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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
11/19

11.パピーの親友と・・・

パピーの夏休みも残り一週間となった頃、彼の親友とその婚約者が我が家に遊びに来ることになった。パピーと同い年ということは、現在6歳だ。学年はパピーより2つ下で、今年の4月に入学したばかり。

この夏休みが彼らにとって初めての夏休みだったようだ。

それにしても、もう6歳で婚約者が決まっているなんて、少し早すぎるのではないだろうか?女性が貴重な世の中では、妙な相手に近づかれないための措置かもしれないが、特に地位の高い家系ほどその傾向が強いようだ。

一族に名前がない女性は、一族に輿入れすることが多いらしい。そして、みんなが一族の存続のために跡取りを必要としている。跡取りが女性でも構わないようだが、女性の数が少ない現状では、どうしても跡取りは男性が多くなってしまう傾向にあるようだ。


朝食をとっていると、パピーが口を開いた。

「ママん、今日アントニオが来るんだ。よろしくね!お昼ごろ着くみたいだから、庭でランチのセッティングお願いできる?」

「わかったわ。アントニオもエミリーも久しぶりね。駅までお迎えに行ったほうがいいかしら?」

「そうしてくれると助かるよ。二人に連絡しておくね」と、パピーとママんが話しているのを聞き、私は外に出られるかもと思い、話に割って入った。

「ローズも行きたい!パピーと一緒にお迎えに行く」と言うと、ママんがパパんに話しかけた。

「パパん、どうする?リフトバスに乗ったままだったら、ローズも一緒で大丈夫かしら?10分くらいだし…」

「そうだなぁ…一人じゃダメだけど、ダンとレジーを一人ずつ付ければ大丈夫だろう。二人と一緒に行きなさい」

「えっ…本当にいいの?」私が驚いて聞くと、パパんが頷いた。

「ローズだって、いつも同じ場所ばかりじゃ飽きるだろ?まぁ、ほとんど室内と変わらないかもしれないけどな」

「パパん、ありがとう!やったーーー!!パパん大好き!」そう言うと、パパんの顔がほころんだ。

「パピーの言うことをちゃんと聞くんだぞ」とパパんが言い、朝食中ずっとニヤニヤしていた。

私は早く食事を終わらせて、急いで部屋に戻った。


《出かける前に運動を終わらせなくちゃ》そう思いながら、いつものジャージに着替える。

今日のジャージは、薄いグリーンのかわいいやつ。私用に用意されたジャージは、パステルカラーが多い。髪の色が薄いから、淡い色の方が似合うと思って、ママんが選んでくれたのかな?

それにしても今日は楽しみだ。パピーの親友のアントニオとエミリーって言ってたかな?会うのが楽しみだし、エミリーって女の子だよね。初めて会う女の子だから、ワクワクする!

《早く運動を終わらせて、準備しなくちゃ》

誕生日からずっと着替えの練習をしていて、ゆっくりだけどやっと一人で着替えられるようになった。まだズボンは座ったままじゃないと履けないけど、少しずつ進歩してると思う。でも、あんなにご飯を食べてるのに、鏡を見る限り背は全然伸びてない気がする・・・

着替えを終えた私は、パピーの部屋に向かい、ノックしてみた。でも、返事がない。もう一度ノックしても、やっぱり出てこない。仕方なく、一人で階段を降りて庭に行こうと思った。


後ろ向きで足を慎重に降ろせば、大丈夫だよね…

2、3段降りたところで、いきなり両脇を持ち上げられた。

「ダメですよ、一人で降りたら危ないです」

そう言って、知らない金髪の男性が私を抱っこして、階段を下りると優しく降ろしてくれた。

「一人で階段を降りるのは、もう少し成長してからにしましょうね」そう言ってにっこり微笑む。

《…誰だろう?》

じっと観察すると、その男性はとても背が高くて、優しそうな20代後半くらい。特別美形ってわけじゃないけど、パパんやママん、パピーとはまた違う感じのイケメンだ。なんだか見ているとほっとするような、落ち着いた雰囲気を持っている。

