仙台ダンジョン攻略『其の一』
ダンジョン行きますとも、まあ多分この探索が終わったら当分地上パートなわけなんですが、仕方ないことだと思います、思っといてください。
一部修正済み。
宮城県の仙台に出現した仙台ダンジョンなりと言われるダンジョンはその土地柄とダンジョンに出てくる武士のような魔物と合わさって伊達政宗と大きなつながりがあるのではないかと噂されている、確かこのダンジョンは魔物が強いから第三階層程度までしか探索されていないはずだ、出てくる魔物の種類は主に弓兵、槍兵、鉄砲兵でありこれが厄介なのだ、まず一体一体がゴブリンなどよりよっぽど強くアスリート並みの動きのしなやかさと5.56mm弾の一発を100の威力とした場合で胴体を何発撃てば死ぬのかの検証では個体差はあるものの最低でも15発は耐え20発耐えるものもいたという、頭であれば5発程度で済むけどそれが一回の戦闘辺り20体は必ず出てくる、しかも魔物の群れの数もそれなりに多く接敵をできる限り避けても五回は接敵するだろうと報告書にはあった、つまるところ15×20×5の弾薬を一階層だけで消費するのだそれは1500発にも及ぶことになる、であれば近接戦で対応するべきだと声が上がるかもしれないがそれもできなかった、弓の攻撃は速いがまあ避けれないこともないし盾で受けれないという事もない、銃も魔物の謎パワー恐らくステータスの補正なり魔力なりで強化はされているものの火縄銃なので避けるのは難しくとも盾で受け止めれないこともない、当然無傷とはいかないが、では何故それを行わないかというと自衛隊のダンジョン攻略のマニュアルにその原因はあった。
ダンジョンを攻略する際、遠距離から有効な攻撃を行う標的がいた場合、射撃でこれを制圧すること、というようなマニュアルがあるのだ、そしてこれを無視して独断で攻略を行い損害を出すと評価に響くし下手したら処罰されてしまうだろう、つまり組織として欠陥があるから攻略が出来ていないというのが答えなのだが未だにマニュアルは変わっていない、なのでこのダンジョンは後回しにされており私たちがそれを攻略するお鉢が回ってきたのだ。
「お前たち準備はいいか!」
「「イエッサー」」
ウィンが軍人が着るようなしっかりとした生地の服の上から防弾ベストにリュックを背負ってみんなに声をかけ全員がそれに返事をする、集まったのは全部で31人と公安の二人、技術者は4人に増えて荷運び用のキャリードッグを連れている、亀はまだ借りれていない。
技術者も当然のようにダンジョンの攻略にはついていくことになっている。
今回の予定は三泊四日で5階層まで潜る予定だ、ただ初回なので初日から帰ることになるかもしれないとは聞いている。
全員の調子を確かめるようにウィンは一人一人に声をかけて回る、世間話も合わせて全員の士気を健全に保つのは実際簡単なことではない、私も私の準備をしながら横から話の内容を聞いたりしたけど適当な話題のようでいてその人が興味を持つこと、かといって気分が高まりすぎない絶妙な話題を選んでいるのだ、人はこういう心地の良い会話をされると心が落ち着く、わかっていても早々できることではないけれど。
31人の部隊はウィンの指揮分隊をトップにして五個の分隊からなる。 指揮分隊はウィン、ヤン、リザ、私、セレドニオで構成されていて、ウィンのジョブは指揮官、ヤンはチップエンジニア、リザは魔眼使い、セレドニオは精霊使い。
セレドニオはスペインに住んでいる黒人でスペインでの仕事の時に現地の協力者として紹介されてそれからの付き合いだ、指揮分隊が魔物に攻撃されたとき私と一緒に魔物を討伐するのが役目で要は護衛だ、ウィンの指揮官は全員に速やかに指示を伝えたり支援魔術も扱える、ヤンのチップエンジニアは無機物を対象とした支援魔法のようなもので効果時間もかなり長いため全員の武器やキャリードッグの強化などを担当する。リザは魔眼使いで精神干渉系の魔眼と低位の透視の魔眼を扱える。
その下に続くのは第一から第六までの分隊だ、基本的にコミュニケーションがとりやすいメンバーで組まれており第一はウィンの連れてきたマッチョが五人、第二はヨーロッパ系統の近接戦闘を得意とする人間が四人とそれを指揮するPMCのマッチョ、第三は成幸と遥斗と田上さんに公安の二人で五人、第四がマッチョの魔法使い達四人で第五はそれ以外の国籍の魔術で攻撃を担当する人間を集めた部隊で合計四人、第六は支援系二人と職人系が三人だ。
そう田上さんがいる、轟さんが田上さんが自ら希望しているので連れていって欲しいと言われたので連れることになったのだけど最近折りが悪くて少し苦手だ、田上さんは私が仕事に私情を挟みすぎていると遠回しに言ってくる、そして私はなんとか誤魔化してそれを切り抜けているわけだから悪いのは私なのだけどだからこそ一層やりにくい。
「群青さん、今日は正式な公務ではありません、だから私から言う事でもないのですが自分を大切にしてくださいね」
「ありがとう、田上さんも気を付けてね、私は安全なところにいて申し訳ないけど」
そう、実は自衛隊としての仕事ではないのだ、でも丸っきりプライベートというわけでもなく公的には私たちはダンジョン攻略で負傷したため治療中という事になっている、それもかなりの重傷で数か月は復帰できないという事になっているため当分は羽を伸ばして動き回ることが出来る。
