私の第2の人生。
「ここは俺の守り場だと何度言えば……っ」
「隙を見せるほうが悪い」
一方は恵み豊かな森と草原が守り場の主。もう一方は高山と魔獣が蔓延る黒き森が守り場の主。
実り豊かな土地が手に入れば、そこに住まう者達が喜ぼう、そう考えて襲撃した。それも豊かな森と草原の主がいない内に。姑息な手段を用いると噂される黒き森の主は、噂に違わず草原の主のいない内に襲撃したが、取って返してきた草原の主に反撃を食らっていた。
「豊かな森と広い草原だ。何、我が良いように治めよう」
「……っだぁれが貴様なんぞにやるものかぁ!!!」
草原の主の渾身の一撃が黒い森の主の肩に当たり、ごぎぃっと変な音が鳴った。
「ぐぬっ……主のその適当攻撃にはいつも手を焼かされる」
「そのままその翼捥いでやろう!!」
返す勢いで同じ場所へ打ち込もうとするが、思い切り跳ねてそのまま空へと飛び上がる。肩への強打は防げたが、足を一本、文字通り木っ端微塵にされた。血が滴り落ち、肉片も落ちるが構わずに空へと舞う。両手はいつのまにか翼に変じているが、攻撃をもらったほうの翼は全く動かず、空に上がったはいいもののバランスをとるだけでやっとの状況だった。
「おい!!卑怯者!降りてこい!こてんぱにのしてやる!!」
黒き森の主は、手負いの状態では勝ち目はないと判断し草原の主の悪口を背に受けながら帰路へと着いた。果たしてこの怪我で守り場まで帰れるかどうか彼は不安ではあった。
***
気づけばそこは村っぽいところだった。
近くには森が迫り、村の中には川が流れており澄み切っている。
野生の動物の声が響き、家畜の鳴き声もそれに混じっている。
そしてこの村の人たちは他所者である私のことを遠くから見つめて、時々相談をしている。やるせない。申し訳ない。なんでこうなった。
そもそも99歳で子どもや孫達に囲まれて大往生したはずなのに、なぜこんなところに?昔よく見ていた小説にありがちな転生ものなのか、はたまたトラ転の派生系なのか、転移……にしては若返っている気がするから違うのか。神様の気まぐれ転生か。全くわからない。
眠るように死んだのにどうして。
そんなに善行したわけでもないのにどうして。
悪行ばかり重ねたのか。ちょっと人の悪口言ったり、素行の悪い人につんつんしたことはあったよ!?それも悪行!?
まあ、考えてもドツボにはまるからやめよう。
一先ず身を立てておまんまを食う術を見つけねば、すぐに飢え死にだ。
全くどうしてこうなった。叫んで頭抱えて嫌々喚き散らしたい!!でもそれしたらここでの生活は諦めなくてはいけない。後、恥ずかしくてできない!!私の理性と常識焼き切れて欲しい!!
………誰か近づいてきた。
言葉と文字わかるといいな。
***
「困ったね。よくわからないところから来たとは……」
「そうなんですよね。とても困ってます。……厚かましいとは思いますが、何か仕事があれば……」
「そうはいってもな……」
私に近づいてきた人はこの村の村長さんだった。名前はボブ。頭はバーコードっぽいけど見た目は村長さんだった。どこからきたのか聞かれたから、一か八かで日本から来たと正直に答えたら、やはり誰も知らなかったようだ。ここで仕事なければどこか街に行きたいけど、ここは辺境のさらに辺境で街までは馬車で一週間はかかるという。
「ここで仕事も特に無いしな……。何か特技、できることあるのか?」
「えー、病人の世話とかはできます……」
「うーーーーん」
でしょうともね!わかります!!前看護師なんかしてたから、そこら辺はお手の物だけどね。科学より魔法がありそうなこんなところでは、ちょっとよねぇ。でも言葉がわかるからいざとなれば、街に行って一先ず娼婦になるのも手だ。金がないと生活できないからね。病気怖いけど仕方ない!!でもまずはなんとか金を稼いで馬車で街に行きたい。ここにいると迷惑になりそう。身元もはっきりしないしね。
「父さん、怪我人の世話なら外れの小屋にいる………」
「あぁー!!母さん嫌がってたしな」
怪我人がいるのか。どんな怪我かな……。軽傷がいいな!重症は無理よ。無理!
