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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
15/19

15.学園での生活

初日の入学式が終わり、私たちは寮へと向かった。

私たちシャルルドット家のためだけに用意された寮の最上階、そのフロア全体がまるでペントハウスのようだ。寮とは思えないほどの豪華さに、思わず息をのんだ。

この学園の広さは、自宅の3倍はあるだろう。だが、その広さを感じさせないのは、敷地内に建ち並ぶ多くの建物と、庭園のように手入れされた庭のせいかなぁ~。

学園内には、寮だけでなく、校舎や体育館、図書館、グラウンド、研究棟、実験棟、そして先生たちの社宅まで、数え切れないほどの施設が揃っている。食堂やカフェ、スーパーマーケットに娯楽施設まで揃っており、まるで一つの街のように完結した空間となっている。ここでの生活に必要なものは、すべて揃っていると言っても過言ではない。

この学園の中にいるのは、生徒と先生のみ。その他のすべての仕事は、ヒューマノイドによって担われている。カフェの店員も全員ヒューマノイドで、もしこの学園内で変わった行動を取る者がいれば、それは生徒か先生に違いない。ほとんどのヒューマノイドはアスラン家が遠隔で管理しており、何か問題が起これば、すべてアスラン家に情報が集まる仕組みになっている。先生の研究に使われているヒューマノイドや、私たちが連れてきた使用人だけが、アスラン家の許可を得て、敷地内に存在することが可能なわけだ。他のヒューマノイドの持ち込みは一切禁止されている。寮に来るまでの間、レジーが色々説明してくれた。


もし、生徒や先生がヒューマノイドに何らかの危害を加えた場合、その情報はアスラン家を経由して、各一族や先生、両親に伝えられる。場合によっては退学、さらには一族ごと学園から排除されることさえあるという。そのため、みんな規律を守り、ほとんどの生徒が真面目に生活をしている。さもなければ、この学園に通えなくなるだけでなく、一族全員が出入り禁止になることもあるそうだ。

シャルル家の者であれば、シャルルの名を持つ者すべてが対象となる。つまり、処分されるのは自分一人だけでは済まないのだ。だからこそ、ヒューマノイドには絶対に悪さをしてはいけない。もっとも、ヒューマノイド以外なら良いのかといえば、もちろんそんなことはない。

いじめや嫌がらせに関しても、常にヒューマノイドから情報が流れる場合もある。

彼らには報告の義務があり、その内容はさまざまだ。まずは両親や相手の家族に報告されることが多いが、事態が大きくなれば学園にまで話が及ぶこともあるそうだ。

もちろん、普通に生活している分には何の問題もない。人間だから、たまには愚痴の一つや毒を吐くこともあるだろう。嫌味を言ったくらいでいちいち報告されていたら、こちらの気が滅入ってしまうというものだ。

ヒューマノイドたちはその辺りの区別はしっかりと心得ているようだ。


私は自分の部屋のバルコニーに出た。昨日は外に出られると思ってワクワクしていたが、実際は我が家と同じ仕組みになっているだけだった。つまり、本当の外ではなく、巨大なドームの中で映像が映し出されているのだ。我が家の景色と異なり、すべてが晴れた空というわけではなく、自然に近い景色を再現している点が違っていた。

バルコニーからの景色では、遠くにモンテ・チェルヴィーノ(昔の名前でマッターホルン)が見え、少し雪が積もっている。その横には、ここと同じような建物が少し離れた場所に立っている。この建物も30階建てで、こちらと同じようにペントハウスがあるそうだ。両方の建物で、ペントハウスより下の階は2家族、その下は3家族が住んでいるらしい。ここより部屋数は少ないようだ。

さらに下の階は女子寮になっていて、向かいの建物は男子寮らしい。ペントハウスのエレベーターは専用になっていて、その下のエレベーターは他の家族用、そして、女子のみのエレベーターと合計3台のエレベーターがあるそうだ。男子が女子寮に入ることができないように配慮されている。反対側の建物も同じ仕組みで、女子の部分が男子のみになっているということだ。