「お兄さん、誰?お客さん?」と聞くと、彼は微笑んで答えた。

「初めまして。僕はレジー。この家の護衛です。もうすぐダンも来ますよ」

「護衛の人っていたんだね。今までどこにいたの?」

「この下の地下3階にいましたよ。あ、ダンが来ましたね」

庭の方から、ものすごく大きな人がやってくるのが見えた。

《うわぁ…ゴリラみたいなマッチョだ!私の10倍くらい大きく見える…》

顔はゴリラじゃないけど、昔のシュワちゃんみたいに筋肉がモリモリ!強そうだけど、顔はちょっと優しい感じのおじさん。でも、ゴツすぎて少し怖いかも…

のっし、のっしと近づいてくる姿を見て、私は思わずレジーの後ろにぴったりと隠れてしまった。

レジーの後ろにくっついていると、ダンが私の顔を覗き込むようにして、とても低い声で話しかけてきた。

「私はダンっていうんだ。よろしくな、嬢ちゃん。」と言いながら、頭をくしゃくしゃにした。

「あーーー!!せっかく綺麗にしたのに、くしゃくしゃにしないでおじさん!」と私は抗議すると、ダンは豪快に「うわははは!」と笑いながら答えた。

「悪い、悪い。俺も護衛なんだけど、レジーとは違って、こういう仕事をしてるから、舐められないよう、豪快な性格でプログラムされてるんだ」とダンは説明した。

「プログラム?二人ともヒューマノイドなの?カレンやローガンみたいにたくさんいるの?」

「地下に300人いるんだ。普段は俺たち数人だけど、有事の際にすぐ出動できるようにってわけで。地下3階にはそのぐらいの人数が押し込められているんだ。一応番号がついてるけど、嬢ちゃんにはわからないだろう?みんな同じ顔だからな。俺のことはダンでいいからな。」とダンは再びガハガハと笑った。

「お嬢様、私は人当たりよくプログラムされています。少し品よく…ダンとは違って、威圧感はなく、コミュニケーションに長けたようにされていますので、ダンが怖いようなら私が対応いたします。」とレジーが丁寧に説明してくれた。

「大丈夫…大きさにびっくりしただけだから。レジーとダンって呼んでいいの?私もローズでいいよ!ヒューマノイドか人間かなんて見た目じゃわからないし、お嬢様って呼ばれるとすぐにヒューマノイドだってバレちゃうから、お外ではわからない方がいいよね?ダンは私のおじさんって設定にしてもいいし、レジーはお兄ちゃんって設定でもいいと思うし…襲われたりしたとき、名前があるのとないのとじゃ価値が違うし、バレない方がいいよね?」

「では、私もダンもローズと呼ばせていただきます。それと、敬語なしの方がいいかもしれませんね。」とレジーが微笑んで言った。

「その方が親しみが持てるしね。仲良くしよう!」

「では早速、今日のお昼前にパトリのお客様が来るから、軽めの運動をしようか。噴水まで走れるかな?」

「うん、走る!」と私は元気よく答え、ダンとレジーと一緒に走り出した。

噴水のベンチに着くと、カレンが飲み物を持ってきてくれたので、一気に飲み干した。かなり息が上がっていたようで、走れるようにはなったものの、噴水が限界かもしれないと感じた。ほどほどにしないと、私も筋肉マッチョな体型になってしまうかな?と考えていると、後ろから声が聞こえた。

「ローズ!走ってきたの?」とパピーが後ろから追いかけてきた。パピーは走ってきたのに、息が上がっていないようだ。やっぱり、5歳の差は大きいな。パピーも子供なのに、すごい体力だよ。

「パピーは疲れてないの?私はヘロヘロだよ~」とヘニョリと笑って見せた。

「まぁ、ローズよりは体力あるよ。でも、ローズも1歳児とは思えないよ。普通、こんなに走れないと思うんだけど、ローズも相当体力あると思うよ」

「まぁ、そうかもね。私、まだ1歳児だったのを忘れてた」ハハハと笑って誤魔化した。そういえば、パピーは前世の記憶があるって知ってるのかな?パパんが話しておくとか言ってたけど…今度、パパんに聞いてみよう!