「ココさんとやら、この村外れの小屋にある怪我人の世話を頼みたい」
「………はい」
そこからはとんとん拍子で話が進められていった。村長さんの奥さんには泣いて喜ばれた。不安が膨れ上がるんだけど!!僅かだけど給金と3食付き、寝床あり、その外れにある小屋で寝泊まりしろって。布団貸してくれるし大丈夫かな。しかも小屋に行く道すがら、村人からは声援を貰い励まされた。不安しかない。
村長さんの奥さんじゃないけど、泣きたくなったよ。皆煽んないで。
***
「………ここだ」
そこまで奥に入らなくてよかったー!道に迷いそうだし、怖いし助かった!意外に大きめの小屋ね。何部屋かあるのか……、怪我人が大きいのか……。前者でお願いします!
「……中に怪我人がいる。我々が世話をするように言われているが、何分恐ろしくて……、誰も世話をしたがらないのだ」
「恐ろしい方が怪我をしたのですね」
「……必要な物は揃っている。足りなければいつでも言ってくれ」
そして私の決心を待たずに、村長さんは小屋の扉を開けた。私の決心を待ってからだときっと日が暮れるからね。むしろ明日になるからね。さすが村長さん。人の逃げ道を断つ手段をよくご存知です。でもここで生活するためには仕方ない。
扉を開けると目の前には大きなシーツの塊が鎮座していた。
「……誰だ」
「ボブでございます。森の主様」
「……なんだ、珍しいこともあるな。お前が顔を出すとは」
「今日は貴方様専属の世話人を連れて参りました。ココと申す者でございます」
村長さん、背中をグイグイ押さないで?大丈夫だから
ね?ね?それ以上押さないでね!?
「………ココといいます。よろしくお願いします」
「女子か。……随分と剛毅な者だ」
シーツが動いた。何がでてくるのかな……。想像がつかないけど……。あ、鳥?あれ鳥、鷲?
「……鷲だ。大きい」
頭が白いから白頭大鷲かな。普通の白頭鷲かな。
それにしても随分大きな身体である。通常の白頭大鷲よりも何倍も大きい。むしろ私よりも大きい。
「ふむ。ココか……。其方怖くはないのか?」
「大きくて愕きましたが、あまり怖くはないですね?人の言葉話せるんですね?」
「村長。我のことは何も話してないのか」
「何も話してはおりません」
「ふむ」
白頭大鷲は少し考えこみ、シーツから全身を出した。
野生の白頭大鷲は見たことなかったけど、とても大きくて立派で美しい白頭大鷲で見惚れてしまった。むしろ眼福。あ、怪我って足が一本ないね。うん、なんか千切れた後だね。間違いないね。翼もなんかぼろぼろ、外れてない!?だから羽が床を擦ってるのね。あちゃー。私治せないよ?医者じゃないからね?世話しかできないよ?大丈夫?
「あの、私動物の世話をしたことないんですが……」
その瞬間、皆の顔色が真っ青になり村長は私の頭を押さえ込み謝罪をし始めた。
「も、もももも、申し訳ございません!!!主様にこのような無礼を……。この者は頭が少しおかしくて……」
白頭大鷲は頭を下にし身体が僅かに震えていた。というか、頭おかしいってどういうこと!?……確かにここの常識はわからないけどね!?
「おおおおお前!!主様を動物などと……!その高貴な御身と偉大なる力で我らの村を守ってくださっとるのに……」
村長さん、怒ってる……。頭の血管きれたら嫌だな。
「ぶはっはっはっはっは!!そうか、ココ。面白いな。私を動物と一緒にするとは……、ひー、あー腹が痛い」
「中身は違うと思うんですが、外見は白頭大鷲だし……」
「今は怪我しているが人型もとれるぞ」
「人間?」
「そうだ」
「普通のサイズ……?」
「あーっはっはっはっは!!は、普通のサイズとはなんだ!普通のサイズとは!!ココ、お前良いな。近うよれ」
なんだかわからないが、村長さんには怒られちゃったけど、白頭大鷲には怒られずに済んで良かった。
あ、臭い。血の匂いだ。
「怪我が治らなくてな。世話を頼む」
「はい。とりあえず触ってもいいですか?」
「良い。好きなだけ触ると良い」
村長さん、血圧あがって血管きれるよ?落ち着こう。興奮しても害しかないよ?ほら、抑肝散飲む?あ、ここにはなかったーー!
