ダンジョン調査 其の一
ダンジョンが世界に発生してから一年が経った、最初は本当に収拾がつかないくらい騒がれていたけれど話題が多すぎたせいなのかそれぞれの話題が深堀されることは少なくて想定よりも早く世界は表面上の平静を取り戻した。
でも未だにステータスとジョブの特性を悪用した悪質な事件やダンジョンに侵入した人間の失踪、ステータスを手に入れたテロリストの勢力拡大など平和とは冗談でも言えないような有様ではあるけどそれでも日本は比較的ダンジョン問題と呼ばれるダンジョン関連の事件が少なかった、これは国民性とも自衛隊がダンジョンの多くを早々に封鎖したからだとか言われてた。
一時期日本でダンジョンは封鎖しないものとするべきだという人たちが現れたけど政府は安全が確保されるまでは封鎖を解くつもりはないとして封鎖を続行している、だがそれもすぐに解くことになるだろう、何故かと言われるとダンジョンの封鎖を長く続けるわけにはいかない理由があるからでダンジョンは魔物を倒さずに放置されると溢れて大変なことになるという情報が異世界人から流れてきたからだ。
当然本当とは限らないけれど試してみるわけにもいかない、そこで日本政府は自衛隊にダンジョンの調査を託した、情勢に不安はあるけれど自衛隊しか動かせる駒がないから仕方がない、そして私は今東京で五十人の自衛隊員と調査のためダンジョンに潜ろうとしていた、ダンジョンの前に設営されたテントの中で自衛隊の緑の隊服に身を包んだ隊員たちが地図を大きな机に拡げ話し合っていて私は部隊の隊長としてミーティングを進めていく。
「……各階層についてはこの通りです、前回の集団探索任務では第十階層まで踏破されていますがそれ以上に進むのが難しかったため撤退となりました今回は補給を含み行軍限界を引き延ばすことで十五階層までの到達を目標とします、これで概要に関しては簡単に話しました、各魔物の特徴については資料を熟読の上わからないことがあれば質問をしてください、では0900までに準備を整えてから外に集合とします、解散!」
私は指示棒を机の上に置いて私が指揮する小隊の四人を連れて隊長用のテントに入った、成幸と遥斗に新人の田上栞さんだ、珍しい女性の部隊員ということで同僚は沸き立っていたが彼女の銃の腕を見てからは別の意味で注目を集めることになった、彼女は射撃が非常に下手だったのだ、もちろん最低限の基準はクリアしているのだけれど中遠距離の狙撃の適性が低く本来であれば隊員に抜擢されることはない程度の能力だけど近距離戦や室内戦闘の技術はピカイチでダンジョン攻略には適切だと上官から推薦されたため部隊に編入した、五階層までの順応訓練は高い数値でクリアしていたから問題はないだろうけどそれでも心配はぬぐえない。
「みんなに渡しておくものがあるわ」
机の下に置かれていたアタッシュケースを机の上に置いて開いて見せる、これは特殊な支給品だ。
「対魔物用弾薬よ、田上さんは散弾銃、成幸と遥斗は自動小銃、私はけん銃ね熊本方面のダンジョンから回収された魔法金属を弾頭にしたものみたいで命が危険な場合にはこれを使うことを許可します」
田上さんは自分の分の弾薬を手にしてゲージの梱包や弾の先端を見てから言った
「紫色ですか、これはどの程度の効果が見込めるんですか?」
「魔物に当たった際に魔素を多く四散させる効果があるとされてるわね、魔物を倒すには急所を狙うか多くの攻撃を与えて内包する魔素を四散させて倒す、まあHPを削るようにして倒すの二通りがあるわけだけどこれはその二通りの使い道が期待できるみたい、でも急所を狙った方がいいには違いないからできるだけ急所を狙うことを意識して」
「これ使えんのか? 弾も少なすぎるぞ」
「散弾銃は十発とスラグが十発の合計二十、自動小銃は一人当たり乙型対魔弾がニマガジンで計五十発、あとホローポイントの甲型対魔弾が一マガジンね」
成幸は甲型の方の弾倉から弾を取り出して真ん中に空洞が空けられた衝撃力に優れる弾を手の中で転がした後弾倉に戻した、それを見ていた遥斗が装備を確認しながら怪訝な顔をして言ってきた
「まあ有効だとは思うけど致命傷を与えるなら当然乙型の方がよさそうだね」
「そもそも貫通力の欠ける弾丸で強い魔物の皮膚を抜けるかも疑問だしな」
「ストッピングパワーがあれば隙は生まれると思いますし命を繋ぐという目的には適していると思います」