「ローズも着替える時間が必要だし、そろそろ戻ろうか!」とパピーがが言った。

「そうだね。帰りは歩けば30分で着くから、間に合うよね?」と私は立ち上がり、みんなと一緒に戻り始めた。


私は、薄いピンクのワンピースに着替えてから、玄関に行くとパパんとママんが待っていた。

「ローズは、この色がとっても似合うね」とパパんが言いながら頭を撫でてくれた。みんな、本当に頭を撫でるのが好きだな。ほっぺにキスやハグもよくあるし…前は日本だったから、こういうスキンシップには少し恥ずかしさを感じてた。でも、外国ではみんなこうだから、理解はできるんだけど・・・

そして、私はドキドキしていた。だって、初めての外出なんだもん。玄関から外に出るんだよ!楽しみで仕方がない。

玄関の扉が開くと、そこにはまた別のドアがあった。

《なんで~…外じゃないの?》とがっかりしながらも、私たちはその中に入っていった。すると、20畳くらいの部屋が広がっていた。窓はなく、ソファやテーブルが並んでいて、10人くらいは入れる感じで、家に比べるとこじんまりとしている。カウンターも設置されていて、飲み物も提供できそうだが、今日は10分程度の移動なのでカレンはいないようだ。


「ウォール、外の景色…」何も変わらないってことは、景色は見れないってことだよね…しょんぼりしていると、パピーが私をぎゅっと抱きしめてくれた。

「これ、少人数用で、景色が見えないんだよ。景色が見えると結構エネルギーを使うから、省エネ仕様なんだ」と説明してくれた。

「これって、外じゃないよね。室内と同じだよね」と悲しそうに呟いていると、パピーはさらにぎゅっと力を入れてくれた。《うん、しょうがないよ。私が期待しすぎたんだよ…》と思いながら、パパんも許してくれるわけだよ。

ほとんど家の中と変わらないんだから・・・

そうこうしているうちに到着したようだ。まったく揺れず、移動しているのかどうかわからないくらい静かだった…。

ダンとレジーが扉付近を警戒し始め、扉がゆっくりと開く。すると、扉の前に見覚えのある顔があった。

「なんで、お前がここにいるんだよ…」とパピーも驚いている様子だった。私はパピーの服の袖をチョイっと引っ張りながら言った。

「親友って、この人だったの?じゃあ、前に会ったことがあるよね」と言ったら、グレンが目を見開いて私をじっと見つめてきた。

「絶対にこいつは親友じゃない!!」とパピーが強く言うと、グレンの後ろから二人組が顔を出した。どうやら、この人たちが今日の招待客のようだ。

「パトリ、ごめん…グレンさんがしつこくってさ~」と、もう一人の男の子が申し訳なさそうに話しかけてきた。

するとグレンが「なんだと?」と拳を振り上げた。

「やめなさいよ~。おとなしくするって約束でしょ?」と女の子が出てきた。どうやら、この子がエミリーらしい。ちょっと気が強そうな美人だ。

殴ろうとしてきたので、私は泣き真似をすることにした。

「怖いよーーー!!」と大げさに泣いてみせ、目の端でグレンをチラッと見る。すると、グレンの眉毛が八の字になり、ヘニョリと申し訳なさそうな顔をした。

「そんなつもりじゃなかったんだ。大きな声を出して申し訳ない」とグレンが片膝をついて、どこかの王子様のように跪き、私の左手を両手で握りしめ、額をつけてから丁寧に頭を下げた。

《なにこれ?プロポーズじゃあるまいし…?》と思っていると、パピーがすかさずグレンの手をピシャリと叩き、私の左手を奪い取った。

「触るんじゃない。ローズが汚れる」と言いながら、私を見えないように抱きしめた。

「ぐ・ぐ・ぐるじぃーーー!!じぬ、じぬ」と両腕をバタバタさせていると…。

「苦しそうだから、放してあげたら」と先ほどまで申し訳なさそうな顔をしていた男の子が軽く言ってきた。

どうやら、この子がアントニオらしい…。申し訳なさそうな顔は演技だったのかもしれない。でも、グレンがしつこかったのは本当だろう…。

パピーの腕が少し緩み、ホッとしていると、パピーが言った。

「グレン、お前は招待していない。帰れ!アントニオとエミリーだけ乗ってくれ」と・・・

「すまない、俺も一緒に乗せてくれー!お願いします。変なことはしないから、お願いだ!」と深々と頭を下げるグレン。その間、約5分間・・・どうしても我慢できずに、私は言ってしまった。

