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万幾ら重ねて届かずとも。  作者: ナノマシン
第一章 Beginning of World impact
12/22

シグレ

 時雨隊長というと元は私たちの上司だった人間だ、あの人は私たちの親みたいなものだったから今でも強く心に残っている、ただあの人は私たちと任務に出た時に死んだはずで私たちはそれを確かに覚えている。

「隊長は独り身だったと聞いていたので驚きました、しかしそれにしても若すぎませんか?」


 私が指摘するとミラ・シグレは慣れたことのように答える。

「ん? ああ私はこんな見た目だがね実際にはもう四十などとうに超えているババアなんだよ、私は時に置いて行かれているのさ」


 いやまあ確かに成長しない人というのは存在するけどそれだって老化は避けられないはず、冗談だとしても私からするとあまり心地のいい発言ではないし気になることもある。

「なるほど失礼しました、そういえばセキセイさんに母上と呼ばれていたようですがシグレさんは異世界人なのではないですか? 隊長は地球の人間なのですがどこで接点を?」


 問いかけるとミラ・シグレは笑みを深めて私に答えた、しかしこうしてみるとこの娘は綺麗な顔立ちをしている、鼻も高いしまつ毛も細くて長いし指もすごく細い、化粧もしてなさそうなのにシミ一つないし少し羨ましく映る。

「うんその質問も最もだろう、だがただで答えるわけにはいかんのだよ、こっちの条件も飲んでもらわなければ困る」


 興味を引きつけといて条件の提示か、熟れてるわね。

「条件ですか、どのようなものでしょう?」

「いやいや、そう警戒しなくてもいいただ私は夫の事をもっと知りたいだけなのだ、ソウイチのことを詳しく話してくれないか? あいつは自分から話すのをことさら嫌がったのでな聞けなかったのだ、だがまあなるべく全てを知っていたいのが女心というものだろう? 協力してはくれないだろうか」


 悔しいけどいい顔をしてる、よく動く表情が感情を表しているし嘘にも見えない、少し赤く成った頬が想いの証拠だろう、嘘とかじゃなく本当にこの人は隊長のことが好きなのかもしれない、ただ気になるのは隊長はロリコンではなかったはずということだけどそもそもあの人は私たちの前で性の話なんかしなかったしそういう性癖を隠していたのかもしれない、それに隊長の情報くらいなら安いものだ、この人が言ってるのは本当か嘘かわからないけれど。

「わかりました、それくらいでしたらお話しするのでシグレさんからも色々と聞かせてください、気になるところが山ほどもあるので」


 私の返事に満足したのか彼女は頷き返事を返した。

「ああ当然だとも、それより私のことはシグレではなくミラと呼んでくれて構わんよ、実のところそっちの方が慣れているのでな」

「わかりました、ミラさんですね」

「そうだ、いい娘を持ったなあいつも、素直なのはいいことだぞあいつは頑固だからな師弟で似ていなくてよかったぞ」

「娘ですか、私と隊長は家族ではありませんよ?」


 そう返すとミラさんは驚いたように目を丸くしてこう返してきた。

「そうなのか? いやなにあいつは地球に残してきた唯一の家族がお前たちというのでな勘違いをしていたようだ、だが家族というのは血ばかりではないぞ? 繋がりこそが大事なのだ」


 それはわかってる、だから私たちも心の底からあの人を尊敬しているのだ、横をちらりと見てみると成幸も遥斗も早く聞きたいと言わんばかりの顔をしていた、多分私も同じ顔をしていると思う。

「ではまずミラさんのお話から聞いても大丈夫でしょうか?」

「その方がいいだろうな、まずはソウイチがなぜ私と知り合っているのかから話すべきなのだろうがこの理由は私がソウイチに聞いただけのものでな本当かどうか確証はとれん、それでもいいだろうか?」

「構いません、隊長はなんと?」

「単純に死んだあと神に召還されてお前たちがいうところの異世界に飛ばされたと言っていたぞ、その理由がまた傑作でな私とソウイチはお互いに敵同士だったのだよ」

「敵というと戦争の話でしょうか? 隊長はむやみに火種をまくような存在ではなかったはずですし」


 隊長は決して戦争が好きじゃなかった、武道もすごかったけどそれさえあまり好きではない様子だったほどで傷つける力を特に嫌っていたのは今でも鮮明に覚えている。

「そこだ、ソウイチは神から異世界に飛ばされる際にあちらの世界の神と神の加護を受けている私たちを殺せと言われたらしい、要は神の使徒として我々を殺しに来たのだよ」


 正直意味が分からない、でも隊長がまだどこかで生きているのなら絶対に会わなきゃいけない、まだ別れには早すぎるのだ。

「神の使徒ですか……では今も隊長はその世界に?」

「いやもうあちらにはいない、だがダンジョンを攻略していけばそのうちに会えるかもしれんな」

「ミラさんはどこにいるのか知ってはいないんですか?」

「厳密にいうと知ってはいるが本人から口止めされているからな答えられんよ」


 この言いようだと会えないことはないようには思えるけど簡単に会えるわけでもなさそうね、どうにかして情報を引き出したいところだけど……。

 少し考えていると田上さんが目線をこちらに向けてきていることに気が付いた、瞬きの回数が少し多い、これは今という合図だけど今回の場合は目的を達成せよという意味合いが正しい、つまりは話が脱線していますよと伝えたいわけだ。