《向こうのペントハウスには誰が住んでいるのだろう?》建物の屋上を見ると、木々が植わっているようだ。このエレベーターでも屋上に行けるけど、女子専用のエレベーターでも屋上へ行けるらしい。ちょっとした公園になっているのかもしれない。後で行ってみなくちゃ!楽しみがまた増えたよ。

バルコニーはリビングとつながっていて、お茶や軽食が楽しめるようになっている。バーベキューもできそうなので、今度みんなでやろうと思う。バルコニーでは程よい風が吹いていて、気温も調整されているので、まるで本当に外にいるような感覚だ。でも、本当の外はもっと寒いのかもしれない。山には雪が積もっているし・・・

バルコニーから見下ろすと、学園の周りには家やカフェなどが点在していてとても賑やかそうだ。学園の周りは湖か川のような水辺で囲まれており、防犯のために水辺で囲まれているのかもしれない。そして、見えないけれど、この景色全体がドームに覆われているんだよね、きっと・・・


私の部屋は、自宅の部屋とほぼ同じ広さで、壁は清潔な白で塗られている。クローゼットの前に立ち、

「オープン」と声をかけると、ドアの横にある壁面が滑らかに動き、クローゼットが姿を現した。

「おおーーー」と感嘆の声が漏れた。自宅のクローゼットと同じデザインで、広さも同じくらいだろうか。どのクローゼットも同じように作られているのだろうか?今度、パピーの部屋も見せてもらえるといいなと思った。

クローゼットの中はすでに洋服や小物が整然と整理されていて、使いやすくなっている。さすが、私専用にカスタマイズされたカレンだ。手前には、色とりどりのジャージがかけられており、私の好みにぴったりだ。前世から動きやすいジャージが大好きで、中学校や高校のジャージを家で過ごすために使っていた。ジャージは着やすくて丈夫で、30歳を過ぎても愛用していたんだ。運動をするから、このジャージ類は今世でも重宝している。

「ウォール、バルコニーから見た外の景色」とコマンドを出すと、バルコニーから見えるモンテ・チェルヴィーノの山々が美しく映し出された。しばらくこの景色を壁紙として設定しようと思う。この壮大な景色は、心が解放されるような美しさだ。


パピーと昼食を済ませた後、運動がてら二人でウォーキングに出かけることにした。もちろん、私の服装は薄いピンクのジャージだ。ところが、パピーの服装に目を奪われた。全身黒で統一されたスーツに、丈の短いベストが組み合わさっていて、下には白いシャツを着ている。ズボンは体にぴったりとフィットしたスラックスで、まるでファッションショーから出てきたようにカッコいい。

「なにこれーーー!!パピー、めちゃくちゃカッコいいーーー!!初めて見たんだけど・・・私も同じのが欲しいよ~」

「もう少し大きくなったら、お揃いのを作ろうか!」とパピーがにっこり笑いながら言った。

「私、自分のジャージがみすぼらしく見えるよ・・・」私は鏡で自分の姿を見て、少しがっかりした。あまり成長していないように感じるし、お腹も少しポッコリしていて、典型的な幼児の体系だ。もっと成長したいなぁと思いながら、少し肩を落とした。


下の階に降りると、エントランスにはカートのような乗り物が何台も並んでいた。真ん中が乗り込む形になっていて、向かい合わせに4人が座れるスペースがあり、前にはテーブルが設置されている。そのテーブルには敷地の地図が表示されており、行きたい場所をタッチすると、自動でその地点まで運んでくれるようだ。なんて便利なんだろう。どこに行けばよいかわからない私でも、簡単に使いこなせそうだ。

これらの小型乗り物は、磁気によって浮かび上がり、移動する仕組みになっている。リフトバスよりも小さく、誰でも手軽に扱えるようだ。『スリムリフト』と呼ばれるその乗り物に、私とパピー、それに今回はダンも一緒に乗ることになった。

「ダンが乗るときは、二人分が必要だね」と笑いながら、私たちは移動した。


カフェの前に到着すると、周囲にはおしゃれな商業施設が立ち並んでいた。

スーパーや衣類、雑貨など、さまざまな店がありそうだ。とりあえず、私たちはカフェに入ることに決めた。

スリムリフトは、降りると自動で元の位置に戻る仕組みになっているらしい。もし再び乗りたくなったら、近くの公園の出入り口でまた利用できるようだ。歩くと寮までは約15分かかるらしいので、今日は運動をしていないから、運動がてら歩いて帰ろうかなぁ~?