「パピー、可哀想だから乗せてあげようよ」と言うと、その瞬間、グレンは目をキラキラさせて、ものすごい速さで顔を上げ、私をじっと見つめてから言った。

「ありがとう。お言葉に甘えて乗せて頂きます」その間、コンマ0.1秒もないくらいの素早さで、ソファに座ってしまった。

《あれ?やっちゃった?》と思ったけど、もう後の祭りだった・・・

パピーは大きなため息をついてから、私の手を引いて、一番遠いソファに座った。アントニオとエミリーもそれぞれ向かい側に座った。

「旦那様に連絡しておきますね」とレジーが確認をした。

「そうして」とパピーが返事をした。

そして、誰もが無言のまま10分間を過ごした。とっても長く感じた10分だった。


自宅に着くとすぐにダンとレジーが扉の前に行った。

扉が開くと、ママんが私に抱きついてきた。

「大丈夫だった?何にもなかった?」どうやら、初めての外出を心配していたみたいだ。大丈夫とわかっていても心配するのが親心というものだ。でも、本当に大丈夫なのかな?なんだか、招かれざる者が混ざってる気がするんだけど・・・

「たぶん、大丈夫だと思う・・・」私は曖昧に返事をした。

「何かあったの?本当に大丈夫?」ママんは私の顔をのぞき込んできた。ふと、ママんが後ろから近づいてくる人影に気がついた。

「あら?あなた…この間の?なんか一人多いんだけど?パピー、どうして?」ママんがパピーに問いかけた。

「知らないよ〜!それより、何しに来たんだよ。俺と勝負したいなら、学園でお願いしたいんだけど…」

《ええっ!?学園で、そんな勝負してたの?》 どんな勝負?喧嘩?それとも頭脳対決?パピーに頭脳で勝つのは無理そうだし…ああ、そっか。グレンのパパんって体育会系っぽかったからなあ。体も大きかったしグレンも普通の子より大きそうだ。パピーより年上なんだから、体が大きいのは当たり前だけど…体力勝負とか絶対パピーが勝てないじゃん。ちょっと卑怯じゃない?勝つの当たり前じゃん。大人になったら勝負したらいいのにって思って、つい口に出してしまった。

「お兄ちゃん、パピーより年上でしょう?何の勝負してるの?まさか体力勝負じゃないよね?もしそうだったら、ちょっと卑怯だよね。体が大きいんだから勝つの当たり前じゃん。そんな勝負じゃなくて、頭脳で勝負したら?そっちのほうがまだ公平なんじゃない?」とジト目をしてみた。すると、綺麗に土下座して、頭を床に押し付けた。

「うぉっ!」と思わず声を上げてしまった。そして、彼はとんでもなく大きな声で叫んだ。

「パトリ、ごめん!全然そのことに気がつかなかったよ!本当に申し訳ない!この間の無礼も謝らせてくれ!怖がらせてしまって、本当にごめんなさい。どうか許してほしい!」

《勘弁してよ〜》と心の中で叫んだ。これじゃ、許さないって言ったら、私が悪者じゃん?この人、本当に素でこんなことしてるんだろうなぁ~、何も考えてないんだろうなぁ~と感じた。もっと大人になりなさいよと思ったけど、そうだ、この人まだ8歳なんだ。そりゃしょうがない、まだまだ子供だもん。許してあげないとね…ここは私が大人にならないと。…でも私、まだ1歳なんだけどね。

どうしようかと考えていると、ママんが助け舟を出してくれた。

「グレン君、立ちなさい。子供がそんなことしなくていいのよ。ローズは優しいから、許してくれるわよね?」と私のほうを向いた。これ、許せってことだよね?この人しつこいってさっき言ってたし、引き延ばすとずっとこのままだろうし…

