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500年の時を越えて  作者: 胡蝶 蘭
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1.生まれ変わるまで

2025年5月7日、私、久守唯子(ひさもりゆいこ)は、娘、陽菜(ひな)から初めて誘われた。

明後日の誕生日が来たら、55歳になる。

結構、頑張って来たなぁ〜

なんだかんだと人生色々あったけど、その時その時でなんとか乗り越えてきた。

陽菜も28歳になるし、そろそろ素敵な人ができたのかもしれないなぁ〜と思っていたら、陽菜が・・・

「最近、仕事忙しいでしょ?少し休んでリフレッシュしないとね」

「そうね、最近はちょっとバタバタしてたかも。陽菜も大変じゃない?」

「うん、まあ少し。でも、たまには美味しいもの食べて、息抜きしたいなと思って」

「それはいいね。どこか行きたい場所でもあるの?」

「実は、明日東京でご飯でもどうかなって思って。たまには私がご馳走するから、一緒に美味しいもの食べに行こうよ。」

「え、突然どうしたの?でも、嬉しい!本当にいいの?」

「もちろん!」

「うん、楽しみにしてる」

「じゃあ、明日ね」と言って陽菜は自分の部屋に入っていった。

明日が楽しみで仕方がなかった私は、ワクワクしながら眠りについた。


唯子は、シングルマザーだ。陽菜が3歳の頃、陽菜の父親は、白血病で亡くなってしまった。

すごく悲しかったけど、必死に陽菜を育て、介護施設で看護師として働いている。

今でこそ病院などに保育園がついている所や施設は珍しくはないが唯子が働き始めた頃はほとんどなく、この仕事は、嫌なこともあるけれど、自分には向いていると思い続けて、頑張ってきたのだ。

今思うと陽菜を育てることができて本当に良かった。

いつもお手伝いをしてくれたし、とてもいい子に育ってくれた。

唯子は、再婚を考えないこともなかったが今思えば、二人で生きるのが精一杯でそんな余裕もなかったように思う。


翌日、私たちは東京駅近くの高級ホテルの前に立っていた。

そこには、黒いスーツの真面目そうな男性が立っていて、会釈してきた。

陽菜は少し赤面して俯いている。

会釈を返すと陽菜の隣へやって来た。

陽菜を見ると恥ずかしそうに顔を火照らせうつむき加減である。

年齢的には、結婚してもおかしくない歳だから付き合ってる人がいても不思議ではない。

新川隼斗(しんかわはやと)さんです。今付き合っている人です。新川さん、母です。」

「はじめまして、新川です。陽菜さんと今、お付き合いさせて頂いてます。陽菜さんから明日がお母様の誕生日とお聞きして、お祝いも兼ねて紹介していただきたいと私から頼みました。」

