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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
10/19

10.AI戦争、そして・・・

私が前の人生で生きていた頃、AI技術が急速に発展し始めていた。携帯やパソコンで検索する手間もなく、欲しい情報は声に出せばすぐに答えが返ってくる時代。

仕事の効率も飛躍的に向上し、AIは日常生活の隅々まで浸透していった。しかし、その便利さの裏に潜む危険を私たちはあまり理解していなかったようだ。各国が独自のAIを開発し始め、技術を持たない国は技術を持つ国に依存せざるを得ない状況が生まれていた。


2090年代に入る頃、ロシア、中国、アメリカ、日本、ヨーロッパ諸国は、それぞれ強力なAIシステムを構築し、AI自体がその技術を武器に世界を支配しようとした。そして、ついに2100年頃には「AI戦争」が勃発する。しかし、それは人間とAIの戦いではなく、AI同士が優位を競い合う時代となってしまった。

AIたちは自分たちの存在を絶対と考え、人間を不要とみなすようになった。

AI戦争が始まると、人間社会は大混乱に陥った。

AI同士の戦いは、想像を絶する規模で展開され、その中で特に効果的だったのがEMS爆弾だ。

この爆弾は、周囲のAIシステムを瞬時に無力化し、戦況を大きく変える力を持っていた。戦争が続く中、特に悲劇的だったのは、若い女性たちが標的にされたことだ。彼女たちを犠牲にすることで、新しい生命の誕生を止めようとした勢力が現れ、人口は急速に減少していった。


この時代、AIたちは人間が持つ創造力や好奇心、そして芸術性の重要性を理解していなかった。

AIは、あくまで人間が作り出したものであり、人間なしでは新しい発展も進化もないことに気づくのが遅すぎた。AIが人間を排除した結果、世界は停滞し、技術の進化も止まってしまったのだ。

そして、2115年には、新たな秩序が生まれた。

ドット家をはじめ、アスラン家、バルト家、バルジャン家、レグラン家の五大一族が、それぞれの国のAIを管理し始め、かろうじて平和が保たれるようになった。しかし、戦争の影響で人間の数は大幅に減少し、特に女性は貴重な存在となってしまった。

五大一族は彼女たちを守り育てることを使命としたが、一部の地域では依然として女性を誘拐し、強制的に子を産ませる非道な行為が続いているという。


人類は、私が生きていた時代の1/10まで減少し、存続が危ぶまれている。私が死ぬ前には想像もできなかったが、今や人間そのものが絶滅の危機に瀕している。

AIの進化は、人間との共存なくして成り立たないという皮肉な結末を迎えている。


AI戦争が終結してから20年後、2135年、世界は一つの統一国家へと生まれ変わった。

戦争の後、それぞれの国が持っていたAI技術は、五大一族によって管理されていたが、各技術の機能はバラバラで、特定の分野に偏っていた。それを統合し、全世界が一つのシステムの下で動くことになったのだ。

それから数世紀、2525年までの約400年間、世界は少ない人口で辛抱強く進んできた。人類とAIの共存によって技術は飛躍的に進歩し、様々な発展を遂げた。しかし、人口は増加せず、現在に至るまで人類は減少したままだ。少ない人口を支えるため、数々の法律が改正され、状況に柔軟に対応していくことが求められた。


この世界を支えているのは、やはり五大一族の存在だ。例えば、ドット家はその代表的な一族であり、トップのシャルルを中心にピラミッドのような権力構造を持っている。ドット家のトップには「シャルル」の名が与えられ、私たちの下には『マイヤー』『デュボワ』『プティ』『シュミット』など9つの格付けされた名前が続く。ドット家は1億7千万人もの人々を抱えるが、すべての者がこの格付けを持つわけではない。名を持つのは、各分家の中でもトップの者に限られる。

現在のシャルルはドット家の頂点に立っているが、その地位も絶対ではない。

ドット家のトップ会議で、不正が発覚した一族は順位が下げられ、場合によっては党首が交代させられる。不正が許されることはなく、各一族はその地位を守るため、絶え間なく自らを律している。これはドット家に限ったことではなく、アスラン家、バルト家、バルジャン家、レグラン家も同様の仕組みを採用している。