ありゃ?鷲さん、顔掴まないで。ぶさかわになるから。ね?よく見たら可愛い顔でいさせて、お願い。
「あんなハゲがよいのか?」
「……はげかどうかはあれですが、貴方のほうが見た目はいいですよね?」
「……含みがあるようだが……、ココ。我のことはエンと呼べ」
「エン……様?」
「様はいらぬ」
口調からして偉い人なんだろうな、とはわかるが偉い人との付き合いが一切ないからどんな態度をしていいのか悩ましい。敬語で話せばいい?自虐ネタで鷲さんあげればいい?接待は無理よ?
「恭しい態度とれないと思いますけど……大丈夫ですか?」
「気にせぬ。敬語も不要だ」
衣食住補償、必要な諸経費は随時請求可能。ここはホワイトか!?残業代つくかな?時間制限ない?月10時間までとか言わないよね!?しかし羽毛ふっわふわ。これは許せないふわふわだな。嬉しくて抱きついてしまったら可愛いやつと嘴まで触らせてくれた。ああ、至福なり。頭なでなでしたい。
「………主様が気に入ってくれたので連れてきたかいがありました。それではココ、後のことは頼んだよ」
「はい、お任せ下さい!」
とりあえず、飢え死にしなさそうだし凍えることもなさそうだし、身売りしなくてもよくなったから一安心だー!さて、お世話とは何をしたら良いのか……。本人に聞いてみよう!!
「えっと、エン?」
「なんだ」
「私、貴方のお世話って何したらいいの?」
「ふむ?……村長の番は傷の手当てと日に二度食事をもってきていたな」
やだ、猛禽類って可愛い。キョロキョロして可愛い。もぞもぞうごくの可愛い。大きいから愛玩なんて言えないけど、私が愛玩動物になってもいいかもー!!
「なるほどー!じゃあ傷の手当てしようか!道具はどこ?」
エンが嘴で道具が入った箱を寄せてくれる。入ってる物は包帯にガーゼ、薬……かな?
「傷を洗いたいんだけど、今まではどうやってたの?」
「傷などあらっていなかったな。消毒して薬塗るだけだ」
「……なるほど」
傷は薬塗ってるなら洗いたいし、傷の状況も確認したいわー。
「洗える場所ある?」
「外に水場があるが、足が不自由でな外に出れんのだ」
問題を先送りにしていたけど……。これは医者に見せないといけないやつだ….。さて医者はすぐに呼べるのかな。
「医者に診てもらいました?」
「医者には我は治せぬ。見せてもまともに対応もできぬだろう」
「………なるほど」
手詰まりー!!まぁ、じゃあ、そうね、手当はしようかな。翼は整復したいけどどうやるのかなー!?このままだと固まっちゃうよねー!?誰かー医者を連れてきてー!!
「……よし!まず足を洗って包帯を巻く!」
「腐ってるぞ?」
「……え?」
く、くさってる?腐食?腐敗?え?
「腐肉は食らってるが端からどんどん腐ってゆく」
「……なるほどぉ」
肉を食らってるが、誰が誰の肉を食らってるの?エンがエンの肉を食らっていると!?ははー!さすが白頭鷲!やることがすごい!あれかマゴットセラピーってみたいなやつだね!やるな!?蛆じゃなくて鷲だから……、鷲セラピーだね!患部丸ごと食べられちゃう。無かったことになっちゃうね。
「とりあえず洗って綺麗にする!食べるのはなし!!」
「無しか」
「無し!!」
一先ずタライに水を入れてタオルで洗って、綺麗なブラシもらってそれでごりごり洗ったよ!傷口をきれいにするにはやっぱりがしがし洗うのが一番!麻酔ないと可哀想だけど仕方ないよね!?ちょー痛いけど血めっちゃでてるけど仕方ない!!血が出るのはいいこと!砂とか石とか傷口にたくさんくっついてたし、洗って良かった……。
「……これは新手の拷問か?」
「いや、傷を綺麗にして腐らせないようにする方法?明日もやったほうがいいのかな……」
「我はもうやらなくてもいいぞ」
「でしょうねー。明日傷がきれいになってたらやらない」
呻き声あげなかったのすごいなぁ。私ならまずやる前に抵抗して、やり始めてからもずっと叫んじゃうなぁ。イケメンは違う!中身からして違うのね!惚れてしまうわぁ。
「にしてもひどい怪我だね?何か事故にあったの?」
「いや、良い土地を手に入れようと思ってな。そこの主がいない間に奪おうと思ったが、返り討ちにされてな」