新川さんは、深々と頭を下げた。

「こんなところでお話しするのもなんですし、せっかくなので中で食事しながらお話しませんか?」と言った。

新川さんは、ハッとした顔をして

「すみません」とまた、大きな声で答え、頭を下げる。

唯子は、苦笑いをしながら

「行きましょうか!」と促すと

「はい」と元気よく答えた。

悪い人ではなさそうで、少し安心した。

それから私たちは、ホテルの中に入って行った。

食事をしながら、新川さんは将来の二人の展望などを話してくれた。

「誕生日を祝ってくれてありがとうね」と少し寂しい気持ちを抑えながら、笑顔で伝え、レストランを後にした。


突然、「キャー!」という悲鳴が聞こえてきた。

ホテルを出た直後、唯子は周囲の様子に目を向けた。

夕方の東京駅はいつものように混雑していたが、その日だけは、何か不穏な空気が漂っているように感じられた。

ざわめく人々の声が、いつもより低く響く。

遠くから聞こえるサイレンの音が、やけに近くに感じられる。

「なんだかわからないけど、ここから離れよう!」

と叫びながら、遠くの方から黒い服の男がこちらに向かってゆっくりと不気味な足取りで近づいてくるのが見えた。

男の顔は無表情で、ただ一点を見据えている。

その手には、鈍く光るナイフがしっかりと握られている。

殺意が彼の周囲に漂っているようで、私は息を飲んだ。

「二人共、早く逃げなさい」

と急かすよう二人の背中を押した。

新川さんは、唯子に決意を込めた一瞥を送り、陽菜の手をしっかりと握ると彼女を引き連れて人混みの中をへと駆け込んでいった。

陽菜の私を大声で叫んでいる声が聞こえた気がしたが彼らが必死に逃げ、背中が次第に遠くなり見えなくなった。

《私も逃げなくちゃ》

二人が逃げた後を確認し、安堵していると突然、背中に鋭い痛みが走り、冷たい刃が肌を切り裂く感覚が全身に伝わった。

振り向こうとした瞬間、再び鋭い痛みが襲い、視界が暗転していく中、黒服の男が口元を歪めながら、さらにもう一度ナイフを突き立てた。

《陽菜は無事に逃げられたわよね!!大丈夫だよね!!》と思いながら、意識が遠のいていった。

先程の黒い服の男が捕まったことを祈るばかりであった。


♢♢♢


いつからだろうか?

意識が遠のいてから、どのくらいの時間が経っただろう?

自分の意識は、はっきりしているが体が思うように動かない。

ここはどこだろう?なぜ、ここにいるのかわからないが、周りの景色は、見えているようだ。

薄暗いが闇ではないどこか・・・

星のない夜のような所だ。

ただただ、漂っている感じだ。

時間の感覚も体の感覚もない。

心穏やかだったはすが突然、襲ってくる刺された瞬間の記憶と

知らない男のニヤけた顔。息が止まるほどの恐怖と激痛を思い出す・・・

《私は死んだのだろうか?》

死んでないなら、なに?病院にいるが意識が戻らない・・・とか・・・もしかして夢?

死んだのだとしたら、私はもう少し生きたかったけどなぁ〜。

生きていてもきっと大怪我だろうけど・・・

陽菜の結婚式を見ることができたら、孫の顔を見られたら、そんな未来を夢見ていたが・・・ダメ・・・かも知れない。

何度も刺されたように思う。

今の意識はあるが、身体は・・・動かない。

どれだけ強く願っても、どっちにしろもう過去には、戻ることはできない。

心の中にぽっかりと穴が開いたような虚しさが、次第に広がっていくのを感じる。

けれど、その一方で、穏やかにこの現実を受け入れようとする自分がいるのも感じていた。


しばらくすると気持ちが落ち着き、心穏やかになっていく。

恐怖の瞬間が繰り返されるたび、時間が経っている事を感じられた。

忘れたい記憶のはずなのに、忘れられないほどの強烈な記憶をなぜ思い出すのか?

死んだのなら、何もかも忘れて生まれ変わればいいのに・・・

前世を忘れないために必要なのだろうか?

この記憶がずっと脳裏に刻みつけられている。

この空間で、穏やかな時間が続くと前世を忘れてしまうのか?

だから、生まれ変わるときは、前世で穏やかに過ごした人たちは、前世を忘れてしまうのかもしれない。

そんなことを考えたり、ただぼんやりしたり、だんだんと時間の感覚が失われていく。

どのくらい経っただろうか?

ぼーっと、ずっとず〜っと遠〜くの方を見つめているとほんの少~しだけ、回りとは色の異なる点のようなものが見えた気がした。

その方向をずっと見つめていると、先ほどより極々少~しづつだが明るくなってきたような気がする。

するとなんだかその光から、陽だまりにいるような暖かさ、ぽかぽかと心地よい空気が溢れてくるような気がして、ずっと見つめていた。

その心地よさに触れながら唯子は考えるのをやめ、だだ一点を見つめることにした。

点は徐々に明るさがまし、大きさも段々と大きくなり視界いっぱいが目を開けられない位になると唯子の意識はとうとう唯子のものではなくなった。
















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