荷物は緊急時の携帯食料、職人が作ってくれた切り傷くらいなら簡単にくっつく塗り薬に魔力回復薬液、サバイバル用のマチェットは腰に今回はいつものARデバイスこそないもののヘルメット型のARデバイスならある、バイザーを降ろして使うタイプのもので最新型ではないので性能は落ちるけど電波干渉もジャミングも気にしなくていいからそこまでの性能差は感じない、距離もそれぞれがそれほど離れるわけでもないので本体側の処理がそこまで忙しくないのも理由だろう。
着々と準備は進められていく、荷物の再点検を終了すると私は成幸と遥斗に話しかけた、別々の分隊になるし暇そうにしていたからだ。
「上手くいくかしら」
「わかんねえけどまあ、やるしかねえしな」
「こっちは指揮官じゃないから楽なもんだけどね、結和は大丈夫? あの人たち優しいけど厳しいでしょ」
「あーうん特にセレドニオがね、ヤンはジョブの研究を一緒にやったこともあって仲良くなれたんだけどセレドニオは仕事には厳しいじゃん、訓練も相当しごかれたからちょっと苦手」
「セレドニオは本当に強いからな、隊長と素手でタメ張れてたって聞いたぞ」
「俺たち三人でもギリギリだったのにすごいよねほんと……でもこれでよかったのかな正直に言うと三人だけで隊長を探したかった」
「まあそれはそうなんだけどね」
私もできるなら三人だけで探したかった、だってこれは任務じゃないから試練のようなものだから、だからこそ私達だけで達成を目指すべきだったのだと思う。
「私達だけじゃないしね、隊長とまた会いたいのは」
「そらそうだ」
割り込むようにリザがイタリア語で話しかけてくる、多分軽く話を聞いていたのだろう。
「ちょっとあなたたち、何話してんのよ」
「リザ……」
少し申し訳なくて言葉を失っているとリザは私をなでるように手のひらを頭の上にのせてきた。
「何話してるのか知らないけどね、余計なこと考えてると余裕なくなっちゃうでしょうが、あれからもう何年も経ってるのに変わんないわね、そんなんじゃ成幸に先越されちゃうわよ」
「別に競ってないわよ、あとセットが崩れるから頭触んないで」
ちょっと強めに腕を握って頭から離すとリザは今度は左手で胸を触ってきた。
「ちょっ!!」
勢いよく手を弾くとリザはさっきと同じように今の私にはまぶしい自信一杯の笑みを浮かべて私に告げる。
「そんくらいの顔のがいいに決まってるでしょ、指揮分隊に入ったからには体面くらいは完璧にしなさい」
「それはわかったけど胸触る必要なかったでしょ」
「言葉でわかるほど頭がいい子なら私はここにいなかったと思うけどね、まあそれはそれとして集合よ、結和だけこっちにきて」
そうかもう時間になったのか、私は大人しくリザに着いていきながらふと思う、なんでリザはこんなに現場慣れしているのだろう、確かモデルだったはずなのに。
「今頃気づいたの? ほんと鈍いのね」
そして勘も異常に鋭い、多分私が考えるような仕草をして自分が見られたからだろう、だとしてもよく気づけたものだと思うし普通は答えにまではたどり着かないと思うけど。
「私はモデルよ、でもあくまで副業、本業はまあ内緒ね別に教えて何があるってわけでもないし」
「気にしてるなんて言ってないでしょ」
「わかりやすすぎんのよ」
この人にはあまり敵う気がしない、だってこんなに綺麗だしそれとは別に輝いている。
「珍しいわね、あんたがそこまで引きずるとか、色々と聞いてあげてもいいんだけどもう時間もないしね、あとで話しましょ」
もう着いたのかと少しだけ驚くとウィンが目の前で立ち台の横で全員に集合をかけて待っていた。
「結和遅いよ、僕らは軍隊じゃないけどだからこそ時間くらいは守らないとね」
時計を確認してみると集合の五分ほど前の時間だ。
「あと五分あるからセーフよ」
「リザにお礼を言ったほうがいいと思うけどね」
「……ありがとねリザ」
「別にいいわよ、苦労したわけじゃないしね」
全員が集まった、全員とはいっても30人程度だから学生で言うと一つの教室分程度しかないけれど彼らが足元に置いている荷物と技術者が様子を見て調整しているキャリードッグたちを見ればそんな軽い集団ではないと簡単にわかる、多分このメンバーならあのダンジョンも簡単に奥に進めたに違いない、あのダンジョンでは私が最高戦力だった、でもこのメンバーだと個人の戦闘力で比較すると中の上程度の実力しかないだろう、それだけの実力を持ったプロたちなのだ。
ウィンが立ち台に乗って砲声と間違えるほどに発破のかかった声を出す。
「いくぞお前たち! 未探索の初ダンジョンで一攫千金だ!」
お金はいらない、でも全員がそうではない少なくともウィンが連れてきた10人はそうでないだろうし、でもまあちょっとわくわくしてしまう。
仙台、戦国時代となれば奥州の独眼竜伊達政宗でしょう。
しかし私は伊達政宗と聞きますと六刀流(六爪流だったかも?)の英語で技名を叫ぶ人を浮かべるわけですね多分外国と何らかの繋がりがあるからだと思うんですが私は歴史を知らないのでよくわからんのです、ただまあ普通に面白かったです。