「なんと、自業自得」
「……ここは貧しい土地だからな。特に特産もないし、住んでる者達が気の毒でな」
「そうか」
「人が豊かになれば貢物も良くなるからな。良いこと尽くしだが失敗してしまった。あっはっは」
エンはなかなかすごい性格だなぁ。無意識で恨み買ってそう。悪そうな人には見えないけど、大丈夫かな?貧しいっていっていたけど、芋植えたらいいんじゃないかな?芋。後貧しいってどう貧しいのか。金になる動物とかいれば皆んなで狩って、売って元手を作って次につなげたい。飢えずに暖かい場所を確保できる程度の暮らしができればいいね。この村はそこまで貧しそうには見えなかったけど……。
「エンは悪人なの?」
「好かれるよりかは嫌われてるな」
「ありゃりゃ。後ろから刺さらないでね?」
「ココのことは何としても守るから安心しろ」
不安だわー。無意識で犯罪的なことしてそー。大丈夫かな。
「よし!とりあえず次は羽だ!」
「全く動かんぞ」
「たぶん、骨が外れてるんだと思う……っておもっ」
羽が大きくて持てない!!これは諦めよう……。
「羽は私じゃあ無理だから固定だけするね。ごめん」
「それだけでもありがたい。結構な荷物なんだ」
「重いからね」
にしても羽ふわふわ。胸の羽がふわふわ。もふもふもいいけど、ふわふわもいい!なでなでしながらふわふわ堪能しよう!これの永久機関作ってくれたら買っちゃうー。
「早く良くなりますように」
「そういってくれるのはココだけだな。……初めて会ったばかりなのにココは優しいな」
「嬉しい?」
「ああ、我は嬉しくて堪らないな。こんな気持ちは初めてかもしれん」
動く方の羽で包まれてる……。あったかい。気持ちいい、これ至福。
その日は心も身体もくたくたで、エンの温かい体温にやられてぐっすり寝てしまった。もっとエンと触れ合いたかったのに!!元の世界じゃ猛禽類がこんなにデレることなんてないから役得!?
***
……。
あれ、もうお昼……?まだ朝?
「ようやく起きたか」
「すっごく気持ちよくてぐっすり寝ちゃってたよ」
エンのふわふわマジックは良かった。
「ココはあれか、魔法使いか癒し手か?」
「普通の人間だけど、身も心も癒されちゃった?」
「ふむ?怪我の治りがものすごく良い。何かしたか?」
「神様にお祈り?」
「東の国の祈祷師か?神官か巫女か?」
「ううーん。どちらかというと病院で働いていた……」
「びょういん……?」
「あー病気とか怪我とか治すところ?」
「神殿か?治療院か?」
「……厳密に言うと違うような気がするけど、どちらかと言うと治療院かな?」
「ふむ?」
「怪我人や病人の世話をするのが仕事だったのよ」
エンの話によると足の傷もほとんど傷まないし、羽根も少し動かせるようになっているみたい。何々、私すごいことした?
「この調子だと2、3日で良くなりそうだ」
「良かった!元の巣?家?戻れる?」
「……ココは我のことどう思っているのかわかるな」
「んん?え?主様?でしょ?」
「そうだ。ここら一帯は我が治めている」
「すごいね。王様みたい!」
脱臼をはめずに治す方法が知りたいけど、私がやったみたいだからなー。私が知りたいよー。
「良ければ共に来るか?」
「え?」
「ココは居場所がこの村にはないのだろう?我の側に居場所作ってやろう」
部下になるってことかな?家来?
「仕事をくれるってこと?」
「仕事?うーむ………まあ、仕事といえば仕事かな?」
「仕事?どんなことするの?」
「……我の身の回りの世話かな」
「メイド?」
「メイドではないが……。衣食住完備、我に触りたい放題……」
「やらせていただきましょう」
嬉しくてエンの柔らかな羽毛をもふもふしてしまった。極楽。でも衣食住保証してくれるなんて有り難い。元の世界にもう戻れないのは切ないけど、素敵な出会いもあったし良い雇い主に会えたし良かったよー。
「ココは我の羽が好きだな」
「大好き!ふわふわですべすべして気持ちいい!」
「ココになら幾らでも触っても良いぞ」
「うわー!ありがとう!」
抱きつくと動く方の羽で覆われて、その温もりにホッとする。
「じゃあ行くか」
「え?行く?」
行くって?もう?どこ?