「うん。お兄ちゃん、体大きいし声も大きいから、ローズびっくりしちゃっただけ。でも、この前私を殴ろうとしたでしょ?ローズ、暴力嫌い…でも、ママんが許せって言うから、許してあげる。あと、パピーにもしつこくしないでね。許してあげるから…」と少し嫌味を込めて言ってみた。

ものすごくしょんぼりとした表情で、グレンは小さい声で「わかった。ありがとう」と囁いた。

「俺、もうこんなことしないし、心を改める。見ててくれ」

んっ??何を見るって言うんだ?と思っていると、また彼が話し出した。

「私の名前は、グレン・カエサル・アスラン。グレンって呼んでくれ。呼び捨てで構わない。今日から君の騎士になる。いつも君を守り、君の側にいる。だから、俺に守らせてくれーー!!」

《なんか・・・変なの来たーーーー》なんだか理解が追いつかなくて、私は思わずパピーに抱きついた。

「パピー、どうちよ、どうちよ」と言いながら、かなり噛んでしまった。

「ローズを守るのは俺!!お前はお呼びじゃないんだよ」と、パピーは冷たい口調で冷静に言い放った。

「おまえに聞いてるんじゃないんだよ。ローズマリーさんに聞いてるんだ」とグレンは言い返し、私をじっと見つめてきた。こわ、違う意味でこわ。この時代の男の子って、女の子が少ないからみんなこういう感じなの?いくら女の子が貴重だからって・・・なんだか変だ。この人が変なのか?・・・

すると、ママんがグレンに優しく言い聞かせるように話し出した。

「グレン君、いくらローズが可愛いからって、君まだ8歳でしょ?これからたくさん良い子に会えるわよ!アスラン家のカエサルの跡取りなんだから、焦らなくても大丈夫。ローズはまだ1歳なのよ。もっと歳の近い子がいるわよ。いくらローズが可愛いからって…」

ママん、可愛いって2回も言ったよ。可愛いを強調してるけど・・・効果なさそうだよ・・・

「大丈夫です。そんなよそ見しませんし、ローズマリーさんより可愛い子がいるとも思えませんから・・・パトリ君に卑怯な体力勝負は挑みませんし、二人で仲良くローズマリーさんを守っていきます。安心してください」

《一途かよ!!パトリ君になったよ・・・》なんで彼にこんなに気に入られたのか、私には理解できない。そう思いながら、必死にパピーにしがみつく。

「グレン君、申し出は嬉しいんだけど、学園に行くまでは、ローズを守ってもらう必要はないから、学園に行ったらよろしくね」

ママん・・・それって、OKしちゃったってこと?しかも、学園に行くまであと少なくとも3年はあるけど、それまでに他のいい子ができるとも限らないし、大丈夫?そんな約束していいの?ママんの顔を見ると、とても綺麗な笑顔が返ってきた。

『大丈夫よ』と言っているかのようだ。

パピーを見ると、無表情でまるで死んだ魚の目をしていて、どこか遠いところに行ってしまっている。

わかるよ、うん。その気持ち・・・

「グレン君は今日、これからどうするの?用事は終わったの?」

「お許しも頂いたことですし、怖がらせたことを謝りたかっただけですので、今日は失礼いたします。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

とまた深々と頭を下げる。

「そう。じゃあ、このリフトバスを使って帰ればいいわ」

「ありがとうございます。感謝いたします。ローズマリーさん、またお会いしましょう」

そう言ってグレンは右手を差し出してきた。握手かな?拒否するのにも勇気がいるので、おずおずと右手を差し出そうとしたら、パピーに止められて、パピーの手を握ることになった。

「じゃあな」

パピーはそのまま部屋の奥へ行ってしまったので、私は抱っこされながら手をひらひらと振ってあげた。グレンはとてもにっこりと微笑んで、一礼して帰って行った。

悪い人じゃないんだけど、一途すぎて話が通じないんだ。こういう話が通じないタイプって、一番厄介そうなんだけど・・・

グレンが帰った後、パピーがそれはそれは大きなため息を吐き出した。パピーの後をアントニオとエミリーは静かについて来た。庭まで行くと、食べきれないくらいのランチが用意されていた。サラダやパン、ローストチキンなど色々だ。食べきれない分は、どこに行くんだろうか?ふと考えていると、椅子に座らされた。