便利さに甘えて、運動不足になるのは避けたい。

道を覚えるまでは、スリムリフトを利用しても、できるだけ徒歩やランニングをしようと思う。


お店の中には、同じ顔の女性のヒューマノイドが働いていた。お店ごとにヒューマノイドの顔形は違うようだ。

みんな同じだったら余計わからないから、店ごとに違う人ならわかりやすいよね。

テーブルには、スリムリフトと同じような感じでメニューがあり、ここで注文をするみたい。タブレットのテーブル版といったところだ。

注文するとメニューは消えて、普通のテーブルとして使用する。テーブル端の模様を押すとまた、メニューが出てきて、追加もできるようだ。

ここは学園内なので、食事代なんかは授業料に組み込まれていて、いくら食べても食事は払わなくてもいいようだ。 ただし、衣料品や雑貨なんかはその都度、払うようだけど請求は、両親にいくようで、何にいくらかかったかわかってしまうようだ。もちろん現金の使用もできる。

時々、見学に来る人や、親、親戚の部外者も食べれるようになっている。こういうお店ごとに、各一族も色々出店しているらしく、一族の中の競争もあったりして、よりよいお店を出店するそうだ。

毎回、店が同じってこともないようで、時々違う店になることもあるらしい。娯楽もあるみたいだし、その辺も一族によって違うんだろう。

私は、パピーに促されるまま、中に入ってそこでも物珍しくてキョロキョロしていた。

「ローズ、なんか食べたいものある?」とパピーに聞かれたので、急いでメニューを見ると季節限定の桜のケーキがあったので、それを選び、甘いものを選んだので飲み物は、甘くないアイスティーを頼んだ。

ここの季節は春?4月の入学式シーズンは桜だと私の中では決定している。

こういうメニューがあるってことは、ここの季節も春なのだろう。


どうやって、生徒だとか認識しているのかというと一人一人のヒューマノイドが生徒や先生その他の家族の情報は全部認識していて、顔を見ただけでわかるんだって・・・

レジーもすぐに答えてくれたし、ヒューマノイドってみんな優秀だよね。ホント、なんでもできるしね。悪いこともできないよね。これじゃあ・・・

注文するとすぐにケーキと飲み物が運ばれてきた。パピーは飲み物だけ注文したようだ。私のケーキは・・・

「おいしそう」なんて、可愛いケーキ。なぜこれにしたかというと、小さな桜の花が、何個も纏まってあるようにピンクのクリームがかわいらしくデコレーションされていて、見た目にも可愛いからついこれにしてしまった。クリームがピンクということは、桜の味がするのかな?と思いながら、一口食べてみると・・・