「わかりました、今後も色々と話したいことが出てくると思うのですがミラさんに連絡するにはどのようにすればいいのでしょうか」

「あと二年は私は日本でソウイチに縁のある土地や墓を巡ろうと思っているが当面はここを拠点にするつもりだからここまで来てくれればいい」

「セキセイさんはどうされるのですか?」

「私はこれから南極に行く予定です、それからは世界の国々を巡ることにしようかと考えていますね」

「答えたくなければいいのですがなぜ南極に?」

 

 聞いてみるとセキセイはミラさんに目配せをしてミラさんは小さく首を振って返した。

「すいません、あまり話すことはできませんね、私たちにも色々と事情があるものですから、ただ南極に向かうことは事実ですよ」

「では少し待っていただけませんか? どこにいても連絡が取りあえるように通信機器やパスポートなどの身分証を発行する時間が必要です」

「支援には感謝しますが必要ありません、南極はどの国の占有化にもないのでしょう?」

「わかりました、では何かあればいつでも頼ってくださいね日本国政府はあなた方を支援することを惜しまないと思いますから、しかしどのようにして南極に?」

「ああ私には高速の移動手段があるのでご心配には及びません、ありがとうございます」


 これはもう無理かな、あまり無理に聞くのはよくないしそれにミラさんが少しソワソワしている。

「話は終わったかね、私としてはあいつの話を聞かせてもらいたいものなのだが?」

「そうですね、セキセイさん色々とありがとうございました。」

「いえ感謝を伝えるべきなのは私の方です、ありがとうございました」


 セキセイは私と言葉を交わすと成幸たちにもお礼を言ってから部屋を出て行った。

「さあ話してもらおうか、楽しみだ」

「わかりました、ではそうですねまず普段の姿から話しましょうか」


 それから四時間時間ほど話しているとミラが何かに気づいたようで話を打ち切って立ち上がった。

「もう日の出じゃないか、すまないな今日はこれくらいで終わりにしよう、それとこれを渡しておこう」


 私たちに一つずつ渡されたのは神殿を作っているのと同じに見えるこぶしサイズの球形の水晶で中で何かが光っているようにも見えるのが違うところだろう。

「これはなんでしょう?」

「それには魔術が込められている、これは作るのが大変なのでな時間がかかってしまった、使ったらなくなってしまうが威力は保証するぞダンジョンで言うと50階層まで程の魔物ならほとんどを一撃で屠れるはずだ爆発系の魔術だから近くでは使わないようにな」

「ありがとうございます、どのようにして使えば?」

「それは特殊な素材でな使うことを念じながら魔力を込めれば光が強くなるからそれを投げつけろ接触して五秒で爆発するから気をつけるようにな、爆発の半径は半径5mほどだろうな」

「ありがとうございます、後日また伺ってもいいですか?」

「わかった一週間はここから離れないようにしよう」

「ではまた、みんな帰るわよ」


 部屋を後にすると肩に力が抜けたようだった、正直頭がパンクしそうだけれど心は晴れたようにさえ感じる、神殿を出るとARリンクが復旧してすぐに通信が入ってきた。

『本部よりアルファチーム聞こえるか?』


 公園を出ようと歩きながら夜通し起きていたのだろう阿紀に返事を返す。

「アルファチームリーダーより本部へ、感度は良好、会議室の準備をお願いします。」

「本部了解、とりあえず最寄りの基地に帰投してください」

「了解」


 公園を出て車に乗ると私は肩の力を抜いて大きく息を吐いた、流石に疲れが出てきたようだ、セキセイから母上と呼ばれるミラという存在と死んだはずの時雨隊長が生きているかもしれないということ、思考がストップしてしまいそうだ。

「何とかなったわね」


 息を吐きながら言葉をこぼすと田上さんが神妙な面持ちで私に聞いてくる。

「群青一尉、質問をいいでしょうか」


 まあ質問の内容はわかってる、どうせ時雨隊長のことだろう、田上さんはあの人のことを何も知らないのだ。

「時雨元隊長のこと?」

「はい、あのお話だけでも一尉達と元隊長は通常の距離感に収まっていないように感じられました、このまま任務を継続して問題ないのですか?」


 多分問題はある、情が移りすぎてしまっているし時雨隊長のためなら部隊を危険な目に遭わせてしまうかも知れない、でもこればっかりは譲れないしそんなつもりはないし二人も同じだろう。

「問題ないわ、私は任務を全うする、それに元隊長の事は驚いただけでもう気にしてないから」


 平気そうに返すと田上さんは納得していないような顔をしつつも追及はできないとばかりに目を一度閉じてから返事を返す。

「……そうですか、それなら私から言うことはなにもありません」

「心配をかけてごめんね」


 本当に申し訳がない、でもどうか許してほしい、あの人の死だけは私たちが背負うには重すぎるから。


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