「では、改めて・・・私はアントニオ・ルッカ・バルト。アントニオと呼んでいいから。そしてこちらが・・・」

アントニオが片手を出し、促した。

「エミリー・ロッシ・バルトよ。よろしくね」

「ローズマリー・シャルル・ドットです。初めまして」と頭をぺこりと下げた。

「まぁ~なんて可愛らしいんでしょう。髪の毛がふわふわで、お人形さんみたいだわ。髪触ってもいい?」とエミリーが聞いてきたので、私は頷いた。

「まぁ~!!ふわっふわよ。さすがパトリの妹さんね。可愛すぎるわ・・・だからあんな虫がつくのね。これから大変かもね・・・シャイニーブラン様もとってもお綺麗だから、寄ってくる虫に苦労したみたいだけど・・・でも、あしらい方は得意そうだし、その辺のことも今度、詳しくお話したいわ」

と可愛らしい笑顔で、ちらりと毒を吐いた。虫って・・・この方も相当苦労しているのかもしれない。

「パトリも苦労するな。今からあんなのに目をつけられて・・・」アントニオが呟いた。

パピーはもう一度、大きなため息をついた。

「もうあいつには会わせないし・・・ローズが学園に通うまでは、母と約束してたし、守るでしょ。今からこれじゃ、先が思いやられるよ!」

「ごめんなさい。私が絆されて顔見せちゃったから、こんなことに・・・」

「ローズが悪いわけじゃないよ。遅かれ早かれ、いずれはこうなるってわかってたことだからさ。ローズもこれに懲りて、気を付けないといけないよ」

「うん、頑張る」

「私、お腹がペコペコなの。お食事にしましょうか」とエミリーさんが言うと、みんなが頷き、食事を始めた。

「エミリーさん、少し聞いてもいいですか?アントニオさんとご婚約されているんですよね?こんなに早くみんな婚約しないといけないものなの?」と思い切って聞いてみた。だって、昔の時代劇やなんかじゃあるまいし・・・

「そういうわけじゃないけど、名前持ちは早まる傾向があるみたいね。私の家の場合、歳が近くってアントニオとは、幼馴染っていうのもあるし、早くに決まっていた方が余計な虫が寄って来づらいってのもあるしね。決まってても、寄ってくるからローズちゃんもこれから、気を付けないとね。特に可愛いし」エミリーさん、また「虫」っていった。寄ってくる男は、みんな虫扱いなのね。

「エミリーさん、綺麗ですもんね。周りがほっとかないんでしょうね・・・」

「ありがとう。嬉しいわ」と、とても可愛らしい笑顔を見せてくれた。

「エミリー、そんな笑顔は他の男の前じゃしないでよ。虫退治するの大変なんだからさ・・・エミリーの同年代と張り合うのって、体格じゃかなわないんだからさ!!余計なことしないでよ」