「う~ん、とってもおいしい。クリームにほんのり、桜の味付けがされていて、ホントおいしいよ。パピーも食べる?」

「じゃあ~、一口頂戴」と口を開けてくる。食べさせてくれって事かしら?私は一口スプーンですくって、パピーの口の中に入れてあげた。

「ホントだ、おいしい。甘さも控えめになってるし」とニコニコと笑顔が眩しかった。

周りの生徒たちは、みんなこっち見てるよ・・・特に女の子の視線が私に刺さってくるよ・・・

そして、なんだこの『ちんちくりん』は?って顔してみているような気がしてならない。だって、パピーを見た後に私を見たときの顔のギャップが激しいんだもの・・・

カフェって、昔から女性が多めよね・・・女性で甘いもの苦手とかほとんど見たことないし・・・

こういう所って男性は入りずらいと思うけど、今世は男子の数が多いだけに男の子も結構いた。

そこにひと際、小さい男の子が一人いた。ご家族の弟さんとかかしら?と思い、そっちの方をなんとなく見ていると・・・

《目が合っちゃった・・・》向こうもびっくりして、こっち見てるよ。なんでなんかな?って思っていたら、こっちの方へ歩いて来たんだ。そして、話しかけられた。

「君、名前はなんていうの?僕は、バルジャン家のクライム・ロック・バルジャン。上から3番目のバルジャンだよ。このケーキ僕が考えたケーキなんだ。どう?」

「とってもおいしいし、とっても可愛いわ。私はローズマリー・シャルル・ドット。よろしくね。ところで、あなたはお兄様が一緒なの?一人なの?」

「僕は一人だよ。今日、入学したばかりなんだ。君はお兄さんと一緒なんだね。もうすぐご両親と帰るの?」

「私も今日入学したばかりなの。じゃあ、同級生ね。よろしくね」と私は言うととてもびっくりした顔をされた。

「ええっーー?君も入学したの?6歳にしては、とっても小さいんだね・・・まぁ、僕も小さいけど・・・僕の場合は、まだ5歳だからね!」とちょっと胸を張って偉そうにしてきた。

「私は、今年4歳なるのよ。あなたより小さいのよ!!」私は不機嫌そうに答えた。

「ええっーー?4歳・・・僕より小さい子なんていたんだね。びっくり!!みんな6歳かと思ってたよ。僕のことはクライムでいいよ」

「私のこともロー・・・」ローズと言いかけた所で、パピーが私の言葉を遮り、かぶせるようにしゃべってきた。

「彼女のことは、ローズマリーって呼んでくれるかな?クライム君・・・私はパトリピアーズ・シャルル・ドットだ。よろしく。パトリって呼んでくれ」

「あなたが有名なパトリ先輩ですか!!びっくりです。パトリ先輩の妹さんでしたか!よろしくお願いします」と言ってクライムは頭を下げた。

「私のことはロー・・・」とまた、私は言おうとしたのだけれど、またパピーが邪魔をした。

「ローズマリー、話はその辺で、そろそろケーキも食べたようだし、俺たちも忙しいからこの辺で帰ろうか?」とパピーが不機嫌そうな顔をして私に言ってきたので返事を返した。

「わかりました。お兄様・・・では、クライムごきげんよう。また、学園でお会いしたらよろしくお願いいたします。では失礼いたします。お・に・い・さ・ま・・・行きましょうか」私は一言一言区切りながら、言って席を立った。

「じゃあ、またね」とクライムは手をヒラヒラと降ってきたので、私はお辞儀をしたのだった。

店を出るとダンがすぐに近くへきてから、

「次は、どこへいきますか?」とのんきに聞いてきた。

「お兄様は、今日は忙しいようで帰りたいそうです」私は不機嫌そうに言った。

心の中じゃ《もう少し見て回りたかったわ》と思ったが不機嫌そうな顔をして黙っていた。

「じゃあ、リフトバスを手配してくるから、ここで待っててくれ」とダンは走って行った。

私はパピーと二人きりになったが話しかけず、しばらく無言でいたら、パピーが・・・

「ローズ、お兄様っていったい何だい?」と聞いて来た。

「だって、私のお兄様でしょう?」

「そうだけど、ちょっと寂しいから、それはやめてくれないかな?」

「あら、どうしてですか?はじめてお友達になれそうだったのにお兄様が邪魔してきたんじゃないですか?私は少し怒っているのです」

「友達ならエミリーがいるじゃないか・・・エミリーだけで充分だろ?」

「どうしてですか?お兄様。お兄様にはアントニオやグレンやエミリー・・・何人もお友達がいるじゃないですか!!どうして私だけ、お友達一人だけでいいだなんて仰るのかしら?不思議だわ。お友達には親しみを込めてローズって呼んで欲しいの・・・わ・た・し・・・」

「その話し方は、やめてくれよ。悪かったよ!!ローズが友達作ってしまったら、俺のこと構ってくれなくなって寂しくなっちゃうじゃないか・・・そんなのは嫌なんだよ」とパピーはしゅんとしてしまった。

「いくら寂しいからって、はじめてお友達になれるかもって人にあんな風にしたら、私、お友達出来ないんじゃないんですかね?お兄様・・・」どんだけ妹が大好きなんだパピーは・・・私もパピーは大好きだけど・・・

