると、パピーが私の顔を自分の太腿に押し付けるようにして、グレンに囁いた。

「今見たものは忘れろ。またこんなことをしたら、ただじゃ済まさないからな」

「分かったよ。悪かった」とグレンは父親に連れられて去っていった。

私はふぅっと息を吐き、緊張が少しだけ解けた気がした。


とりあえず、なんとかなったようだが、まだ緊張が解けない。

パパんがゆっくりと話し始めた。「小さなトラブルがありましたが、皆さんが楽しんでいただけているようで何よりです。ローズマリーはこの辺で疲れてしまったようですので、退席させていただきます。この後も食事やダンスをお楽しみいただけたら幸いです」パパんの声は穏やかで、周囲の空気を和ませるようだった。

私はパパんに抱かれながら、少しほっとした気持ちで奥へと引き上げられていく。

パパんがパトリに向かって小さな声で指示を出した。「パトリ、ローズを部屋に連れて戻ってくれ」

すると、パトリがちょっと戸惑いながらも言った。

「パパん、友達が一人来てるんだけど、ローズに会わせてもいい?」

「ちゃんと礼儀正しい子なんだろうな?」パパんは少し眉をひそめて聞いた。

「うん、そこは大丈夫だよ。もう相手が決まってる奴だし、安心して」パトリの言葉に、パパんは一瞬考えた後、頷いた。

「そうか。少しだけならいいだろう。ローズも疲れているようだから、あまり長くならないようにな」

「わかった。ありがとう、パパん」とパトリは嬉しそうに微笑み、私を抱っこして、水族館のような部屋へ向かった。部屋の壁には大きな水槽がいくつも並んでいて、色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいた。私はその景色に一瞬見とれてしまった。

「ローズ、少し待っててね。俺の親友を紹介したいんだ」とパトリが私に優しく言った。

私は頷いた。ベッドに横になるとふかふかのクッションがとても気持ち良くて、疲れがどっと押し寄せてきた。

《ちょっとだけ休もう》そう思い目を閉じると、知らない間に眠ってしまったようだ。

目を覚ますと、もう夕方になっていた。パーティはすでに終わってしまったのだろうか?私は、目をこすりながら周りを見渡し、パピーが親友を紹介してくれると言っていたのを思い出す。

「パピー…パピー…」と、大声で呼んでみたけれど、誰も応答がない。どうしよう、眠ってしまっていたせいで、今さらどうすればいいのか分からない。目の前がぼんやりとし、涙が溜まってきた。

《なんて泣き虫なんだろう、この体は…》と、自分に言い聞かせながらも、私はまだ1歳の赤ちゃんだ。

泣いてもおかしくない年齢だと心の中で納得させるが、《なんだか…寂しいよ》と感じながら、どうしようもない気持ちに苛まれていた。

すると突然、ドアがガチャリと開く音がして、私は驚きで涙が止まった。

ドアの向こうにはカレンさんが立っていた。彼女の顔は変わらず無表情だ。

「お嬢様、目を覚まされましたか?」とカレンさんが声をかけ、私を見下ろした。

「お腹は空いていませんか?」

私は小さく頷きながら、しっかりと目を見て「すこち、お腹ついたかも」と答えた。

カレンさんは穏やかに微笑み、「もうすぐ、パーティーも終わるでしょうから、終わりましたら夕食にいたしましょう。皆様も来られますので」と言った。

「カレンさん、パピーのお友達も帰っちゃったの?紹介ちてくれるって約束ちたのに、どうちよう」と訊ねると、カレンさんは「パトリ様のお友達はもう帰られました」と答えた。

ショックを受けた私は、カレンさんの言葉を聞いた瞬間、心の中で落胆を感じた。カレンさんは続けて、「大丈夫です。お友達は、お嬢様の寝顔を見て、パトリ様にとってもかわいいねと言っていましたよ。パトリ様にもいい子ができてよかったねと言っていましたよ」と慰めてくれた。

カレンさんが部屋を出ると、再びドアがガチャリと開き、パピーが入ってきた。

パピーを見た瞬間、涙が再び溢れ、私は無意識に抱っこポーズを取った。パピーは私の様子を見て、すぐに優しく抱き上げてくれた。「パピー、ごめんなちゃい」と小さくつぶやくと、パピーは優しく微笑んで「何が?」と訊ねた。

「お友達のこと」と答えると、パピーは柔らかく私を抱きしめた。

「また今度会わせるから、大丈夫だよ」と言って、背中をトントンと撫でてくれる。その優しさに、私はホッとした気持ちで安心し、パピーの温かい胸の中で心を落ち着けた。やっぱり、パピーは私の天使だ!!

心の中で感謝の気持ちが溢れていた。


一瞬だけカレンの言葉に思うところがあったが、パピーが部屋に入ってきた瞬間、その違和感はすっかり消えてしまった。彼の抱っこは温かく、安心感を与えてくれた。

パピーと共に過ごす時間は、私にとって何よりの慰めとなり、心が落ち着くのを感じた。

パーティーの終わりと共に、次の出来事が待っていることはわかっているけれど、今はこの穏やかな時間を大切にしようと思う。


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