「まあそうか、田上は意外と賢いな」
「それはまあ、じゃないと部隊に入れませんから」
「よし、じゃあ解散していいわ各自準備をお願いね」
「おう」
「じゃあ新人にわからないところがないかちょっと回ってくるよ」
「あ、着いていきます!」
「いいよ、じゃあこの資料をもって着いてきて」
三人が出ていくとテントは途端に広くなったように感じる、準備の時間とは言ったけどその実ただの休憩時間、あと四十分はあるし暇ね。
それから少しの間資料を読んで暇をつぶしていると田上さんがテントの外から声をかけてきた
「群青隊長、全員揃いました」
「わかったわ、ありがとう」
リュックと長銃身のけん銃とマチェットを腰に提げて私は外に出た、そこには既に二十人の隊員が揃っていて私の号令を待ってるようだった。
「加藤副隊長、点呼は」
加藤という名前のこの部隊の副隊長であまり特徴のない男に聞くと加藤は声を張って答えた
「は! 第二から第七まで全員揃っております、第一は部隊長を除き集合を完了しております」
「よろしい、では大田第一ダンジョンの攻略を開始する、三階層までは第三が先頭、三からは第四が先頭、それ以降は第一が先頭で敵により交戦する班を指示する、基本的に第二が最後尾、物資は五から七の部隊が運搬するように、いいか」
「「了解!」」
それから私たちはダンジョンに入っていく通路はそれほど広くないためそれなりに距離を取ることになる、今回の任務はダンジョンの制圧任務のため科学者などは同行していないがしたときは大変だった一応体力のあるものに限定して連れて行ったものの流石にゴブリンにダメージを与えないよう回復しながら解剖の真似事をしたりは見るのが嫌になった、麻酔を打ったから人道には反していないと取り繕ってはいたがしていないケースもあったのを私は知っている。
「総員ARリンクをアクティブにここには衛星もネットもないモードはローカルだ」
全員がヘルメットのバイザーを下げたりゴーグルを装着する、ただ私の部隊だけはコンタクトタイプだからゴーグルやらバイザーはない、ARリンクを起動すると視界の右上に地図と部隊の位置が反映される。
これは最近実用化されたAR機器で衛星やセンサー類などから情報を取得して兵科同士の連携を助けたり個々の力を高めてくれる、ダンジョンは衛星がないから情報量がかなり少なくなるけど味方の射線や敵の位置がマップで分かるようになるのは大きい。
視界が一瞬だけ薄く緑色に包まれた後視界の右上に仮想の立体マップ、立体マップには味方を示す青い三角が示されていてマップの枠の右上にARリンクの接続数が表示されている、今は50と表示されているから全員が接続を完了したことがわかる。 少しモードを変えて右後ろで銃を手にしている隊員を見ると残弾数すら知ることが出来た、情報の処理量に不安があったけどこれならなんとかなりそうだ。
道を進んでいくとゴブリンが出てきたが特筆することはない、せいぜい群れで出てきたら少し警戒する必要があるくらいだろう、先頭の新人でも首尾よく倒せている、まあ力はせいぜい成人男性程度だし体術も作戦の類も立ててこないのだから現役の自衛隊員が苦戦するわけもない。
でも二階層からは少し違う、二階層からはゴブリンの他にも石で出来た人型のゴーレムがでてくるようになっていてこれがまた厄介に尽きる何が厄介かというとたまに武器を持ったタイプが出ることで、身体は硬く力もある、更に攻撃の際は振り下ろしてくるからこれまた速いのが問題になっている、動きは単調なので落ち着いてさえいれば避けられるけど初めてゴーレムと戦ったり委縮するようなタイプの人間だと身体が硬直してしまって避けられなかったりもする、そして避けられなかったら漏れなく致命傷だ、前にこれで隊員が死んでしまったのだから笑えない。
「これから二階層に突入になる、順応訓練は終えているはずだけど油断はせずに進むぞ」
二階層に入ると少し道幅が広くなった、これなら大分動きやすい、マップを見ると隊員が少し隊列を変更して広めに展開しているのがわかりそのまましばらく進んでいると通路の奥から地面を揺らすような足音が聞こえてきた。
「ゴーレムです、第三が打撃系の武器で仕留めます第二は後方を警戒」