「移動の札術はあるからな。しっかりと捕まっておれ」
「え?え?えーーーーー!!?」
状況把握できないー!!誰か解説してー!何かふわっとするうぅぅぅー!!
***
「ココ?大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
なんかふわふわ消えてるんだけど。
「…………誰?」
「誰とは失礼な。エンだぞ」
「え?エンって鳥だよ?鷲、頭の白くてふわふわ気持ちいいかっこいい白頭鷲。目つきも鋭いかっこいい鳥。貴方人間でしょ?騙されないよ」
「人間の姿もとれるんだ」
「え?」
「え?ではないぞ。全く、しっかり捕まっておれよ」
手大きい……、じゃなくて!?変身したの!?すごい……さすが異世界……?白くて長い髪は白頭鷲の頭が白いから?身体が色黒?褐色?なのは鷲だから?羽はどこいったの?よくわからないけど上半身裸は恥ずかしいんだけど、何か着ないの?服持ってないの?腰巻だけなんて……だれうまぁー!?チラチラ見える太い太もも目の毒だわー!視線外せない!あの腰巻きにお金挟みたいの。誰かお札持ってきてくれない!?
「やはり足元悪いな。ココ大丈夫か?」
「……大丈夫!」
チラリズムからパワー頂けますから!一度死んだ人間にはね配慮なんて言葉はないのよ!見せた者の負けなのよ!
「やはり抱き上げるか。しっかり捕まるんだぞ」
「うわぁっ」
返事聞いて欲しいわー。いきなりやられるとびっくりしてしまうのよ。だ、大胸筋が顔のすぐ横ー!……ここは柔らかいほうがいい。でも安定感あるし、ふわっふわっ進んでる感じで楽しい。電気自動車みたいな感じ?あっという間に到着したー!
「ほら、到着したぞ」
大きな木がたくさんー。あれだ、あれ。あの大きな木のある何とかの森みたいなところだ。水の流れる音癒されるー。
「ここが我の住処だ」
木の中!?木の中が家なの!?なんて素晴らしい!初めて見た!しかもすごく綺麗、広い、木の中なのに。魔法!?これ魔法かな!?興奮しすぎて鼻血でませんように。床絨毯でふわふわでここで眠れそう……。階段付いてる。この中後で見て回っていいかな?
「森しかないところでな。贅沢はさせられんが。我が不甲斐ないばかりに」
「えー!すごい贅沢!もう幸せこんなところで生活できるの!川遊びできるの?森の中は探検できる?自給自足?私何もできないから教えて。こういうところで生活したかったー。幸せー」
「そ、そうか?」
「そうそう!私の前にいたところは自然なんて本当に限られたところにしかなくてね?まあ、そこら辺に草や花やらは咲いていたけど。便利な生活だったしそれに文句言うなんて罰当たりなんだけど、こういう生活憧れだし馴染めるかわからないけど頑張る!馴染まなくても出ていかなくてもいいよね?ここでの仕事頑張るよ!エンの世話って何したらいいの?不器用だけど不器用なりに頑張る!」
「……ふ、ふは、あはは、あーっはっはっはっはっ」
「え!?エ、エン?どうしたの?」
「いやいや。こんなところが贅沢とは思いもせんなんだ。腹が痛いわ。……なんだ、ココには贅沢な所か」
「う、うん。……違う?」
「ここはな、魔物が多くてな。土地もやせて実りが少ない。暮らすにはやや不便だな」
「魔物は売れないの?」
「売れなくはないが安いな」
「牙とか角とか、皮とか骨?」
「ここまで来れる行商が限られててな。手数料が高いんだ」
「……直に売りに行かないの?」
「直に?」
「青空市場?あらかじめ申込みしたり飛び入りできそうなら飛び入りして、そこで売るとか?手数料分儲けるじゃない?……なーんてね?」
あ、新入りが変なこと言って場を荒らす感じ?これやばいかな?エン考え込んじゃった。
「あ、いや、今のなし。なしで!適当に言っただけだから!」
「誰かいるか!」
あ、これ捕まっちゃう?余計なこと言いやがってって感じで捕まるやつ!?だって誰だって手数料無い方がいいって思わない!?手数料高いとか高くてチリも積もればなんとやらでしょ!?
