槍の巫女
私たちは国立公園からそれなりに離れた地下駐車場に降ろされると車を乗り換えるよう指示された、轟さんとはここで離れることになり今後の連絡はイヤホンとコンタクトに表示される情報で行動していくことになる。
「一応防弾タイヤとガラスで堅められてるが期待はするなよ、魔力を相手にはできん」
「平和的に終わればいいんですがね」
私たちは轟さんと話しながら自動拳銃をポーチに隠したりと準備しながら会話する、対象はセキセイと詳細不明の少女で彼女のコードネームは白色に決まった。
「確保とは言わん、だが目的はハッキリさせろそれ次第では爆撃で吹き飛ばす準備も整っている」
「正気ですか? 自国を爆撃するなんて国民に説明が付きませんよ」
「魔物が出たとか言っとけばいいだろ、あんだけの規模の水晶を作り出せるやつなんだ、早急に対処しないとな」
公園に魔物が出現してそれに対処するため爆撃? まあ説明にはなるけど総理の首は飛ぶかな、まあ責任を取るための総理なんだし仕方ないところか国を守るために礎になってもらおう。
「では特別調査隊の健闘を祈る、オペレーターはいつも通りだが今日は四人だけだ慎重にな」
轟さんの見送りを受けて私たち四人は青色の普通自動車に乗り込んだ、運転は成幸で助手席に遥斗、後ろに私と田上さんだ。
駐車場を出ると田上さんは緊張が多少は解けたのか息を吐きだして呟いた。
「私も行くんですよね……」
「そうよ、うれしいでしょ?」
頭を撫でて言ってやると田上さんは困ったような顔を見せて言う。
「責任のある仕事を任せていただけたのはそうなんですけど、私に務まるのかそこが不安です」
「まあ今回は多少楽な任務だから気は楽にね、ダンジョンでの活躍だけを期待して隊に編入したわけじゃないから自信をもって」
なるべく穏やかに言ってあげると田上さんは少し表情を柔らかくした、そういえば田上さんが編入されてからまともな任務は初めてだった、自衛隊での経験もあるから大丈夫と思ってはいたけど実戦経験がほぼないとこんなものなのだろう。
「おい結和、そろそろ着くぞ」
「ありがと」
窓の外を見てみると、それなりに遠くからでも確実に大きいとわかるほどの巨大な水晶の柱が目に飛び込んでくる、これが倒すだけで相当な被害を作り出せる、それに神殿を爆撃したらこれも倒れることになりそうだしそうなったら死者がどれほど出ることか、柱の太さは直径5mくらいらしく衛星画像からではわかりにくかったけど水晶の柱は天にも昇るようでもしかしたら東京タワーほどもあるかもしれない。
国立公園付属の駐車場に車を停めると降りて少しみんなと喋ることにした、私たちの現在の状況と周辺情報をリンクさせるための時間が必要だからその時間稼ぎだけどそれはそれとして公園を外から見た感想とこれからの予定の確認も必要だ。
「まあ綺麗よね」
「仕事じゃなかったら騒いでるところだな」
「あの質量は何処から来たんだろうね、魔力だけであれを生み出せるとはとても思えないよ」
「確か氷魔法を使える人がいましたね、あの人はレベルが高かったと思いますがあの人が千人いてもこれは無理でしょう」
「これ中に入ったら殺されたりしないわよね?」
「いやあどうだろうな? セキセイは話が分かるやつに見えたがあのかわいいやつのことは知らんし」
「拒絶する気なら入口なんて作らないと思うよ、ほらあれ」
遥斗が指さしたのは国立公園の元々の入り口だった、駐車場からも簡単に見えるそこには水晶で綺麗なアーチが作られていて歓迎されてるかはともかくとして確かに拒絶しているようには見えなかった、歓迎されていようがいまいが入りたくもないけどやるしかない。
一応衛星とドローンからの情報でARリンクの補助も受けれているからこれなら壁越しにでも対象を狙えるし彼らの現在地をリアルタイムで知ることができる、セキセイと少女は例の神殿に入ったきりのようでどこにも姿はないらしい、国立公園の広さや詳細なルートをマップを見ながら確認していると私の部隊専属オペレーターである阿紀が話しかけてきた。
『αチームへ、ARリンクの連携が完了しました、監視ドローン3機のコントロールを移譲しました確認をしてください。』
阿紀が話した通り私の視界の片隅に監視ドローンのアイコンが三つ並んでいた、私は監視ドローンの情報伝達と操作の連携を確認すると阿紀に返事を返す。
「αチームリーダー了解、監視ドローン3機の接続を確認した」
『了解、αチームへ今回の目的は情報の収集にあります。 あの二人がどの程度の危険度なのか把握しきれない以上強硬手段は無しです、ご留意を。』
「αチーム了解」
『では健闘を祈ります、交信終了』
成幸の言う通りならセキセイには私たちでは勝てないだろうしそこに文句はない、いやまあ銃ならあっさり殺せるかもしれないけどけん銃しか持ってないからどうにも頼りない。
「進むわよ」
アーチを潜ると透き通った水晶、透明度のない青色の水晶、光の反射のせいか緑や紫にも見えるのもあればと様々な色の水晶が私たちを出迎えた、それに虫もいれば鳥もそれなりにいてこれといった問題があるようには見えない、だが採取をしようと水晶の木や植物のような形の水晶のサンプルを持ち帰ろうとするけど折れもしなければ砕けもしなかった、見た目の割には恐ろしく硬くて水晶のサンプルを手に入れることはできなかった。