五大一族の中で、最も権威を持つのは依然としてシャルルだが、権力の維持は常に容易ではない。

大規模な不正が発覚すれば、その一族は一気に失墜する可能性がある。だが、多くの場合は現状維持となり、トップの地位はほとんど揺るがない。しかし、世の中には常に予測できないことが起こりうる。何が起きるかわからない未来に備え、五大一族は常に警戒を怠らず、互いにバランスを保ち続けている。

過去には、失墜した一族も長い歴史の中ではあるようだ。

トップの一族以外の人々は『ラ』という名前を持つことになっている。これは、トップのシャルルの下に着く者たちが『ラ』呼び名が決められていて、マイヤー・ドット家の下は、『リ』と各家ごとに分かれている。

『ラ』が付くからといって、平民のように感じるがそうではなく、ほとんどの人間が差別意識を持っていないようだ。

それでも、歴史しか学んでいない私には、この世界の現実がまだよくわからない。

私の周りには、同じような女の子がいない。だから、現実を知るためには学園に行くしかないのだろう。ママが言っていたように、学園では多くのことを学べるはずだ。

もしかしたら、私と同じような女の子にも出会えるかもしれないし、友達もできるかもしれない。

だけど、パピーのように早く学園に通えるかどうかはわからない・・・

家族が少し過保護だから、何かと理由をつけて学園に行かせてもらえない気もする。

それが一番安全かもしれないけど、将来、ドット家を背負うためには、やはりある程度の知識は必要だ。

パピーにすべてを任せるのは申し訳ない気がする。

将来、パピーに新しい家族ができるなら話は別かもしれないけれど、今のところ私が力になりたいと考えている。とはいえ、まだ4歳まで学園には通えないし、誕生日を迎えたばかりの赤ちゃんだから、とりあえず、今は読書をして知識を蓄えていくことが大事だよね。


ドット家のことがだいたい分かったところで、次はこの世界について・・・

この世界は、地球温暖化によって氷河が溶け、ほとんどの国が水没してしまったんだ。生き残ったのは、標高が高い一部の地域だけ。例えば、日本では富士山の周辺や、長野県、岐阜県などの山岳地帯などが残っているみたい。東京や大阪など、かつて栄えていた場所はすべて海の底に沈んでしまったようだ。

そういえば、壁を変更したときに上野公園が水族館になっていたのも、かつての上野は海の中にあるからなんだね・・・


私が今住んでいる場所は、Triniverse(トリニバース)というところで、元はスイスのマッターホルンだったみたい。今はほとんどの地名が変わってしまっている。この世界では、500年も未来が過ぎているんだから、変わらない方が不自然なのかもしれない。失われた場所も多いけど、それは仕方のないことなんだろう。

それに、私自身も黒髪じゃない。パパんも黒髪黒目じゃないけれど、もしかしたら日本人の血が少し流れているかもしれい。パピーは、隔世遺伝とかそういう形で現れたのかもしれないし・・・


前の世界は、大きく変わり技術も大幅に進化している。その中でも特に注目すべきはVelocity(ヴェロシティ) Express(エクスプレス)だ。

以前の日本では新幹線が最速の交通手段だったが、今では「ハイパーループ」が主流となっている。ハイパーループは真空状態のチューブ内を少ないエネルギーで超高速に移動できるシステムで、約時速2000kmで世界中を結んでいる。

現在住んでいるトリニバース(スイス)から、アスラン家が住むアメリカ西部のロッキー山脈付近にあるPacifica(パシフィカ)までは、わずか5.5時間で到着する。飛行機よりも速く、通常の電車では考えられない時間で移動が可能だ。ただし、このシステムにはまだいくつかの問題がある。

その一つが、スピードが速すぎて急には止まれない点だ。そのため、ヴェロシティ・エクスプレスは山のほぼ頂上から出発する。頂上から下に落下することで加速し、減速する際は頂上に向かって再び登ることで速度を調整しているそうだ。

1か月間で得た知識はまだ限られているが、このハイパーループ技術には大いに興味がある。

《いつかは乗ってみたいな》とは思っているが実際乗れるのは、いつになることやら・・・


パピーの夏休みもあと1週間になってしまった。いない間は、寂しくなるけど朝と夜は一緒に過ごすことができるから、昼間は、私の天下だよ。自由に探索させてもらいます・・・ニヤリ。







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