「主。戻られたんですか。あらかじめ連絡いただければ迎えを寄越したものを」
「すまんな。それよりちょっと頼まれて欲しいんだが………」
ひそひそ話始めちゃったよ。暇だなー。あ、窓もついてるんだ。……綺麗な風景だなぁ。暇つぶしできるものないかなぁ。お腹も空いたな。
「……こ、ココ。おい戻ってこい!」
「う、うわぁ!び、びっくりしたー!」
「何惚けてるんだ。これは俺の部下のジンだ」
「可愛いお嬢さん、初めまして。主の腹心で右腕のジンと言います」
あら、細身の美丈夫。笑顔も素敵。
「初めまして、ココといいます。よろしくお願いします」
茶色の髪がぼさぼさだけど、無造作に一本に括られてそれもまた野性味溢れてる感じで素敵。エンとは違った感じ。眼福。
「……なんだ?こういうのが好みか?」
「え?うーん。好み?……ではないかな?目の保養にはなるけどね」
「好みでは無いが目の保養にはなるか?おい、ジン。焼くか刻まれるのはどっちがいい?」
「主。さらっとひどい選択肢出さないでください。ココ様、私のことは心の中で褒め称えるだけに留めておいてください。ええ、切にお願いします」
エンのこと考えて好みでは無いって言ったのに、男心は難しいわね?
「よくわからないけどわかったよ?心の中で言うね?」
「余計なことは反復しないで下さいね?私の命がかかってますから」
「右腕の腹心は大変ね?」
「私以外はこなせませんよ」
よくわからないけどジンの仕事は大変なことはわかった。
「主。何となく状況は把握しました。主のお気持ちやお考えはお伝えしてありますか?」
「……まだだ」
「左様ですか」
「なんだその目は。まだ何日も経ってないから仕方なかろう」
「左様ですか」
「……近日中には結果は出そう」
「ご武運を」
エンの側は居心地よすぎだから忘れちゃうけど、会ってからまだ数日しか経ってないんだよな。そんな相手に自分のことを話すのは良くない。警戒心ないと騙されちゃうからね。色々失ってから気づくと遅いんだなー……。
「エン、大丈夫!私は何を聞いても見ても聞かないふり、見ないふり、そして誰にも何も言わないよ。……言う相手もいないし……、ふふ」
「……ココの頭は良さそうだが何か抜けてるな」
「よく言われるけど大丈夫!」
「……そうか」
何で頭撫でられるんだろう。まあ、好きだからいいんだけど。ああ、こんなに幸せで嬉しいな。前のことはあまり覚えてはいないけど、こんな風に幸せだったのかな。エンの傷が治るように頑張るね。喜んでくれるかな。
***
住めば都。最初はさ、落ち着かなかったけどだんだん居心地がよくなってきたよね。みんないい人だし。美男美女ばかりよ!?眼福。癒されるー!
エンの傷の処置していると、皆驚いてお礼言われるのよ。私もこの治りの早さには驚きしかないよね!?実は私魔法使えるのかしら?呪文考えとく?中2病的なセンスあるものは考えつかないのよ、残念なことに……。だからあれよ、昔から言われている『痛いの痛いのとんでゆけー』これで完璧よ!
エンの足も傷は殆ど塞がって体重かけても大丈夫そうだし、羽もばっちり!飛べるようにもなったけど、まだ違和感あるみたいだからそこは飛んだらだめと伝えているのよ。足も念のため、しばらくは大人しくしてくれるように伝えたのよ!そしたらエンの家来のジンや他の人達ね、机仕事をたっぷり持ってきてくれてね。仕事は何か聞いたらここら一帯を治めているんだって!すごーい!知事!?市長!?町長!?村長!?すごいよね!?すごいすごい言ってたら、仕事が捗るって言ってね?うんうん、膝の上に乗っけられたのよ。笑えるわー。やめて欲しいのよ。本当に。まじで。やめてっていったらジンに『これが定位置です』ってマジ顔で言われたのよ。あれ、降りたら怒られると思ったわ。空気読めた私すごいよね?あ、でもエンに時々頭撫でられるのはいいのよ。とても気持ち良くてね、あれは手から何か出てるに違いない。赤外線的な気持ち良くなるやつ。
ドゴォンッ
「え?何?」
「ったく。誰だ!?」
いきなり壁が破壊されたのよ。良かった……近くにいなくて……。
「おい、こら、おめー。俺様が居ない時によくもやってくれたな!?兄貴いじめたやつぁぶっ潰す!!!」
「心配なら側を離れなければ良いのに。ばかが」
「おめーにばかって言われたくないな!?兄貴んとこが良いとこだからって何度も奪おうとして追い返されて……。もうやんな!!」
「約束できんな。作物の実らぬ土地より実りある土地の方が誰でも良かろうが」
いつものことなのかな?皆一斉に書類持ってひいてる……。あ、おいでおいでされた。行ったほうがいい?