「魔法剣なら砕けるかしら」
「できるかもしんねえけど流石に壊すのは無しだろ」
「……まあそうよね」
そうしていると地面を軽く掘っていた遥斗が立ち上がって無理だとばかりに首を振って言った
「植物の方は根が完全にどっかに繋がってるね、根っこごと取り出すってのも無理そうだ」
「まあそう上手くはいかないわよね、いいわ進みましょ」
そうして進んでいると神殿が見えてきた、神殿はギリシャ神殿のような様式だけど青い水晶が建材になっていて柱などはあえて凹凸を残した削り具合など美しく見せるための工夫が少し見ただけでもよくわかる、像の類はなくただ登るだけの階段が設けられていた、これだけ精巧に作れるなら簡単な銃もガワだけなら作れるかもしれない。
「どうする声かけるか?」
「そうだね、結和にやってもらってもいいかな?」
「まあ当然よね、田上さんは私の後ろで待機していて」
「了解」
神殿の階段の前まで歩いていくと私は内部にもしっかりと聞こえるように声を張り上げた。
「セキセイさん私です! 以前お会いした群青結和といいますがいらっしゃいますか!」
しばらくしても出てくる様子はない、聞こえてないのか誘っているのか、無視しているのかわからない。
「行くしかないんですかね……」
行くしかないのは間違いない、でも全員連れて行っていいものかは判断に迷うところね、流石にドローンを先行させるのはあまり賢いとは言えない。
「いくしかねえだろ、先頭は俺でいいな?」
「お願いね」
成幸が階段に足を掛けると私たちもそれに続いて進んでいくと不意に少女の声が聞こえてきた、
「ああやはりきていたではないかセキセイ、お前の客人だろう? これらは」
階段の上から姿を見せた少女は白色だった、白色の髪に深い色合いの黄色の眼が私たちを捉えて離さない、少女の服装はまた変わっていた、今度は白色を基調としたドレスでネックレスには星を閉じ込めたような海よりも青い宝石が嵌められていてドレスもところどころ色の違う水晶で彩られているのがわかる、そしてそのあとに続くように無表情のセキセイが姿を見せた。
「お待たせしてすみません、少し用事を片付けていたものでして」
「ん? セキセイ少し見ない間に言葉遣いまで変わったのか、熱心に日本語を教えてやったというのにな」
「母上は少し静かにしていてはいただけないでしょうか、あの言葉遣いは丁寧とは言い難いとのことだったので直したのですよ」
「かっこいいのにもったないことをするのだな、君たちはどう思う?」
聞きたいところが多すぎるけどとりあえず聞かれたことを処理して良好な関係を構築しないとダメだ、とりあえず上下関係は少女のほうが上そうだしそっちに合わせよう。
「今の言葉もいいと思いますが以前の口調もかっこよかったと思いますよ」
私の返しに少女は笑みを浮かべて頷きながら言った。
「そうだろう、私もそう思うのだ、結和と言ったか? 結和たちも中に来るといい実を言うと用があるのは私もなのだよ」
初対面で用事? いやでも名前は初めて知るようだし特定の条件を満たしていればどうでもいいのかもしれない、とりあえず話は聞いておかないと身動きが取れないしここは踏み込むべきところだ。
「ありがとうございます、こっちの男が「ああ自己紹介はいらんよセキセイから聞いているしなにより立ち話もつまらん」……わかりました改めてよろしくお願いします」
明らかに相手を敬うことのない態度だ、異世界では貴族だったのかもしれない、セキセイから聞いてるってことは当然自衛隊の隊員なのは知られてるだろうし普通は侮ることはないだろうなんせ軍人のようなものなのだし。
進んでいくミラとセキセイに私たちも続いて進んでいくと神殿に入った途端に電波が入らなくなったことに気が付いた、流石に情報処理装置は身には付けれなかったので暗視もARも全部が途切れてしまった、こうなることも想定してある程度訓練している私と成幸と遥斗は反応を出さずに済んだけど田上さんは緊張の連続のせいか一瞬だけ固まってしまった、そしてそれを気取られたのか少女はこちらを振り返ってきた。
「ああそういえばここは電波が届かないようになっている、まあ内部通信は使えるからそこは問題ないぞ」
田上さんはそんなに強く反応してなかった、なのに察知できる、スキルか監視されてるのかわからないけど得体が知れない。
少女の雑談に付き合いながら進んでいくとある一室に案内された、扉は普通の木製でシックな感じで高級感すらある、セキセイが扉を開けてくれ少女の後ろについていくと絨毯も棚も机もソファもある上等な応接室のような空間がそこには広がっていた、窓からは外の景色が見えるしこれはどういうことなのだろう、勧められるがままにソファに座ると少女はセキセイがどこからともなく入れてきた紅茶を飲んでカップを置いた、すると少女の表情はいつの間にか真剣なものになっていて私は思わず息をのんでしまう。
「そろそろ挨拶しておこうか、私はミラ・シグレという君たちの師匠のお嫁さんだよ、ソウイチという隊長がいただろう? 」
来週は投稿しません、今までの話を改稿します、話の流れ自体は変えず描写関係に深みを持たせる予定です。