そろそろ思春期に突入しているだろう兄は、そろそろ妹離れした方がよいのでは?跡継ぎに困りますよ・・・

なんだか、泣きそうな顔をしているパピーに少しお灸をし過ぎたかしら・・・

「では、お兄様!!私のお友達作りに口出ししないで頂けますかしら?」

「わかったけど、男の友達はダメだ。絶対にお友達なんかにはなれない・・・」

「では、お兄様・・・エミリーはお友達じゃないのですか?お兄様、エミリーに横恋慕でもしようという魂胆ですの?それともエミリーの方が違うのかしら?この間、お会いしたときはそんな風には思えませんでしたけれども・・・」

「どこで、そんな言葉を覚えてきたんだ?・・・わかったよ・・・男でも女でもお友達になれそうな人がいたら、必ず俺に紹介するんだよ!!わかった」とパピーは私に目線を合わせてから、私の額にコツンと自分の額を当ててから、ぎゅっとしてきたんだ。だから、私は、許す意味も込めてお返しにぎゅっとしてあげたら、さらにぎゅっとされた。

「じぬ・・・じぬがら」とジタバタしているとやっと腕を緩めてくれた。こんなんじゃ私、いつか潰されて死んじゃうよ・・・

シスコンも大概にしないとパピーは一生結婚できなくなるよと心の奥で思った・・・

そして、この日は、このままみんなで寮へ帰るのであった。


今朝は、4時半に起きて、トレーニングに向かう準備をしていた。昨日、レジーにお願いして、朝5時からのトレーニングをお願いしていたのだ。

今日からパトリも一緒にやると言って準備万端である。ローズマリーは、心の中で複雑な思いを抱いた。

兄として彼女を心配する気持ちは理解していたので、特に何も言わなかった。これから慣れるまでの間は、寮の周りをランニングすることにした。

3人で走り出して10分ほど経ったとき、後ろからリズミカルな足音が近づいてくるのを感じた。かなりのハイペースである。ローズが振り返ると、そこには昨日3年ぶりに再会したグレンの姿があった。彼女は素知らぬふりをして前を向いたが、すでにバレていたらしい。

「おはよう。ローズマリーさんは朝が早いんですね」とグレンが声をかけてきた。

寮を出てからの距離を考えれば、グレンが彼女たちよりも遥かに速いペースで走っていたことは明らかだった。それにもかかわらず、彼は息一つ乱れていない。さすが筋肉バカ・・・そんなことを心の中で思いながらも、私はそれを口に出すことはしないが・・・

「私、遅いので抜かしていっていいですよ」と彼女が言うと、グレンはペースを落とし、一緒に歩くことにした。

「大丈夫です。実は、3周してきたんでこの辺でペースを落とそうと思っていたところです。気にしないでください」

「あの~、私まだ今年で4歳になるお子ちゃまなので、普通に話してくれて大丈夫ですよ」

その言葉にグレンは目をキラキラさせて、肩の力を抜いたようだった。

「ごめん、実はこの話し方、肩が凝るんだよね。ありがとう」と言いながら、彼は彼女の頭を撫でようとしたが、その手をパトリがすかさず叩き落とした。

「誰が撫でていいって言った?」

「あれ?お前いたんだ?・・・少しくらい触らせてくれたっていいじゃないか」とグレンは懲りずにローズマリーの頭を撫でようと手を伸ばした。

それを見て、ローズマリーは一気にスピードを上げた。すると、二人とも「ローズ!」と彼女の名前を呼びながら追いかけてきた。寮の入り口に到着すると、そこにはカレンが待っており、私とパトリに飲み物を手渡してくれた。

相変わらずカレンは優秀だよね。ローズは飲み物を飲みながら思った。

「二人とも、とっても仲良しなのね?私も仲良しのお友達欲しい」

その言葉に、パトリとグレンは息を揃えて答えた。

「『おれ』『おれたち』がいるからいらないだろう?」と言い、そしてさらに続けて、「仲良く『ない』『ねぇ』」とまた、声が重なった。

やっぱり仲良しじゃん、とローズマリーは思わず笑みを浮かべるのだった。


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