「あ、おい!?女だ!おめー、女仕事部屋に連れ込んで!不潔だな!?」
「一緒にするな。我らはまだ清い関係だ」
「はん。不能か?不能なら兄貴にその女渡してやる。戦利品だ!!」
「我を倒せればな。……下衆が」
羽も足も使わないで欲しいけど……。皆の方に行きたいけど、こんなシリアスなシーンを横切れない!!私の小心者!!あ、皆置いて逃げやがった。女一人置いて逃げやがった。自称右腕めー!!とりあえずもげろ!もーげーろー!!
あー!エン!!そんなに翼ばさばさしたら、また、また悪くなるよ!!飛ばないのはいいけど羽ばたき禁止!!あー!!足首に力入れないで!またぼきっていくよ!?ブラシでゴシゴシしちゃうよ!?
ヒュンッ
ドゴオォォン
………な、ななな何か、何かが通り過ぎた後ろからの風圧すごい。と、飛ばされる……。
「ぶ」
「……大丈夫か?」
「は、はい……」
すんでのところでエンが止めてくれたー!まじ神!感謝!胸板あつっ!色んな意味で心臓ドキドキが止まらない。足上手く動かない。私肝っ玉系だと思ってたのにー!!小心者ー!
「すまんが動くぞ。喋るなよ」
「はい……いぃぃぃいいぃいいいい!?」
いやあぁぁっ!!ジャンプで空飛んでるー!自由落下ー!!心臓がぁー!!口から出るぅ!!フリーフォールゥゥウウゥゥゥッお姫様抱っこ嫌ぁぁぁっ
今度は飛び跳ねてる!あ、ちょっと楽。あ、でもこれ続くとやばいよ?何か未消化か消化した何か出てきそうな予感ー!!
「ゴホッゴホッ」
「もうしばらくの我慢だ」
回し蹴りの衝撃がありがたい。回るのもうだめ。あ、踵落とし決まってる。すごい。エンに攻撃が当たってないのがすごい。
「くそっこの野郎がっ」
「ひよっこの分際で。粋がるな」
「これでも喰らえ!」
ま、ま、ま、魔法だー!!魔法陣たくさーん!すごーい!ー初めて見た!
「エン、あれ魔法……?」
「舌かむぞ。黙ってろ」
興奮が止まらなーい!氷のがでてくる。衝撃がすごい……。土が……。土、降ってくる。う、エンは魔法使えないのかな。使えたら見放題なのに……。
「……いい加減にしろっっっ」
んん??
あれ?氷の刃素手で破壊した……?見間違いかな?
「ふんっ!」
あ、冷たいなぁ。氷の粒が降ってきてる。気持ちいいなぁ。あー、なんか衝撃波か爆風かの風がすごい。髪がぼさぼさよ。素手で氷の塊破壊できるんだ。知らなかった……。人生二週目だけど、長生き?するもんだね。
「効かんな」
「おかしいだろう!?お前魔法使えないんだろ!?素手だろう!?鳥族だろう!?」
敵さん可哀相に。私も今同じ思い。粉砕した塊がこっち来そうになると握り潰したり?蹴り潰したり?するんだよ?避けるのはわかる。ありがたい。助かる。でも違うの。素手よ?
「おかしいのはお前の兄貴だ。盲目なのに攻撃当ててきて……」
「感覚が鋭いから雑なお前の攻撃なんざ当たんねぇのさ」
「お前の攻撃も当たらないがな」
子ども同士の喧嘩みたい……。早く終わらないかなー。
「こっちは豊作だと禿鷹みてぇな奴らが沸きやがって、おめぇみてぇに正々堂々挑む奴らの相手なんざしてられねぇんだよぉ!!」
「ん?それは大変だな」
あれ?攻撃しないのかな?疲れてきた?
「収穫して見回り強化してもあの禿鷹野郎どもがぁ。……今回は半分も持ってかれたんだよ……」
ん?あれ?泣いてる?