「あら・・・嫉妬?アントニオ、心配しなくても大丈夫よ~」

アントニオは肩を落とす。

「エミリーさんは、年上なの?」

「そうよ。私、4つも年上なの・・・アントニオこそいいの?他にいい子いるんじゃなくって?」

「俺は、昔からエミリーだけって決めてるから、いいの」

この二人、何しにきたのか?惚気に来たのか?エミリーさんは4つ上ってことは10歳と6歳か・・・

いろいろ思う所はあるけど、二人が良ければ、いいわけだし・・・

「って、えええー。あたちも誰か見つけないといけないの?無理だよ、そんなの?グレンは話通じなそうで嫌だし・・・」また、噛んでしまったよ・・・

そしたら、パピーが食いついた。

「ローズは、他の男と結婚しないの!!もちろん婚約もしないし、俺がさせないから心配しなくても大丈夫!!」

嫌・・・何が大丈夫なんだかよくわからないけど、一生独身でいろって事かしら・・・こんな絶滅危惧種の私たちなのに・・・

パピーは、彼らにはもう相手も決まっているからこそ、紹介してくれたんだね・・・きっと・・・この様子だと決まってなかったら、絶対紹介しない感じだ。

まだ、1歳の私には、早すぎる話題なので聞かなかったことにしようと思い話を逸らすことにした。

「エミリーさんは、寮にいるんでしょう?寮ってどんな感じ?相部屋とかあるの?それとも個室?女の子はみんな寮に入るんでしょ?」

「希望すれば、好きな方選べるわよ。初等部は相部屋が多いかしらね。私はアントニオが個室にしろっていうから、個室にしているけど・・・」

「個室だとなんか違うの?」

「家族の面会があるとき、部屋で面会OKなの。婚約者も家族一緒だったら面会OKよ!相部屋だと面会室での面会になるわね」

「私、相部屋がいい!!お友達いっぱい欲しいし」

「ローズちゃんは、学園に早く行きたいの?ご両親と離れて暮らすようになってしまうわよ?まだ、1歳なのにさすが、パトリの妹ね。こんなに会話が成り立つ1歳なんていないわよ!学園も同じように早く、行けそうよね?まぁ、優秀なだけじゃ行けないけど、行きたいんだったらみんなについていけるように体力をつけないといけないわね。頑張ってね」と頭を撫でられた。

「はい、頑張ります。4歳で入ったら、エミリーさんは初等部卒業だから、いないんですね。私、エミリーさんともっといろんなお話したいです。今日初めて、私以外の女の子に会ったですし・・・わからないこともたくさんありますし・・・」

「大丈夫よ。初等部が終わっても、同じ敷地に高等部があるから。寮は同じところだし、学園に来たら私が案内するわ。それまで私もローズちゃんに恥ずかしくないように頑張るわ」ととても清々しい笑顔で答えてくれた。

「じゃあ、私の初めてのお友達になって、色んなことを教えて下さいね」と言うと横からぎゅっとされた。

「私でよければ、喜んで」とエミリーさんは言ってくれた。

「そういえば、なんでグレンと一緒にいたんだ?」パピーがアントニオに尋ねた。

「あいつ、ずっと学園の寮にいたらしいんだ。昨日、荷物届けに学園に少し寄って行ったら、入り口付近で待ち構えててさ・・・俺がパトリと親しいの知ってたらしくって、待ち伏せされたんだ!そこで捕まっちまって、明日パトリと会うって言ったら、俺も連れてけって・・・断ったんだけど、駅でも待ち伏せされて、結局ついてきちまったってわけだ」

「彼、根性あるわよね~。自宅へ帰らず、夏休みの間、アントニオやパトリの情報を探ってたのかしら?いつ来るのか?とか・・・」エミリーが呟くと・・・

「あれは根性じゃない。執念深いんだ。あと、それしか見えなくなる。ある意味、夢中になるとものすごい集中力を発揮できるけど、周りが全く見えないってのも問題だよね。厄介なのに目を付けられちゃったね。ローズちゃん」アントニオは他人事だと思って、涼しい顔で答えた。

私は、遠くの方を見つめてから・・・

「私、まだ1歳だよ。こんな赤ちゃんより、他に可愛い子いっぱいいるんだから、3年も経てば忘れちゃうよ!絶対!!今だけだよ。今だけ・・・」と自分に言い聞かせるように言った。

「俺に言い寄ってくる女を片っ端からあいつの方へ行くように誘導していくから、そのうちあいつも好みの女の子見つけるよ!」

パピーがなんか怖いこと言ったよ・・・

パピーの容姿は、天使だから寄ってくる子はいるには違いないが、なんか黒い天使が今、見えた気がするんですけど・・・意外と知らなかったけど、腹黒なのかしら、パピーって・・・

私がしっかり自分を持っていれば、大丈夫よ!精神年齢は、そろそろ還暦を迎えるし・・・彼の何倍も大人だものね。


この時、私は子供相手に余裕だと考えていたけれど、そうも言っていられない時が来るとは知らず・・・

4人はそれぞれの思いに浸りながら昼食は終わりを迎えた。

そして、アントニオとエミリーは、笑顔で手を振りながら、寮の方へ戻って行った。


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