武器には大きく分けて三種の攻撃方法がある、斬、打、突だ、ゴーレムには打がよく効くし他の武器で攻撃したら武器が壊れかねない、そのため部隊によって別の獲物を持つことを定めていて第三がハンマーやこん棒のような形状の武器を使う、第四は盾に短槍と銃で第二はマチェットと自動小銃やロングソードを使ったりしている、第一は成幸が盾と短槍、遥斗がダンジョンから見つかった杖で魔力伝導性が高いらしいあとかなり頑丈だ、田上さんはナックルだ特殊な職業で拳闘士らしい、腕には特注のガントレットを付けていて更にその上からメリケンサックを付けて攻撃の属性を打と突で切り変えれるようにしている。
ゴーレムはその質量を示すように重たい動きでこちらまで迫ってきた、第三部隊の二人が前に出て後衛の二人がいつでもカバーできるように集中している。
このゴーレムは素手のようで一人が攻撃を誘うように近づいていきゴーレムが拳を振り下ろしたらもう一人が闘気を発動してハンマーを勢いよくゴーレムの頭に叩きつけた、だがそれでは止めには至らず振り払うように横に腕を振るうゴーレムを今度は囮になっていた隊員がハンマーで頭を砕いた。
「前方敵影なし」
「後方敵影なし」
「よろしい、では進みます」
それからも順調に進んでいくと三階層の階段にたどり着いた、真っすぐ進んだので二時間程度しかかかっていない。
「予定通りの時刻ですこのまま五階層まで進みましょう」
三階層の敵はオークの群れになる正直ここからがこのダンジョンの本番でこのオークは前衛、後衛に分かれてしっかりと連携を取ってくる、今のところ二つのタイプが観測されていて前衛は剣と盾を持ったオークソルジャー、専ら豚戦士と呼ばれるもので後衛に変化が生まれる、後衛は魔法使いか弓使いの二択で三体の編成になっている、魔法使いは火、水、風、土の中から1つの属性だけを使って攻撃してくる弓使いは矢に麻痺毒などを仕込んでいるからこちらも油断できない、矢や魔法撃ってくる方向がわかりやすいため平時ならなんとか避けられるが豚戦士と交戦している最中に横やりを入れられると避けるのは途端に難しくなってしまう、そのため最初に豚狩人を倒したいのだが戦士が通路をしっかりとカバーしているからそれも難しい、なので後衛は銃で倒すのがセオリーとなっているがこの先更に奥に潜ることを考えるとあまり銃の弾を使いすぎるのも考え物で最近は他の方法が試されている。
「豚の後衛は自動小銃の一点射で頭を狙って効率よく倒すように頭なら二発、胴体でも十発程度で倒せるはずです、補給は限られているため残弾には注意」
しばらく進んでいると豚部隊と接敵した、見た目は豚の頭に筋骨隆々な肉体というアンバランスな感じで気持ち悪さを覚える。
第四部隊は後衛が銃で支援しつつ先頭の短槍と盾を持った隊員が牽制しながらダメージを与えていく安定感のある部隊になっている、瞬間火力こそ第二に劣るものの前線の維持能力に優れている。
今回の後衛は豚狩人らしく第三の後衛が銃を構えて頭に一発いれそのまま倒れないことを確認するとすぐに二発目を撃った、今回は両方とも上手く当たったようであとは前衛が槍で豚戦士を倒すだけだ、豚戦士は力が強くりんごさえ簡単に握りつぶせるであろうと思えるほどの力がある、力もあり速く頑丈な皮膚はけん銃の弾くらいではものともしない弾は埋まるが奥までは進んでいかないのだ。
だが武技と呼ばれる特殊な技を使うことはないためステータスを得た隊員なら相手取ることができる、隊員は決めにかかるようで盾の武技であるシールドバッシュで豚戦士たちを押し出し隙を作ると槍の武技である強突きで一匹の頭と胸を貫いたそのあとはすぐに槍を引き戻し受けと攻撃役に分かれて魔力を使わずに倒した。
「いい調子だけど敵の後衛を倒したら一人は槍で前衛の援護をするようにそうすれば武技で倒す必要もなくなるはずです、訓練時の成績は優秀だったと聞いています訓練を思い出して交戦するように」
第三部隊は返事を私に返してから前衛と後衛を交代して体力のコントロールをしながら第三層を無事に突破した。
多人数戦闘って書くのむずいことがわかりました。
あとこういうときって隊長って呼ぶのか階級で呼ぶのかわからない、階級な気がしますがなんというか深く突っ込むのはやめておきます。
あとそうだ、活動報告出してるので暇なときにでも見に来てみてくださいね。
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