「ねえ、泣いてるよ?」
「んんむ。困ったな」
「困ったな、じゃねぇよ!!お前んとこはそうでもないけど、こっちは泥棒をどうすっか……。うぅっうぐっ」
「……我らを雇うか。童よ」
「………幾らなんだよ」
「人や人数によるな。おい、ジン!!」
「はいはい、ただいま」
あ、裏切り者め。忘れないぞ。
「嫌だな。ココ様、そんな恨みがましい目をしないで下さい。戦略的撤退ですから」
「何言ってんだ。商談だ。任せたぞ」
「承知致しました」
何だか不完全燃焼だなー。いいのかなー。敵さんも涙流しながら話し合おうとしてるけど……。
「こういうことって多い?」
「ここはなかなか資源少ないから、我ら自身が資源となる。力は裏切らないからな。わかってもらうには闘うことが一番だな」
「何だか不完全燃焼……」
「向こうも色々と抱えているんだろう。我らには羨ましい悩みだ」
しんみりだね。ここが豊かじゃないのが悩ましいのかな?頭なでなでしてあげようかな?
「やめい、くすぐったい」
「えー、すごく触り心地良かったのにー」
「風呂でも一緒に入れば触りたい放題だぞ?」
「……それは遠慮します」
「くく、初心なのか?真っ赤だ」
ひー、やめてー!!色事は慣れてないんだよあ、!ほっぺ触らないで!いーやー!!あ、身体触るな!
「ほら真っ赤だし、熱いな。可愛いな」
「も、もうだめ!お触り禁止!!あ、どこ触ってるのよ!?」
「減らぬだろう。少し触らせろ。可愛いココをたっぷり愛でさせてくれ」
いやーーーーーーーー!!!
***
連峰連なるその峰には昔から戦好きの鳥族が住うという。その峰は、実りは乏しいものの、魔物を高値で取引しているという。一時は、行者に格安で卸していたが、自らが市場で取引するようになると市場価格よりも安く手に入ると評判になった。ただたまにしか見かけないため、安定供給には程遠いという。鳥族にとっては、以前よりも収入が向上したので、皆一様に喜んでいるという。
そして排他的と言われる鳥族には、その長が猫可愛がりしているという人間の妻がいるという。囲い込まれているため、その姿は滅多に見せることはなく、姿を目に入れたものは、長に目を潰されると密かに噂されている。
「実は俺もあいつの番の姿を見て目潰されたんだよ」
そう言っていたのは狼族の長。確か彼の目は以前から盲ていなかったか、と思う者も多いが、彼も滅多に人前に姿を見せないから判断がつかない者も多い。
だからか、
「鳥族の長の番を見た者は目が潰れる」
そんな噂が流れてしまった。そしてそんな噂をたまたま耳にしたココは、噂とは怖い、としか思わなかった。噂を払拭するには時が経ち過ぎているし、そこまで人前にも出ないし必要性を感じなかった。
エンはここぞとばかりに、ココの囲み込みを強め周りが眉をひそめるほどの溺愛ぶりを発揮した。
そんなこと全く気にしなかったココは、前の世界で培った知識を鳥族のために提供した。使えるもの、使えないもの、アレンジか必要なもの、様々あったがココは求められて幸せだった。
高野 梢は第二の人生もそれなり、いや、最初の人生よりも充実して過ごすことができた。神なんて信じてないけど、神に感謝してエンの重い愛を受け止め、返しきれずに日々を過ごしたのだった。
《登場人物》
高野 梢「ココ」
最初の人生を大往生したけど、何故か転生した女の子?
実は癒しの魔法を使えるけど気づかないまま。前の世界の知識で無双だぜ!!って思ったけど、結局よくわからないのと使えずに、提供した知識0.5割そのまま使用、0.5割アレンジして使用、残り9割使用できずという結果。惨敗しエンに慰めてもらった。ときめきは前の人生でおいてきた(と思ってる)おっさん系女子。
名前は何となく隠したかったから隠してそのままになってしまった。言い出せなかったのと、気にしてなかったのと両方の理由から。
エン
鳥族の長。
ココの癒しの力に最初に気づく。本人には言っていない。
溺愛執着系。常にそばに置いておかないと不安。人間は脆くて弱いと思っているのもあるが、ココのこと大好きだから。人目を憚らない。戦い好き。あっちこっちに挑んで、時々今回のように仕事につながる。
ココの名前は婚姻時に本名ではないと知り、あの手この手で聞き出した。
ジン
エンの部下。鳶。
エンのココへの執着の一番の被害者。時々毒吐いたり、エンやココを囮にして自らの被害を最小限にしようと頑張っている。
本当は悪い人との恋愛模様的なものを書きたかったけど、違う方向にいってしまった。
読んでくれてありがとうございます。